兵法三十六計を学ぶ 趁火打劫の計

 中国の兵法書は戦わずして勝つことを理想としている。武力を使えば敵も味方も損害は免れない。だから外交交渉によって相手の意図を封じ込める。謀略によって相手の力をそぎ内部崩壊に導くという。兵法三十六計は作者、成立年も不明だが、柔軟で無理がない現実的な戦い方を教えるものとして国家戦略や経営を考える際の指針として読まれてきた。論語と違う中国の姿が浮かび上がってくる。
 尖閣諸島における領海侵犯事件は、今日になって中国首相は即時無条件、釈放要求をしたとの新華社通信の報道がある。普天間問題で日米関係がギクシャクし、民主党代表選で民主党が二分され、政治の空白が生まれたときに、そこにつけこんで、意図的に漁船団を進出させ、そのうちの一艘が日本の巡視船に体当たりしてきた。日本の外相はあえてビデオを公開せず、偶発事故として取り扱おうとしたが、中国は居丈高に制裁を行うとしている。日本企業に対する嫌がらせも始まった。やはり中国は共産党独裁の国だった。靖国問題と違い、日本が容易に謝罪しないため、驚いているふしが見受けられる。
 この9月行われた与那国町議選では自衛隊誘致派が多数を占めた。また本年度策定される防衛大綱では南西諸島の防衛を主目的として陸上自衛隊で13千人の増員が検討されている。このまま防衛費削減を続けていくと5年後には、日本における制海権、制空権とも中国にかなわなくなるという。今回の事件で、ほかのアジアの国々と同様、日本も防衛費を積み増さざるを得なくなったとみる。
 中国が事件をエスカレートさせたい本当の理由は何か。もしかしたら、バブル崩壊に耐えるために外に敵を必要としているのかもしれない。三十六計をみていて、そんな気がしてきた。こんなときに、ちゃんとしたインテリジェンス機関があるかないかの差が出てくる。冷静に、臨機応変に準備しておくことの重要性を痛感させられる。特派員を人質にとられている日本のマスコミは相変わらず「巡視船との衝突事故」と変な表現を使っている。

1.瞞天過海(まんてんかかい)「てんをあざむいて、うみをわたる」
巨大な嘘ほど、ばれ難い。相手がまたかと油断した時に一気に行う。
2.囲魏救趙(いぎきゅうちょう)「ぎをかこんで、ちょうをすくう」
趙の邯鄲が攻められたとき、趙は斉に救援を求めたが、斉は魏の大梁を攻め趙を助けた。
3.借刀殺人(しゃくとうさつじん)「かたなをかりて、ひとをころす」
相手の内情の矛盾を突き、敵の敵を利用して勝つこと。
4.以逸待労(いいつたいろう)「いつをもって、ろうをまつ」
しっかりと準備して守りを固めて、相手が疲労するのを待つ。
5.趁火打劫(ちんかだきょう)「ひにつけこんで、おしこみをはたらく」
相手の弱みにつけこんで、押し込み強盗を働く。
6.声東撃西(せいとうげきせい)「ひがしにさけんで、にしをうつ」
陽動作戦は敵が混乱していれば勝ち、敵が冷静ならば攻めた方が痛い目にあう。
7.無中生有(むちゅうしょうゆう)「むちゅうに、ゆうをしょうず」
あると見せかけてない、無いと思わせてある。虚々実々の駆け引き。油断は禁物。
8.暗渡陳倉(あんとちんそう)「ひそかに、ちんそうにわたる」
これも陽動作戦。相手の虚を衝き、油断している場所を攻める。
9.隔岸観火(かくがんかんか)「きしをへだてて、ひをみる」
相手に内紛はじっと静観して自滅を待つ。つけこんで攻めると相手を団結させることもある。
10.笑裏蔵刀(しょうりぞうとう)「わらいのうらに、かたなをかくす」
友好を示して警戒心を解きひそかに打倒の策をめぐらす。相手の本質を見る器量が重要。
11.李代桃僵(りだいとうきょう)「すもも、ももにかわってたおる」
部分的な損害があっても全体的な勝利を達成することが重要。
12.順手牽羊(じゅんしゅけんよう)「てにしたがいて、ひつじをひく」
