内憂外患 イラン制裁2012年2月

 自衛隊南スーダンPKOの第2陣が派遣され合計170名がジュバで活動を始めたことが報じられた。南スーダンにおける中国の影響力の大きさもテレビで初めて大きく報じられた。日本のメディアのアフリカや中東に対するカバーは貧弱であり、中国が南スーダンだけでなく、アフリカの資源保有国全体に浸透していることはまだあまり報じられていない。
 しかし優れたジャーナリストもいる。東京新聞の五味洋治氏が北朝鮮金正男氏への取材をもとに出版した本が売れている。「金正日が息子たちへの権力の世襲を考えていなかった」という事実は専門家にも驚きだったようだ。日本海側では大雪が続いている。とすると大陸では雪解け水も少なくなり、東アジアの穀倉地帯での干ばつが続くのかもしれない。
 ミャンマーでカチン族が国軍に追われて難民となって1万人が中国雲南省流入していると報じられている。しかし元々、中国の雲南省には13万人のカチン族が住んでいた。こうしたことの裏側にある真実を知ることが、自国の国際的な情報機関が必要な所以だ。というのは欧米が経済封鎖を始めた1989年からの23年間に中国はミャンマーに我が物顔で進出していた。パスポートや住民票が発行され、マンダレーでは人口が増えて、進出してきた中国系の人たちとミャンマーの人々の対立が報じられたこともあった。また近年の中国のダムの建設にしても、アフリカの国々でのやり方をみていると、資材も人も中国から持っていくのが通例であり、それに食堂の人々もついていくし、武装した警備会社もついていく。建設が終われば現地に中国人が住みつくのも通例だ。だからなかなか真実はわからない。
 昨年方向転換して西側の援助を得ようというミャンマーが、あえてこの時期に、自国の少数民族を追い出すとは考えにくい。むしろ、かつてベトナム戦争が終わってから、ベトナムからボートピープルが難民となって逃げ出した時のことを思い出した。ボートピープルは、ほとんどが中国系の人たちだった。植民地時代にベトナムの経済と流通を握っていたという背景があった。目の前で起きている現実はどの時点から歴史を見るかによって、かなり異なった風景となる。
 先週、イスラエルのバラク防大臣が日本を訪れ、イラン制裁の強化を求めてきた。35年間、軍務を務め最高位の中将まで昇進した後、政界に転じ国防相、首相を務め、シャロン首相に敗北してから6年間政界を引退、2007年から再び国防相を務めている方だ。なぜこの時期に日本にいらしたのかについて日本ではあまり論じられないことが気にかかっている。「ホルムズ海峡に自衛艦を」という米軍高官の要望に、どう対応する気なのかを確かめに来たのではないかというのが自分の見方だ。
 18日にイラン海軍の駆逐艦と補給艦各1隻がスエズ運河を越えてシリアの軍港に入ったという。それにより、イランはシリアのアサド政権への支持を明確にしたというが、それ以上にイスラエルに対する牽制の意図があると思われる。今まではエジプトのムバラク政権がスエズ運河の通過を認めてなかった。シリアの問題とイランの問題はつながっている。シリアで起きているのは、市民紛争というより周囲のスンニー派の国々からの武装兵力が流入している状態だという。これにイスラエルの問題、エネルギー問題、中東各国の国内の勢力争いが絡むのでわかりづらい。
 イランは長い歴史を持つ国である。インド、中国、パキスタン、ロシアの核兵器に囲まれ、イスラエル核兵器を持っているとされる。イラクが米国に占領されるのを見ていれば、なんとしても核武装しなければならないとイランの人は考えるはずだと周りの国でも多くの人がそう考えている。事実として核武装の証拠はないが、数ヶ月後にはその可能性があるとして予防的に経済制裁をかけられている。北朝鮮とも縁が深い。イランは、世界の原油天然ガスの埋蔵量でそれぞれ世界第二位の資源大国であり、なぜ原子力を開発する必要があるのかというのだ。
 予防戦争を正当化するためには、「危機が差し迫っており、今行動を起こさなければ将来恐ろしいことになると人々を信じさせ、戦争のコストと危険性は大したものではないと説得する」ことが必要だという。仮にイランを空爆し核燃料濃縮工場を爆撃しても、地下にある工場と技術は生き残り、核武装の危険を取り除くことはできない。効果を確実にするためには地上部隊が入って占領しなければならないはずだ。サダム・フセインイラクは人口30百万人の国だったが、そこを占領するのに、15万人の国連軍と18万人の民間警備会社が投入された。イランは人口75百万人の国であり、中国とロシアがついている。占領に同じ比率で人員がかかるとすれば、民間の警備会社も含めて80万人は必要だという計算になる。そうなれば、ことは米国一国では済むはずがない。しかもイランを占領することによって、事態は好転するかといえば、おそらく、そうしたことはなく、かえって世界は危険なものになる可能性が大きい。
 しかし万が一、ペルシア湾の米軍艦船への攻撃が行われたり、ホルムズ海峡が封鎖されたりすれば話は別になる。世界経済への影響が大きく、イランは国際的に孤立せざるを得ないと思う。謀略も含めてそうした偶発的な事件が起きないことを願っている。