内外情勢 2013年12月

1.12月8日に日米関係を考える
 国家安全保障会議ができて、特定秘密保護法が成立し、日米開戦から72年目の12月8日を迎えた。賛否はあるが、現在秘密扱いにされ、統一ルールもなく責任者も明確ではなかった部分に、ようやく法律の網がかかった。スパイ防止には程遠いが、政府はこれで各国のNSCと情報交換をしながら国民を守るための政策立案をしていくという。
 審議が進む中で、中国のミサイル部隊が大移動していることが報じられていた。中国が、防空識別圏と言いながら、尖閣諸島の上空を事実上の領空化しようとし大きな問題となった。同時に山東省青島の石油パイプラインの爆発事故の詳細は日本のメディアではあまり報じられなかった。中国石油史上最大の惨事で、死者が100人を超えているという。中国のネットでは、全容の解明と事故責任を求める市民の不満をそらすため、「また釣魚島が利用されている」との書き込みが投稿されたという。
 真相はわからないが権力闘争が激化しているのだろう。日本政府は11月26日午前に安全保障会議を開いたと報じられている。
 日本では、軍事と情報について、学校で充分に教えておらず、知識が不足しているために、国際社会の実態がわかった人が相対的に少ないと言われてきた。2010年に中西輝政先生の出された「情報亡国の危機」という本がこの分野で定評がある。機密保護と情報公開が重要であること。日本の政界、学会にも外国からの工作資金が入っていることなどが書かれている。しかしメディアは総じて大反対で1980年代前半に廃案になったスパイ防止法案どころか、治安維持法であるかのような反対をしていたこともあって、安倍政権の支持率は10%ほど下落し50%ほどになった。
 ただ様々な考え方はあっても、この特定秘密法が成立したのは、やはり3年3ケ月の民主党政権のおかげだと個人的には思っている。首相官邸にも議長公邸にも中国・韓国の大使館員が我が物顔で数多く出入りしていた。鳩山元首相の時代のことは思い出したくもないが、敵味方識別装置がついてなくて、目の前の人に良い顔をしたい人だった。菅元首相もひどかった。政治評論家の森田実さんもブログに、ある役人の言葉として、「菅総理は怒鳴ってばかりいますから総理に会うのは愉快なことではありません。しかし、菅総理のところへ役人が行きたがらない原因は別のところにあります。役所の幹部が行う総理への報告が、どういうわけか、すぐに外部に漏れるのです。外国の政府との交渉途中のことを総理に報告した直後に外部に漏れ、相手国から抗議されたことがありました。交渉は中断されました。どういうわけか、総理の周辺から、しばらくの間は機密にしておかなければならないことが漏れるのです。」と書いている。自民党の首相の中にも、ハニートラップにかかったといわれている人もいる。つまり、上がおかしければ、どんなに下が守ろうが、機密は保護されないのである。自分は、むしろ政権交代で責任をとってもらった方が良いのではないかと考えている。
 ライス補佐官のG2発言、バイデン副大統領来日会見、米国航空会社のフライトプランの中国提出などから察することができるように、日米関係は最悪の状態を脱したが、それでも日米には微妙な差がある。米国内においても、中国・韓国の宣伝攻勢に後れをとっている。中国・韓国系の次の目標は米国大統領を出すことだという。
 そんな先のことではなくとも、現在続いている中国国内の激烈な権力闘争は、結局のところ、「敵を外に創る」ことに注力しているように思えてならない。それが日本であることは周知の事実である。中国は、尖閣諸島の侵略に着手し、沖縄では沖縄独立を唱え、中国国内では沖縄併合を主張している。2004年12月に国家中央軍事委員会主席だった江沢民が述べた「長期的な敵は米国、中期的な敵は日本、当面の敵は台湾独立勢力である」という考え方に変わりはないのである。今はその当時からいえば中期的な目標に取組んでいるのだろう。年末から年明けにかけて、国土強靭化策の具体化とともに、防衛大綱の見直しがなされる。集団自衛権もすっきりしなければならない。沖縄では辺野古のある名護市の市長選挙の動向が気にかかる。

