政権座礁と予防戦争の法理

1.無様な政権座礁
 デフレを放置したままの増税一辺倒の不人気に耐えかねて、民主党政権は大きな政策転換を発表した。日本銀行は2月14日、消費者物価1%を目処とするインフレターゲット政策が導入され金融が緩和された。合わせて政府は、低所得者への反対給付することを理由に新たに納税者番号制度の導入を閣議決定し、年金制度では低所得者への給付が拡充されるとのことである。
 全体としての政策転換は当然のことと思われるが、とってつけたような政策転換に追い込まれたことは、政策全体が検討不足であったこと、計画能力が無いことの証明となった。しかし納税者番号の導入自体、消費税の導入や増税と同様の大きな論議を引き起こすことが予想されるために、議論には長い時間がかかりそうである。
2.誠意ある事前協議
 13日の予算委員会で、昨年夏の補正予算を通す際に、民主党が、自民党公明党と、高校授業料無償化と農家の戸別補償についての政策効果検証と平成24年度予算への見直しを行うことを約束し、そうした「事前協議」を約束したにもかかわらず、それ以後約束を違えて全く無視されていたことが、自民党下村博文代議士の質疑で明らかにされた。穏やかな中にも迫力のある追求だった。税と社会保障で「事前協議」を要望していた政府与党は、面目を失い、予算審議が中断してしまった。
 論理的には、自民党公明党に、謝罪し修正協議を受け入れ、何らかの予算の組替えを認めざるを得ない状況にある。
3.予防戦争の法理
 イランのホルムズ海峡封鎖に備え、自衛隊が対処計画の策定に入ったという。あらゆる事態を想定して準備を進めるのは当然である。原油輸送のタンカーを警護するため海上警備行動に基づく護衛艦派遣と、軍事衝突後の戦後処理で機雷を除去する掃海艇派遣の2案があるというが、首相は、「戦闘状態のときは限界があるかもしれないが、その前後にできることを」考えるという。
 しかしイラン海軍を相手に、海賊を前提とした海上警備行動には無理がある。イランが中距離弾道ミサイル保有していることを踏まえ、ミサイル探知能力の高いイージス艦の派遣も検討しているというが、正気だろうか。
 過去の自衛隊の機雷除去は戦闘行為停止後の「遺棄機雷」に限定されていた。戦闘前や戦闘中の段階ではイラン軍が「作戦行為」としてまいた機雷を他国が除去すれば、それ自体が軍事施設への攻撃とみなされる可能性がある。仮にイラン海軍が攻撃してきたときの交戦規程はどうするのだろうか。イランの領海領土を侵すべきではないことははっきりしている。同時にタンカー自体の警備警戒は必要であり、不測事態に備えるために自衛隊士官の同乗と重武装ではない警戒船の同行は可能であると考える。
 それよりも既に主権が侵害されている韓国からの竹島の奪還、核ミサイルの存在を誇示し拉致を実行した北朝鮮への軍事圧力・被害者の奪還が先ではないのだろうか。防衛大臣は何と答えるのだろうか。外務大臣はどこに行ったのだろうか。日本の領域における集団自衛権は行使すべきだが、しかし予防戦争に加担はできない。イラク戦争の開戦理由の変遷を考えれば、予防戦争の法理にはにわかには乗りがたい。むしろ米国政府の穏健派とともに、イランの国際社会への復帰と中東の安定ための努力に全力をあげるべき時と考える。

戦時
1.主要都市などの重要地点の攻撃
2.工業地帯などの国家の重要地域の攻撃
3.軍事施設の攻撃
4.限定地域(海域)外の軍事施設・艦艇などの攻撃
5.限定地域(海域)内の軍事施設・艦艇などへの攻撃
準戦時
6.防衛(交戦)海域などの設定
7.海上封鎖などによる経済的圧迫
8.対象国に向かう船舶などの臨検・抑留・拿捕
9.対象国にとって重要な地域(水域)陸海空路の封鎖
10.対象国周辺への軍事力の集中・展開
平時
11.艦艇の配備・編成替えなどによる意思の表示
12.武器の売却(譲渡)・教官派遣・留学生の受入による友好関係の拡大
13.共同訓練による友好関係の増進
14.災害救助・医療支援・測量支援のための軍隊の派遣
15.艦艇・部隊などの相互訪問・国家的行事への参加