中国とのこれから

1.日中関係中国バブルの行方
 新たな「中国の7人」が決まった。習近平氏と李克強氏以外の5人は江沢民派だという。5年後に共産党青年団出身者が主力になるための布石が敷かれたと見る人もいれば、スキャンダル暴露合戦が共産党支配を揺るがすことがないように胡錦濤氏が譲歩したと言う人もいる。自分と道連れに江沢民氏を引退させたことを見事だという人もいる。胡錦濤習近平側が軍の指導権を手中にし、政府と軍の権力を分けることで均衡を保ったと見る人もいる。
 しかし日本にとっては、それで中国の日本に対する行動が変わるわけではないことがハッキリしている。むしろ中国自身の政治状況によって日中関係がはますます悪化するのではないかと予測されている。
 日本国民は中国が尖閣諸島や沖縄を侵略する意図があると考えているので、中国の文化大臣が、日本が態度を改めない限り、日中文化交流を実施しないと言っても、それはそれで良いと考えている。中国の主張に呆れ、メディアでも以前ほど大きくは取り上げなくなった。数年前だったら大変なことになっていただろう。
 日本では、中国との関係悪化により、東証1部上場企業の2012年度の経常利益が1割減るといわれている。中国政府の態度もあって、中国で行なう事業に保険がかけられないので、日本の対中国直接投資にも自然とストップがかからざるを得ない。それは仕方のないことだ。
 株式投資においても、投資家の中国市場離れが進んでいるという。8月の中国の輸入は減り、輸出も3%弱の増にとどまった。4〜6月の外貨準備高は20年ぶりに減少に転じたと報じられている。国際物流の大手は中国の輸出減速の影響は小さくはないと言っているという。
 中国アナリストは最近漸く「最大の懸念要因が不動産バブルの崩壊。不動産開発業者に資金を出している銀行が巨額の不良債権を抱え、ハードランディングは避けられない」と言い出した。ゴールドマン・サックスが、少し前に「中国の信用バブルの規模は世界一で、憂慮すべき状態だ」という分析を発表したこともあるのだろう。今まで口にするのをはばかっていた事実をオープンにしだした。既に北京オリンピックの前からささやかれていたことが現実になりつつある。
 中国企業の2011年の信用残高のGDP比は130%となっている。リーマンショックの後で、政府が主導してきた大規模な製造業への投資が問題となっている・太陽光発電、鉄鋼、造船などの主要産業は生産過剰であり、マクロからみてもミクロからみても中国企業に対する支援と内需の拡大策が必要だという。しかし強引な内需拡大策の結果がこうなったのだから、そんな対策がないことは百も承知だろう。
 中国の債務残高総額は、簿外融資や、投資銀行や証券会社、ヘッジファンド証券化のための特殊な運用会社などのシャドーバンキングなどの貸出も計算に入れると、米国における米国債務のGDP比345%を上回ると考えられる。特に簿外取引融資が急増しているという。
 こうした信用バブルの結末は、どこの国においても一様であり、中国だけが例外になることはない。閣僚級とされる中央銀行である中国人民銀行総裁の周小川氏は中央委員からはずれ、来年引退することが確実だと報じられている。
 経済の原理から言えば、成長率を落として数年かけて地道に需給バランスをとるしかないが、日中関係悪化の前から暴動が頻発していた社会が安定して推移するとは考えにくい。少し前まで経済成長率は8%以下にはできないとのことだったが、この間の共産党大会では2010年から2020年で国民所得を倍増するとのことなので、経済成長率の目標が6%に引き下げられたはずだが、メディアでは人事ばかりが報道されており経済計画は無視されている。
2.中国とのこれから