大軍が移動する時は必ず隙ができる。僅かな隙も十分に利用していく。格好など気にしない。
13.打草驚蛇(だそうきょうだ)「くさをうって、へびをおどろかす」
敵の姿が見えない時は、まず慎重に索敵を行うこと。
14.借屍還魂(しゃくしかんこん)「しかばねをかりて、たましいをかえす」
役に立つものは、人であれ、ものであれ、何でも利用する。
15.調虎離山(ちょうこりざん)「とらをあしらって、やまをはなれしむ」
敵を有利な地点から不利な地点に誘き寄せる。敵が出てこざるを得ない状況を作る。
16.欲檎姑縦(よくきんこしょう)「とらえんとほっすれば、しばらくはなつ」
相手を追い詰めず、逃げるにまかせると自然に勢いが弱まる。逃げ道は空けておく。
17.抛磚引玉(ほうせんいんぎょく)「れんがをなげて、ぎょくをひく」
囮を使って敵を誘い出す戦法。「類同」とはこちらが弱いと思わせること。
18.擒賊擒王(きんぞくきんおう)「ぞくをとらえるには、おうをとらえよ」
相手の主力や急所を叩き弱体化させる。まずトップを捕らえ、慎重に手順を進めていく。
19.釜底抽薪(ふていちゅうしん)「かまのそこより、まきをぬく」
ぐらぐら煮え立った釜も、焚いている薪を抜いてしまえば冷めていく。補給路を断つ。
20.混水摸魚(こんすいぼぎょ)「みずをかきまぜて、さかなをさぐる」
水をかき混ぜて、何も見えなくなった魚を捕らえる。撹乱工作を行い判断を迷わせる。
21.金蝉脱殻(きんせんだっこく)「きんせん、からをだっす」
撤退が一番難しい。敵にも見方にも気付かれないよう脱出、移動する。
22.関門捉賊(かんもんそくぞく)「もんをとざして、ぞくをとらう」
敵を包囲し、一網打尽にする。但しその条件は、敵が弱小か、逃したら禍根が残る時。
23.遠交近攻(えんこうきんこう)「とおくまじわり、ちかくせむ」
外交戦術の基本。近くの国は歴史的な因縁もあり仲が悪い事もある。
24.仮道伐カク(かどうばっカク)「みちをかりて、カクをうつ」
同盟を結ぶ国が滅べば、数年後、自分の国も攻め滅ぼされる。(カクは国名)
25.偸梁換柱(とうりょうかんちゅう)「はりをぬすみ、はしらをかう」
相手の大臣の部下を買収し相手を骨抜きにしてしまう計略。
26.指桑罵槐(しそうばかい)「くわをゆびさして、えんじゅをののしる」
本当は槐を直接怒鳴りたいのに、桑を指差して間接的に罵る。統率力を維持する方法。
27.仮痴不癲(かちふてん)「ちをいつわるも、てんせず」
手の内を全て見せず、馬鹿で無能だと思わせ、相手の油断を引き出す。
28.上屋抽梯(じょうおくちゅうてい)「おくにあげて、はしごをはずす」
二階に上げて梯子を外すという。相手や味方を引くに引けない状態に追い込む策。
29.樹上開花(じゅじょうかいか)「じゅじょうに、はなをさかす」
他軍の力を借りたり、囮部隊を利用して自軍を大兵力に見せたてて、相手を威圧する。
30.反客為主(はんきゃくいしゅ)「きゃくをはんして、しゅとなす」
客の身分の間はじっくり耐え、機会が訪れたら即座に行動に移し主導権を握る。
31.美人計「びじんのけい」
人間は快楽に弱いもの。相手の望みのものを与えたら、苦痛な仕事はやる気を失くす。
32.空城計「くうじょうのけい」
わざと隙を見せる事で敵の動揺を誘う。相手の裏の裏を読む心理戦。
33.反間計「はんかんのけい」
間者(スパイ)を利用して、相手を混乱させる作戦。情報には虚実がある。
34.苦肉計「くにくのけい」
犠牲を払っても、行動すべき時もある。
35.連環計「れんかんのけい」
敵の勢力が強大な時は、まず敵の動きを鈍く弱める。心理戦を持ち込む。
36.走為上(そういじょう)「にぐるをじょうとなす」
勝算が無ければ、戦わずして逃げる。