尖閣・沖縄侵攻の危機 

1.どんぐりの識別基準
 西村眞悟さんのブログが抜群の切れ味だ。「どんぐりの識別基準」は秀逸だった。彼は、この重大時局に、民主と自民が内向きの代表選挙をしていると怒っている。以下の問題に対して何も発言しないのは、国家と民族の危機における責任感、使命感の欠落だという。民主党の候補は具体的に何も言わず、自民党の候補者にしても、安倍さん以外はほとんど同じとみている。
(1)尖閣諸島および沖縄を如何にして守るのか。
(2)北朝鮮が拉致した国民を如何にして救出するのか。
(3)村山富一談話、河野談話そして日韓併合百年菅談話を捨てるのか捨てないのか。
(4)国家の百年先を決定する教育を如何に立て直すのか。
(5)如何にしてデフレから脱却するか。
 答えはどうか。彼は、一点から四点までは、戦後憲法体制では対処できないので、速やかに廃棄して「真の立憲主義」に戻る事がまず必要という。デフレ脱却については総需要を喚起し財源には政府の通貨発行権を使うべきと明快だ。彼は、この秋から初冬にかけてが一番危ないという。何の判断もできない、優柔不断で見通しの悪い内閣では、誰から見ても危なくて仕方がない。
 二党の代表選挙についてテレビ等で報じられたものを見た個人的感想を記すとすれば、民主党は4候補の主張がとても同じ政党とは思えなかった。首相にできることは、もはや解散だけだという見方に改めて納得した。自民党総裁選の5候補の話も見るには見たが、都知事を首相にしたかったと思う人間ではあっても、息子の石原幹事長に何故人気があるのかがわからなかった。
2.再現される満州事変の本質
 9月16日の西村眞悟さんのブログ「満州事変と現在の反日暴動」も示唆に富む。事実として、中国の反日運動はこの数日間で確実に激化している。政府公認の運動であり宣伝戦の一環だ。今回は特にそれがわかりやすかった。通常それが政府批判に転じない限り押さえ込まれることはない。支那におけるデモは、暴動に転化し暴力を以て日本人襲撃に至るパターンは、この百年間変わっていない。日本人は、抵抗しない相手に執拗な攻撃を続けない。しかし支那人は正反対で相手が抵抗をやめた時点から執拗に攻撃を始める。歴史を回復しなければ、中国共産党の宣伝戦に勝てず、反転攻勢に出て世界に我が国の正当性を伝えることはできない。反日暴動のおかげで、満州事変の本質が実写フィルムのように再現されているという。
 一見極めて乱暴で誤解されやすい意見だが、淡々と事実と論理をたどっていくと、深い学識と先見性にあふれている。
3.反日デモと権力闘争 「反日の英雄としての中国共産党」という神話
 中国の反日デモは、史上最大の規模となったいわれ、100以上の都市に広がっているという。映像・画像での報道は制限されているようだ。北京、西安、長沙、青島などではデモの一部が暴徒化したという。参加者は日本車や警察車両を棒や椅子などで破壊し、青島のイオンでは放火や商品の略奪などが起こり店舗設備もメチャメチャになった。ネットを通じた報道では、現役の警察官と軍人がバスでやってきて私服でデモに参加していることが目撃されている。現地からはデモではなくて略奪・破壊・テロと表現すべきだとの報告がなされている。格差是正のシンボルとなっている毛沢東の写真を掲げているグループも観察されている。今回の反日デモの原因を尖閣諸島国有化への反発や、満州事変のきっかけとなった1931年9月18日の柳条湖事件との関係で説明するメディアもあるが、それには無理がある。
 文化大革命天安門事件に匹敵したという今回の中国共産党内部の権力闘争の影響があるのではないか。薄煕来氏の事件をその視点から見てみる。重慶市のトップを務めていた薄煕来氏は、今年になって突然失脚した。発端は、かつて右腕だった側近がアメリ総領事館に駆け込むという事件だった。その後、妻らの殺人事件、巨額の汚職など、重大な規律違反があったとして党の職務を停止され、政治の表舞台から姿を消した。
 薄氏は、かつて父親が副首相を務めたいわゆる「太子党」の出身だ。父親の影響力もあり、40代前半の若さで大連の市長に抜てきされ、改革開放路線を推し進めて、目覚ましい経済成長を達成して、その後も順調に出世街道を歩み続けてきた。ところが、5年前北京から遠く離れた内陸部の重慶に赴任を命じられ左遷された。そこから話が始まる。中央に戻り最高指導部入りを果たしたい薄氏は、不満を募らせる庶民を味方につけ指導部入りを目指そうとした。庶民向けの家賃の安いアパートの建設し、庶民を苦しめていた暴力団を摘発した。そして庶民の人気を引き付けようと、毛沢東時代の革命歌を歌うキャンペーンを始めた。皆が貧しいけれど平等だった当時の精神に立ち返ろうと呼びかけた。「毛沢東の時代は格差や腐敗がなく、政府が庶民のために奉仕していた(と教育されている)」ことを想起させた。現在の中国社会が抱える矛盾を逆手に取って、支持を広げたことが、最高指導部の危機感を強めたといわれている。今年になって、膨大な数の犠牲者を出した毛沢東氏の文化大革命にまで言及し、薄氏の批判が始まった。温家宝首相は「文化大革命のような歴史的悲劇が再び起きる可能性がある。重慶市は反省し、教訓を学ばなければいけない」として、その翌日、薄氏を重慶市トップからの解任し、その後、薄氏を巡るスキャンダルが一斉に噴出し始めた。格差に焦点を当てて最高指導部入りを目指した薄氏の野望は打ち砕かれた。
