事業の定義         企業を考える(3)

 手元に本がなかったので、ネットで調べたら、エーベルの「事業の定義」(千倉書房、84年)について上智大の島津教授が「介護のマネジメント」という論文の中で解り易く解説されていた。石井淳蔵先生(流通科学大学学長)の訳された本で、現在は絶版になっているようだ。事業を定義するのは、WHO,WHAT,HOWとわかりやすい。日本では1990年頃から戦略コンサルタントの人たちが事業ドメイン論として、その考え方を盛んに活用していた。自分はその数年前から大企業の経営企画担当者として働いていたが、86年頃にこの本を見つけ、エーベル先生の成果を大いに活用させていただいた一人だ。その一番の理由は、「話の整理がしやすい」ということに尽きると思う。

 新しい事業を考え推進するとき、実に多くのことが頭に思い浮かぶ。事業それ自体のほかにも、大会社ならば、トップの経営陣だけでなく、既存事業の事業部長や中堅幹部、技術研究所の所長、部長、管理・財務部門の幹部など本当に多くの方の理解を得なければならない。新興企業ならば、その事業のフェーズにもよるが、ベンチャーキャピタリストやスポンサー、更には従業員の理解を得なければ、先には進まないだろう。その段階では、どこかから企画を書きだすか、話し出すのか結構悩む。うまくインプットし合意を形成しなければ、先に進めないからだ。

  事業を定義する3つの軸

   (1)WHO(お客様は誰なのか)

   (2)WHAT(商品やサービス)
    ・それらがお客様の活動の中で果たしている機能は何なのか
    ・その際の競合企業は誰なのか
 
   (3)HOW(どのようなやり方や技術でやっているのか)

 新しい事業は、この3つの軸で定義される戦略空間にある。どの軸から語っても良いのだと思う。たとえば最初の軸を、HOWに定めたとする。そしてその事業の“タネ”が例えば「解析技術」だとしよう。我々は、そのタネを、解析パッケージソフトに仕立てて事業としても良いし、解析コンサルティングサービスの事業としても良いし、それを活用した新製品開発事業であっても良いのである。そしてそれに伴ってお客様も、事業体制も、所要資金も変わってくることは容易に想像がつくだろう。

 こうした考え方が、何故素晴らしいのかというと、3次元で定義された事業の戦略空間は一つの軸HOWから眺めることによって、2次元にかわり、WHOとWHATの縦横の2次元の表にまとまめることができるからだと思う。これは、ばかばかし過ぎて、大学の先生やコンサルタントの方は書かないことだと思う。商品(WHAT)や技術(HOW)が変化することもあリうる比較的長い期間(といっても事業によって時間軸は異なるが・・・、)の戦略PLANの場合は、まず顧客を分類し、その分類顧客ごとに商品と技術の軸から分析してゆけばよいのである。

 昨日の例でいえば、ソネットエムスリ-は、顧客に特化した戦略を採用しているようだ。以下はいささか想像をたくましく先読みした場合の記述である。戦略的展開の可能性のイメージとでもいうべきものなので、半分くらいが私の推測である。
 「お医者様のコンシェルジュ」を目指すとしている。診療科毎の情報提供は専門知識が必要であり、後からの業者が入りにくいという意味で参入障壁を築きやすい。製薬会社は通常はMRという専門の営業部隊でお医者様にコンタクトをとっている。そのため「MR君」は、製薬会社にとって広告費に加えて営業経費の節減にもつながるので協賛金を出しやすいだろう。「QOL君」は、私生活のコンシェルジェなので、デパートの外商であり、外車・別荘の販売、子弟の教育相談までの窓口となろう。転職支援や経営相談を通じてお医者様の組織率が上がれば、医療資材機材や薬品の販売部門と結合する可能性、病院チェーンと結合する可能性、さらには、患者のコンシェルジェとしての相談部門の拡充などの様々な事業展開が考えられる。医療介護の費用は年々増加していくことが約束されており、おそらく経営者はサービス加入率、事業の範囲、サービス品質のバランスについて気を配っているはずだ。看護師、薬剤師さんのサイトは転職支援と意見交換のスペースの提供が中心。

  *複雑な現実を、多次元のまま、簡単に表現できるようにしたのがマインドマップだと思うが、機会があればぜひ使ってみたい。

 **さらに付け加えれば、3次元で定義される戦略空間によって流れている時間が異なるため、既存事業と新事業の時間感覚の差を管理することが、多角化した企業グループ経営の難しさの一つではないだろうか。