2.広がる対馬海峡の距離
 朴槿恵大統領の日本批判はますますヒートアップしている。はたして韓国は何を考えているのだろうか。11月には2年ぶりの日韓議員連盟の会合が東京で行われた。予想された通り、共通の歴史教科書の作成、地方参政権の検討という言葉が並んだ共同声明が発表された。だがそれは双方の主張を並べただけであり、言葉とは裏腹に日韓の溝は数日話したくらいで埋まるものではないということを証明した。一連の行事で、竹島を自分の選挙区という日本の国会議員がいれば、対馬は自分の選挙区だという韓国の議員も出て、行事の進行が中断したという。対馬が韓国領だと言い出したのは李承晩大統領だった。現実に、韓国資本による対馬の買収に警戒感が高まっている。
 週刊文春朴槿恵大統領批判の記事に対して、韓国で批判が起こったが、その記事自体、口の悪さを別にすれば目次をみる限り常識的な批判だと思う。韓国の悪口を書くと雑誌が売れるという。
 かつては、東京裁判史観といわれる自虐史観に基づいて日本の戦後教育が行われ、韓国においては、国家としての求心力を得るための反日「頑張った」史観に基づく教育がなされたことが今日の問題の背景にあるが、日本においては自虐史観の是正も無いわけではないが、むしろ韓国の主張が事実に基づかない虚構であることがはっきり認識されだしたことが大きい。だから韓国が居丈高に要求し、日本がひたすら謝罪するパターンはもうないと思わなければならない。
韓国で反日が「大義名分」となった理由は韓国憲法前文に明らかだと、呉善花さんの近著にある。日本の敗戦から韓国建国までの3年間の権力闘争を勝ち抜いたのは、海外にいた独立運動の臨時政府の反日主義者だった。現在の韓国も「重慶にあった大韓民国臨時政府」をその建国起源として継承しているという。しかし、その政府を承認していた国はなく、サンフランシスコ講和条約にも参画できなかった。つまり韓国は日本帝国主義の侵略に対して果敢に反日独立運動をもって闘かい、独立を自ら勝ち取ったということになっているという。
 日本の保守派からみて、バランスが取れている歴史である「親日派のための弁明」という本を書いた金完燮(キム・ワンソプ、1963年 - )という著者は、「書かれていることが真実ならば、なぜ日本人は謝るのか」という韓国の女子学生の質問に答えることができなかったと言っている。つまり、論理的には、謝罪・賠償していること自体が、悪事の存在を証明する材料となっている。非はなくとも、謝ってその場を丸く収めるという日本人の行動パターン自体が両国民の誤解をさらに拡大してきたのが今までの歴史だった。交渉にかかわる人が少なければそれでも良かったかもしれないが、もはや反共という共通目標もない。韓国に米軍が駐留しているということだけで繋がっているように思えてならない。
 朴槿恵大統領とその政権は何を着地点としているのだろうか。表面的には歴史認識などで謝罪を要求しながら、事情通によれば、東京オリンピックの2年前の2018年に韓国で開かれる冬季五輪の資金援助を期待しているという。もしかしたら日本は説得できなくとも、米国は説得できるという自信があったのかもしれない。たしかに日本で民主党政権が続いていたらそうなっていたとみると怒られるだろうか。
 安易な謝罪や賠償が両国民の長期的な和解と友好をもたらさないとすれば、どうするべきなのか。日々の新聞や李承晩時代の資料を読みながら、そんなことを考えている。

3.アフリカの食糧・農業問題 日本の10兆円を超える年間貿易赤字から 
 マンデラ大統領がお亡くなりになられた。インビクタスの映画の中の大統領を思い出した。南アフリカのことではないが、NHKの視点論点で、アジア経済研究所の平野克己さんが、サハラ以南のアフリカ諸国の食糧危機を論じていた。彼の議論の概略を紹介する。
 現在、危機的な状況にあるといわれているのは、ソマリアコンゴ民主共和国中央アフリカ共和国南スーダンといった紛争国を中心に数百万人が栄養不良や飢餓状態にあるという。しかし、紛争問題とは違うもっと日常的なところで、アフリカの食糧状況は徐々に悪化している。
 アフリカでは人口の60%はいまだ農村に住んでいて、農業に従事している。しかしトウモロコシ、コウリャン、コメ、アワなどの穀物の土地生産性が低く1ヘクタール当たり1トンほどで世界平均の3分の1以下しかない。土地生産性が低いだけではなく、一人当たりの農地も狭い。つまり労働生産性が、日本の8分の1、アメリカの300分の1だ。これでは貧困はなくならないし、食糧を自給できない。先進国ならわずか1%か2%の労働力で国民全体の食糧穀物を生産できるが、サハラ以南のアフリカは労働力の60%を農業に投入しても食料が自給できない。
 アフリカの食糧穀物の対外依存度も大きく変動している。降雨量が安定していないからだが、激しく変動しながらも、徐々に自給力が下がっている。平野さんの計算ではアフリカの農村は人口比で15%分の都市人口しか養えない。だから経済成長して都市の所得が増えても、それが農村に回らない。所得が国外に流れていってしまうため、経済成長しても貧困がなくならない。
 世界最大の穀物輸入国は日本だ。年間およそ2500万トンの穀物を輸入している。東アジアは、人口密度が高くて、土地が狭い。だからコメは自給できても家畜の飼料穀物を生産するだけの土地がない。今ではアフリカ全体で2億人分の食糧を輸入され、東アジアを抜いて、世界最大の穀物輸入地域になっている。
 世界の穀物市場では、南北のアメリカとヨーロッパが主に輸出をして、これを主に、東アジアとアフリカで分け合うという構図だ。東アジアの輸入が比較的安定しているのに対し、アフリカの輸入量は増加の一途を辿っている。世界の穀物市況がもし破綻するとすればアフリカが震源であり、その影響は東アジアに及ぶ。アフリカの総人口は2040年に倍増して20億人になるが、その食糧をどうするのかが問われている。 幾つかの国で、食糧自給に向けた政策的な動きが見られるようになり、国際開発の新たな最前線となりつつある。
 平野さんの議論に2つほど付け加えたい。
 一つは中国である。2000年以降、16世紀以来ヨーロッパ人がアフリカに来た延べ人数よりも、中国人がこの10年間にアフリカに来た人口のほうが多いといわれている。彼らが、中国流に、ダムを造り、鉄道を引き、無計画に資源を開発している。そして農地を買いあさって定住を始めた。そして現地の特権階級と結んで、中国と同じ環境汚染と腐敗を拡大している。だからアフリカの将来は平野さんのレポート以上に深刻になるのではないか。
 二つ目は、日本の食糧と貿易赤字問題への影響だ。対策としては国土の四分の一以上に渡る1000万ヘクタールの里山の活用し、山地酪農の導入によって飼料作物の輸入を減らし、山を整備し、林業も発展させて、バイオマスや地熱の活用によって輸入エネルギーを減らすことが重要だ。