日本外交はなぜ朝鮮半島に弱いのか

 猛暑が続いている。民主党参院選の思わぬ敗北で未だ呆然としているように見える。次の政治をどうするかの算段が立っていないようだ。誰が政権をとっても、さらに仮に総選挙が行われ再び政権交代が起きても、数年間はネジレ状態が続く。事実上の大連立が進まなければ、モノゴトが進まない。多くの人が、負けた原因を消費税としているが無理がある。消費税10%を主張した自民党議席を増やし、絶対反対とした共産党議席を減らした。米韓合同演習が対馬のすぐ北方で始まった。先日まで、ロシアは北朝鮮崩壊を予想し、北方領土で一大軍事演習を行い北方領土はロシアのものだと大デモンストレーションを行っていた。専門家によると、これは日本への資金援助への要求であり、人口希薄なシベリアに移住してくる中国人への牽制らしい。北朝鮮問題はいよいよ最終段階に入ったと考えられており、3年以内に何かが起こると言われ日本以外では軍事的な緊張が高まっている。韓国は1500キロの射程を持つ巡航ミサイルの開発と配備を公表した。これで極東地域において、核ミサイルも巡航ミサイルも持っていない国は日本だけとなった。
 選挙の前から不思議に思っていたが、領土問題をかかえる韓国から外国人地方参政権を要求されているうえに、相変わらず謝罪を求める声が大きい。何に対する謝罪なのだろうか。民主党政権になって1年もたたないうちに、国際関係があらゆる方向でおかしくなった。この1年の成果を評価すれば外交関係に限っても、失点ばかりで得点がない。普天間問題では米国にあきれられ、参議院選挙後に公然と追加請求書を回された。しかし沖縄の人々の理解は全く得られてないばかりか、6月に沖縄訪問をした菅首相の発言自体が沖縄の怒りに油を注いでしまったという。政府と地元沖縄との話し合いが何より必要なのに誰も火中の栗を拾わない。無責任極まりない。中国海軍に自衛隊の艦船が挑発されたにもかかわらず、ひと月もたたないうちに観光ビザの規制を大幅に緩めた。ミャンマーの選挙も大事だが、外務大臣は、もっとやるべきことがあると思う。安全保障にせよ、円高にせよ、国民の一人として夏休み返上で議論をしてほしいことが山ほどある。気を鎮めようとして書棚を眺めていたら02年に現代コリア研究所の佐藤勝巳さんが書いた「日本外交はなぜ朝鮮半島に弱いのか」(草思社)を見つけ再読した。 
 この手の本は何が正しいかよくわからないことが多いが、佐藤さんの言葉と文章は信用できると思う。あとがきに、昭和4年生まれの佐藤さんは、共産主義を信じる日本人として、新潟で在日朝鮮人北朝鮮への帰国運動にかかわったこと、しかし北朝鮮での生活の実際が天国ではなく地獄であることを知り運動を離れたこと、そして、なぜ自分が間違いを犯したかを考え続けたこと、結論として「共産主義に冒されて物事をありのままに見ることができなかった」ことが原因だと思い至ったと述べられている。佐藤さんには4人の在日朝鮮人の友人がいて、ともに共産主義を信じ、敗れ、他人に語れない傷を持っていること、そのうち2人は金日成の下で「革命運動」参加し、他の2人は元朝鮮総連の幹部だったこと、4人のうち2人がなくなっているので彼らに対する弔辞として書かれたことが述べられている。
 1)日本政府は不審船を引き揚げられるのか(北朝鮮工作船はその後、引き上げられ、お台場の船の科学館で展示されていたが、この本が出版された頃は海底から引き揚げも、北朝鮮を名指しするのも国内に反対が多かった。変な話だ。)
 2)朝銀はいつから治外法権となったのか
 3)総連は日本でどのような活動をしてきたか
 4)何が拉致問題の解決を阻んでいるか
 5)教科書批判はいつまで続くのか
 6)定見なき日朝・日韓関係の起源は何処にあるのか
 7)日本外交はなぜ朝鮮半島に弱いのか
 8)今後の朝鮮半島情勢にどう対処すればよいのか、
と8章にわたり見解が述べられているが、単に朝鮮半島問題ではなく、日本の危機についての真情を述べた言葉の重さがある。是非一読を勧めたい。
 現在、国会・政府の一部に、日韓併合100年にあたり、謝罪文を作成しようという動きがあるという。「村山談話」の過ちを何回繰り返すのだろうか。この本を読んだ感想としてはそう思えてならない。以下は主観的感想を記す。当然ながら文章の責任は佐藤さんではなく私個人にある。
 1960年頃より、日本では北朝鮮・総連・朝銀に対する批判は完全にタブーだった。彼らも「治外法権」を主張していたうえに、税金も納めず公然と日本の法律を無視してきたという。そして信用組合としての朝銀は、北朝鮮に資金を送るための北朝鮮労働党の下部組織に指導される金融機関だった。金日成は、その資金で贅沢な生活をし、ミサイルを開発し、その一部は日本の政界工作にあてられてきた。1997年から2000年にかけて朝銀が破綻した際に政治主導により6000億円の日本の税金が投入された。
