新しい道徳教科書

 渡部昇一先生が会長をされている道徳教育を進める有識者の会が編集した「13歳からの道徳教科書」が扶桑社から2月10日に発売されている。大人が読んでも「美しい」と感ずるような話を子供たちに伝えたいという思いで作られたという。なるほど面白そうだ。パイロット版とのことなので、これで本格的に教科書として採用を検討するためのモノなのかもしれない。
 実は教育勅語に感動し、戦前の修身の教科書の復刻版を読んでから、今ならばどんな人を取り上げるべきかと考えるのかと時々考えていた。どんな人のことを修身の授業で教えたいかということは、自分のことを棚に上げて、それぞれの個人には、いろいろな意見があると思う。
 石原新党の「新しい教育勅語を」という主張はわかるが、新しいものを作るのはかなり難しい。勅語自体、天皇陛下のお言葉となるので、様々な論議に巻き込むことはできない。起案するにしても井上毅のような人はもう得難い。それに何よりも井上の考えた勅語の7つの条件は今でも全く問題がなく、世界の道徳教育の方針となった事実がある。①それを国民に強制しないこと、②信教の自由を侵さないこと、③良心の自由に介入しないこと、④政治の思惑に巻き込まれないこと、⑤儒教キリスト教などの考え方にとらわれず東洋・西洋を越えた不偏不党の教育の指針であること、⑥これをしたらいけない、あれをしたらいけない、などのせせこましい言葉ではなく大海の水のような言葉でなければならないこと、⑦宗派争いを助長したり巻き込まれたりしないものーーーこうした条件の勅語ならば、むしろそのまま使うべき伝統の一つだと考えている。
 渡部先生たちの新しい道徳の本は、37の話で構成されている。
1 橋本左内
2 山口監督と伏見工業高校ラグビー
3 吉田松陰
4 熊沢蕃山と中江藤樹
5 シベリアからの遺書
6 奇蹟のリンゴ
7 なりたいものになるために
8 ヘレン・ケラーが目標にした日本人 塙保己一
9 私が二十四歳のときにかいた恥〈草柳大蔵
10 千人の体を洗う――光明皇后
11 アンドリュー・カーネギー
12 牧野富太郎とその妻
13 西郷隆盛
14 本田宗一郎
15 マザー・テレサ
16 最後のひと葉〈オー・ヘンリー
17 風景開眼〈東山魁夷
18 生命のふしぎ〈村上和雄
19 恩讐の彼方に菊池寛
20 十七条の憲法――聖徳太子
21 イギリスの学校生活〈池田潔〉
22 米百俵――小林虎三郎
23 村に来た人たち〈藤沢周平
24 「葬式ごっこ」――八年後の証言
25 橋をかける〈皇后陛下
26 佐久間艇長の遺書
27 二宮尊徳
28 「町工場」の底力〈橋本久義
29 オフクロへの小遣い〈ビートたけし
30 仰げば尊し藤原正彦
31 稲村の火 濱口梧陵
32 上杉鷹山
33 盛田昭夫
34 最後の授業〈ドーデ〉
35 天皇の祭祀〈渡邉允〉
36 エルトゥールル号救出
37 国際人としての日本人――福沢諭吉
 なるほどという選択だ。異論があるわけではない。多くの人に知ってもらいたい人たちだ。橋本佐内と吉田松陰が入っていて西郷隆盛聖徳太子光明皇后上杉鷹山本田宗一郎盛田昭夫。全く異論がない。自分だったら、良い政治家が育つ可能性にかけて、仁徳天皇の「国見の話」を加えたい。
 エル・トゥールル号に似た話は日本各地にある。でもその後のトルコ航空の恩返しの話もぜひ後世に伝えたい。戦争を賛美するわけではないが、乃木将軍や栗林中将さらには、回天特攻隊の話も教えたい。イギリスと世界の潜水艦学校で教えている佐久間艇長と乗組員の話、似た話は東日本大震災にもあった。悲しい話だけれど輝いている。