 薄氏の後ろには、共産党の中でも比較的、共産党高級幹部の子弟が多いとされる軍閥の伝統を持つ人民解放軍の支持があり、江沢民派とされている中央政法委員会という情報、治安、司法、検察、公安などの部門を担当する周永康氏と、思想・宣伝部門を統括する李長春氏のグループの支持があったとされている。現在進行中の権力闘争であるため、まだ真相はベールに包まれている。習近平氏が、半月の療養生活から公務に復帰しつつあるようだ。秋の党大会に向けての人事も最終的に妥協が成立したと報じられ始めた。
 しかし問題が解決したわけではない。評論家の石平さんの天安門20年を扱った「中国大逆流」(09年KKベストセラーズ)を読んで、2年前に「万博後の中国経済に異変はあるか」(2010年10月)というブログをまとめた。石平さんの論理をこう要約した。天安門民主化運動で打ち出されたのは、「民主化要求」、「腐敗反対」の2つだった。それは根っこで絶対的な独裁権力の打破があった。1989年6月末までに2000名が逮捕され8名が処刑された。中国共産党は、人民のための人民の政権という正当性を主張できなくなった。1991年1月から2月、訒小平が動き出す。「南巡講話」で社会主義国家である中国における市場経済への全面的以降に大号令をかけ、「経済成長と繁栄」を共産党独裁の正当性の根拠をしようとした。しかし「反腐敗」には一言も言及しなかった。結果として腐敗、売官は横行し貧富の格差も拡大した。共産党は、既に労働者と一般民衆の支持を失っている。設備投資、インフラ投資、輸出の拡大のみを重視し、従来は国家が保障していた公的医療などの福祉制度は悉く廃止されている。
 そして、天安門事件の後、江沢民は、若者が共産党に反抗することがないように愛国教育を実施し、「中国人民が軍国主義の残虐な日本に苦しんだときに、人民を開放したのが中国共産党であり、それゆえに共産党の指導に従わなければならない」と強調し、共産党支配の正統性の源泉を反日に求めたことが、若者たちの反日意識を育成することとなった。
 それから20年たって、格差と腐敗は極限に達し経済成長にはかげりが出た。そしてエリート層ほど競って海外に資産を送金し移住を始めている。残っているのは「反日の英雄としての中国共産党」という神話だけだ。
4.尖閣・沖縄侵攻が始まった。
 呆然としてなすすべのない日本政府にたまりかねて米国から国防長官がやってきて「日中武力衝突」を警告した。尖閣諸島がとられれば、台湾と沖縄が危なくなる。嘉手納基地に配備されているF22戦闘機12機に加えて様々な理由で戦闘機が増派されている。18日には自衛艦隊が尖閣諸島方面に急派されている。既に中国海軍は数日前から東シナ海で軍事演習を開始していることが報じられている。休漁期間あけの漁船1000隻が尖閣諸島に向けて出漁した。
 既に、ここ1−2ヶ月、中国人民軍の現役の将官クラスが、釣魚島(尖閣諸島の中国名)に関しては日本側に必ず、行動で見せてやらなければならないが、問題の視野をさらに広げて沖縄の中国への帰属問題を正式に議論しなければならないと言い出した。沖縄は本来、琉球という王国だったが1879年に日本が強制的に占領し、日本に組み入れた。(事実としては1872年に琉球藩が設置され、1879年の沖縄県が設置された。)これによって琉球王国は滅びた。そのうえで琉球がどの国に帰属し日本がいかに占領したのか、詳しく見なければならないと強調し、結論として「日本は琉球から退くのが当然だ」と主張し始めた。
 自分は7月に「中国の危機は尖閣の危機」という仮説を持つに至った。中国で政権交替期特有の権力闘争が行われていると同時に、指導部自体が危機感をあらわにし、危機が潜在的な危機から現実的な危機に変わったこと、中央の方針と政策が地方で十分に執行されていないこと、地方政府が勝手に権力を拡大・濫用していること、地方経済の悪化や住民との関係が悪化していることを気にしているからだ。今まで経済成長で隠れていた社会の歪が、バブルの崩壊、公害問題の深刻化、腐敗汚職の蔓延もあって、表面化してきているのではないか。ベタ記事に注目すれば、反日暴動が起こる前から、ずっと連日のように中国各地で、暴動やストライキ、武力衝突が起きていることが報じられている。チベットやウィグルでの弾圧も報じられていた。
 こうした混乱の中では国民の眼を外に向けようとするのは、ありがちなことだ。既に中国では、日本との戦争が起こるかどうかという、新聞アンケートが取られ始めている。大規模漁船団を派遣して日本の反応をみようとしている。どんぐりの識別基準の最初の設問「(1)尖閣諸島および沖縄を如何にして守るのか。」が早速現実に問われることとなった。がんばれ海上保安庁、がんばれ自衛隊。そして、がんばれ日本。