 日中関係がこれからどうなるかについて、多くの人が関心を持ち始めている。共産中国といっても、共産主義でもなく、毛沢東主義の幻想が消えてみると、中国の社会は、それまでの伝統的な中国社会と大きくは変わらず、貴族と官僚と地方勢力によって権力の争奪されている状態にあると考えられる。そのこともあって、近年、日本ではあまり熱心に教えられて来なかった近現代史支那社会の研究が再び脚光を浴びつつある。イデオロギーで修飾された左派の学者の分析よりも、戦前の中国専門家の観察のほうが目の前の現象がよく理解できるからである。
 考えてみれば、現在の中国は、長い伝統はあるものの、彼らの主張とは裏腹に1949年に建国された若い王朝国家である。標準中国語が全土で通じるようになってきたのはここ10年-20年のことだという。それまでは、漢字は共通であっても、共通の発音がなかった。そのことが再び日本で教えられ出したのはつい最近のことだ。役人は中央のキャリア官僚と地方官僚の2系統あり、中央から派遣されるキャリア官僚はその出身地に赴任させない。地方官僚は主として行政実務と通訳を担当するというのが長い伝統である。例えば福建省では南北で言葉が通じないだけでなく、山を一つ越えれば言語が違うという。そして上海人(呉)と広東人(越)の対立は春秋時代から続いている。
 統治の考え方の基本も、陽儒陰法(ようじゅいんぽう)という伝統的な考え方である。歴代の王朝と同じく、表向きは新たな儒教としての中国共産党の公式見解で国を治め、実際は法家の思想で統治していると考えられる。法家の思想は、現代的な「法律とは政治権力から国民の権利を守る」という法治主義とは全く異なり、法律は為政者、権力者のものであり、官僚は、法律を自由に解釈し、統治のために都合が悪くなったのなら、自由に改変・廃止してよいという考え方にたつ。
 法家の考え方は、法治主義ではなく人治主義なのである。中国の人治社会は「関係(コネ)」によってなりたっている。権威と権力が一致している社会であり、経済力もその基準によって配分されていると考えてよいのではないか。政治局の常務委員クラスになると、本人ではなくて一族全体として2000億円程度の利権と資産が形成されるというのが、この1-2年の暴露合戦で明らかにされた事実の私流の要約である。それはコネ社会の現実である。裁判においても、「大案聴命令、中案看銭、小案依法照弁」(大きな裁判は政府の命令に従い、中くらいの裁判は賄賂で決める、小さな裁判は法によって裁く)ということわざがあるという。
 当然ながら、こうした原理は社会全体で貫徹される。黒道(黒社会、黒幇)といった言葉で表される裏社会、犯罪組織、地下経済があるという。これらの中国の裏社会を構成する組織には清朝の打倒を目的として結成された反清復明の秘密結社もある。伝統的には香港が中心地であり、日本でも新宿の歌舞伎町や、大阪のミナミにも拠点があるという。売春、麻薬、密入国、盗掘、恫喝、殺人請負で豊富な資金を持ち、共産党の幹部、公安、人民解放軍と一体化しているといわれている。地方によって第二の政府となっているという。前の重慶市トップだった薄煕来氏の事件の経緯を読んでいると時にこの黒道の影が見え隠れしている。彼らも含めて権力の争奪をしているのが中国の実態なのかもしれない。
 こうした仕組みの中で厳しい権力闘争を勝ち抜いた中国人が、一歩、中国の外の世界に出て行くと、自分たちのルールで戦うことが許されないことが、中国人の葛藤だと教わったのは、評論家の黄文雄先生の著作である。なぜ中国が近代西洋人が作った規格に従わなければならないのか。なぜ万国公法や国際法に縛られなければならないのか。それを破るためには、力において中国が優位にたたなければならないと考えるという。遅れてきた帝国主義と思われる所以でもある。「人権」を理由に、政府に反対する者は即刻逮捕し、洗脳、労働改造をするのが、なぜ問題なのかがわからない。中国独自のやり方で外国から言われる筋合いはない。人権など気にしていたらもっと大事な「帝国の安定」が保てない。安定なしには「生存」が確保されない。今までの国際条約や商契約を破るのは、生存や安定を守るためだからである。周囲の世界にとって迷惑なことに、こうした中国人の考え方はほとんど古代と変わっていないという。
