動乱の主役は中国

1.米国の迷走
 米国の国防長官は4日の日本の防衛大臣との電話会談で、日本が「周辺国との関係改善」に取り組む重要性を強調し、地域の平和と安定という共通目標のため、日本側が近隣諸国との関係改善に方策を講じることが重要だと指摘したという。理不尽な話だが、米国から見れば、かねて中国や韓国に主張してきたように日本に対する「重し」の役割を果たしているつもりなのかもしれない。
 もちろん日本としても中国、韓国に対し、関係改善はこれからもずっと呼びかけ続けていくことになるだろう。次回のAPECは秋に北京で開かれるため、中国の我慢できる年内参拝を考えたともいう。
 ただ中国・韓国の儒教文化と日本の文化は同じではない。端的には死生感が異なる。また彼らには日本に対する抜きがたい劣等感と優越感がある。誇り高きイスラムとヨーロッパの関係には不毛の対立があるのと似ているという人もいる。 12月26日に何が起きたのかというと、日本の首相が官邸に近くにある自国の戦没者の慰霊施設に行って、この1年の報告とともに世界平和を祈ったのである。どこに問題があるのか理解できないほど、米国は劣化したのだろうか。
2.動乱の主役は中国
 アジアの動乱の主役は誰が考えても中国だ。中国を攻めようとする国などどこにもないのに、中国は防衛費を毎年10%増やしてきた。それは「世界最強の覇権国である米国が、日本を基地として東アジアに進出し、中国の影響力を封じ込めようとしているので、日本の大国化を阻止しつつ、できれば平和的に米国の覇権をくつがしたい」という中国の長期戦略であり、見果てぬ夢である。江沢民は2004年12月に「長期的な敵は米国、中期的な敵は日本、当面の敵は台湾独立勢力である」と明確に述べていた。権力交代と内部闘争はあってもこの方針に変わりはない。
 世界にとって困ったことは、中国という大きな国には方向転換するための舵がついていないことである。日本がどんな政策をとろうとも、彼らの必要によって反日デモは行われ、彼らの必要によって日本は批判されるのである。慰安婦問題と南京虐殺の化けの皮がはがれ始めると、今度は第二次大戦の戦勝国キャンペーンを始めた。本当の問題は、彼らは内政上の問題から国民の目をそらすために、外に敵を作りたいのである。
 そして長期的な拡大戦略とも合致する尖閣諸島と沖縄が彼らのターゲットとなった。昨年末には、南シナ海を中国の戦略原子力潜水艦の聖域とするために、海南島三亜に空母「遼寧」を配置した。しかしこの空母は能力に制約があるものの、三亜の航空基地からカバーできなかった南シナ海の南部の制空権を手に入れる目的だという。
 評論家の加瀬英明先生は国際関係について洒脱な法則を考えるのが上手い。その中に「全体主義国が夏期オリンピック大会を主催すると、9年後にかならず崩壊する」という予言がある。ヒトラーナチス・ドイツが1936年にベルリン大会を催したが、9年後の1945年に消滅した。ブレジネフ書記長のソ連が1980年にモスクワ大会を行ったが、9年後の1989年に「ベルリンの壁」が倒壊した。北京オリンピックは2008年だったので、中華人民共和国は2017年に崩壊するというという予測である。
 心優しき加瀬先生は、これに韓国の事例を加えられなかったが、大統領権限の強い韓国にもこの法則があてはまるのではないか。1988年にソウルオリンピックを開催した韓国は1997年にIMF管理となり、欧米資本の草刈り場となった。
 話を中国に戻す。日本のメディアはあまり報じないが、中国では、既に大きな混乱が起きている。チベットやウィグルでは厳格な報道管制がひかれ、西側の記者は入れず弾圧が続いている。バブルの崩壊、環境の悪化、水不足、労働賃金の高騰、暴動の多発、権力闘争の激化とその根拠を挙げればきりがない。
 ちょうど1年ほど前に、中国のジニ係数は2012年に0.61となったという調査結果が中国の有力大学から発表された。中国政府はすぐにこれを否定したが、1980年代初頭までジニ係数は0.3以下だった。2000年には0.412と国際警戒線を上回り発表されなくなっていた。ジニ係数だけを見ても投資不適格だし、いつ暴動内戦が起こっても不思議ではない。
 2008年の北京オリンピックとその後のリーマンショック対策の公共投資が決定的だった。人の住まない幽霊都市を幾つ作っても、その時のGNPにはなっても経済成長力にはつながらない。会社を運営している人たちは、共産党政権や軍の幹部の子弟なので、銀行はお金を提供し続けるしかないようだ。そんな経済が長く続く訳がないのである。
 ここ1-2年の中国軍の行動をみていると、何をするのか予測がつかない軍人さんの存在が指摘されている。多くの人がいうように、おそらく尖閣諸島で武力衝突が起こるだろう。自衛隊には奪還する能力があるのだろうが、その前に尖閣諸島下地島空港石垣島空港の守りを固めるべきなのだろう。中国が内政に行き詰れば行き詰まるほど、武力で外に出てくる。通常兵力でかなわないとなれば、核兵器で脅してくるだろう。その時、米国が動けない可能性もあり、我々は、それも踏まえて自立して考えなければならない。
 中国の混乱・崩壊は、日本にとっても良くないニュースである。影響を受けずに無傷でいることなどできるはずもない。10万人を超える在留邦人の安全確保も課題となるが、基本的には自己責任で行動してもらうほかはない。
 昨年はトヨタもホンダも中国市場で車が良く売れたという。世界で売れているのだから当然と言えば当然だが、日本企業の投資の急減に中国側が驚いたことにも、その要因にあるのではないだろうか。もっと考えなければいけないことは、中国の今後のことである。中国の今後は中国の人たちが決めれば良いことだが、中国の分裂と内戦がどのようになるかについて予測し、方針を決めて具体的に準備をすべきだろう。
 南北朝鮮は、中国の変動をもっと直接的に受けるだろう。北朝鮮瀋陽軍区との関係が密接であり、失脚した薄熙来もそうだった。東北三省3億人をベースにした瀋陽軍区には、ロシア、モンゴル、北朝鮮国境6千キロを警備するために人民解放軍の陸軍の戦闘力の70%が所属し、核兵器だけがないとされている。大気汚染を口実にして、時として北京からの首都移転が主張される。北京と瀋陽軍区の距離が150キロと近すぎることもあるのだろう。
 人民解放軍には1920年代に割拠した軍閥の気質がまだ残っており、多くの分裂と内戦のシナリオにおいて、瀋陽軍区の動向が注目されている。共産党が無くなれば、国内をコントロールする力はどこにもない。日本は守りを固め、この分裂と内戦に巻き込まれないように、慎重にそして素早く準備しなければならない。
 *7大軍区: 瀋陽、北京、済南、南京、広州、成都、蘭州