 総連は、旧社会党時代に、当時の社会党の朝鮮問題特別委員会には総連幹部が出席し、彼らが社会党の声明を準備し、その委員会の費用を負担してきたと言われている。今もそれににた構図が時々新聞に顔を出すことがある。ある時点からその工作は政権与党だった自民党にも向けらたという。ある政治家の金庫から見つかった無刻印の金の延べ棒は北朝鮮製だったとされる。その後も北朝鮮にお金や支援が向けられるときこの種の噂は何時も出てくる。しかし証拠がなかった。今なら検察審査会にかけられそうだ。そうした「歴史的推測」を踏まえると、選挙の前後、途中で、日本の政治家から唐突に外国人地方参政権の話が持ち出す度に、今も様々なルートでお金が動いていてもおかしくない。
 今週、大韓航空機爆破の元工作員が政府の招待で日本に来て、被害者の家族と面会した。ニュースを見ていて気になることがあった。マスコミは日本人拉致について人権問題だというが、主権侵害という言葉を使った人がいなかった。変だと思う。佐藤さんは1997年に横田夫妻に会われて救出運動にかかわるようになったという。その経緯と思いが綴られている。 
 事件が起こったのは77年。拉致問題を最も早く報じたのは80年1月の産経新聞であり、88年3月に国会で取り上げたのが共産党で、兵本達吉氏が調べたという。大韓航空機爆破事件の犯人に日本語教育をしたのが日本人という情報があり、地村さん、蓮池さんたちの失踪拉致との関係を橋本議員が政府に質問した。可笑しなことに、その後、共産党はそれを疑惑にすぎないとして兵本氏を除名したとの由である。99年12月、当時の外務大臣河野洋平氏は「拉致問題の解決は私にお任せください。拉致問題の解決は武力ではできないということを御理解してください」と饒舌に語ったという。翌年3月「まずこちらが誠意を示し相手の誠意を記他するためにはコメ支援が必要」として米を支援する計画が進んだと言われている。しかし、95年以来、米50万トン、96年には600万ドルの無償援助、97年には日本人妻の帰国のために7万トン差し出しても日朝交渉は進まなかった事実に河野外相は目を向けようとしなかったという。
 北朝鮮にとって、日本人拉致は、韓国を統一するための手段であり、「朝鮮人は日本の過去の植民地支配でひどい目にあった、だから日本人を拉致しても当然である」という教育をしている。従って関係工作員は、日本人拉致に在悪感など全くもっていない。植民地時代の報復だという。こうした論理を認めれば、今後もまた多くの問題が起こることも同時に認めなければならない。
 同様のことが、韓国との間にもある。教科書問題だ。韓国の日本の教科書に対する干渉の歴史も古く60年代に始まり、70年代に活発化した。韓国の修正要求は次のようなものだ。例えば、伊藤博文を暗殺した安重根は韓国では英雄かもしれないが、日本の歴史の評価としてはテロリストにすぎない。どちらが誤っていると決めるのは難しい。一つの事件でも立場によって評価は違う。韓国の歴史認識が正しくて、日本の認識が間違っているから直せと言っても無理だ。岡田外相が言うように、「統一した歴史教科書を持つべき」と考えること自体、国際関係に責任を持つ人の考えとは思えない。争いの種が減らないからだ。独立国家である以上日本もまた韓国の教科書、中国の教科書に修正を要求する権利があると主張すれば、緊張と対立が拡大する。だから相互主義に立って、もっとあっさり議論をかわすのが大人の態度だと思われる。佐藤さんはハッキリと言う。韓国や北朝鮮にとって日本の教科書の中身はどうでも良いのだと断言する。反日ということで世論を統一し、日本人が謝罪することで、日頃抱いているコンプレックスから解放され心理的に優位に立ったような気になる人たちがいるにすぎないという。
 佐藤さんの本で、キャリア外交官の幹部にも植民地支配謝罪派がかなりいるとの記述に驚いた。そんな人たちは直ちに解任されるべきだろう。大使館が起こった民衆に囲まれるのを恐れるあまり、すぐ謝って済まそう。お金で済まそうと考えているのかもしれない。緊張と対立に弱いというのは、穏やかな良い国に育った証拠かもしれないが、そう「か弱い人」に外交をさせては国が続かない。「遠くに遣いして国を辱めず」という精神は何処に行ったのだろう。もっとも彼らが従うべきとされる政治家の行動から直していくしかないのかもしれない。佐藤さんの「侮辱もしくは軽蔑されて、怒ることのできない人間は、人間のとしての誇りを失っているか、真面目に仕事をしていないかのどちらかである」という指摘は強烈である。