 中国政府は、従来から、走出去(ゾウチュチィ)といって国から出て行く学者、留学生、研修生、ビジネスマンにも、情報を収集し国家機関に報告する任務が与えられていたという。CIAが、中国人留学生の8割は、米国に対するスパイ行為を義務づけられていると報告したことがある。スパイ天国といわれる無警戒な日本においてはそうしたことが起きていると考えるべきなのだろう。「走出去」の表の意味は、中国資本企業の海外進出を推し進めることであり、引進来(インジンライ)とは、中国国内に外資外貨を積極的に引き入れることである。
 日本でも1週間ほど前から、ファーウェイ(華為技術)のドコモ用の携帯電話のコマーシャルが始まった。中国の「中」の字も出てこないため、気がつかない人もいるかもしれない。1987年に広東省深センで創業された通信機器メーカーである。日本における知名度は低いが、イー・モバイルが携帯電話事業に新規参入するにあたり、ファーウエイ製の基地局設備と携帯端末を採用していた。創業者は中国人民解放軍の出身で軍との間に特殊な絆があり、会長は中国の公安部門と関係があるといわれている。電話機器を使った西側の政府機関に対するスパイ行為やサイバー攻撃のためのインフラ構築を行っていた疑いがあるため、米国、英国、豪州政府からは取引を拒絶されているという。140カ国で活動する大企業である。
 国際盲流(もうりゅう)というのは、政府の許可なしに農民などが大挙して都市に流入する現象が国際的にも起きていることをさしている。黄文雄先生の推定では年間3百万人の流民が中国から世界に出て行くという。そんなところで1000万人の移民の受入れをという現実を見ていない頭でっかちな政治家が当選するようでは日本も危ない。中国の経済が悪化すれば、この流れは加速し、シベリア、カナダ、米国、南米、欧州、アフリカにも拡がるだろう。中国国内で凶悪犯の増大し、牢屋の収容能力が不足すると、死刑囚を海外追放するのだから始末におえない。当然ながら、凶悪犯罪が増加し、「匪賊」(ひぞく)という集団で略奪・暴行などを行なう賊徒が跋扈(ばっこ)し、ほしいままに振舞う社会が出現する。これではどこの国であってもたまらない。
 最近の日本で起きている犯罪が、伝統的な日本の犯罪ではなくて、どこか中国や朝鮮で起きている事件と似ていると感じるのは気のせいだろうか。日本の犯罪も東アジア化してきたといってもよいのではないだろうか。
 台湾は、長年、中国からの文攻武嚇(ぶんこうぶかく)という、狙った相手を文章で攻め、武力でおどすことに悩まされてきたが、これが尖閣諸島国有化以来、日本にも向けられてきた。それだけでは足りず、日本製品不買運動など、経済でも圧力をかけるという「経圧」もいれて、なんとか日本を屈服させたいと考えているようだ。もし日本が屈服しないと、中国政府は国民から外交無能だと批判されるという。競って日本を非難するわけである。馬鹿馬鹿しくて付き合いきれない。
 沖縄で酔った海兵隊の将校が、民家に進入してベットで寝ていたところを現行犯で捕まったという。とんでもないことだと思う反面、謀略の可能性の有無を調べるべきと思うのは思い過ごしだろうか。日本の政治家や役人がハニートラップにかけられるならば、そうしたことがあっても全く不思議ではない。念のために調べるべきだろう。「美人局」という漢字が読める日本人がほとんどいなくなるほど健全になったが、古典的な美人局のパターンと似ているような気がしてならない。
 グローバル化に対応するためには、英語教育だけではなくて、建前だけではない周辺国の歴史社会の研究と教育、軍事力と情報組織力の充実をしなければ対応できないのではないだろうか。南西諸島の防衛のための沖縄の自衛隊の増強が何よりも急がれる。