資源研究開発ファンドとレアアース

 尖閣列島で中国の漁船が操業し日本の巡視船に船をぶつけ船長が逮捕された。中国はこの地域で海底資源が発見されて以来、「尖閣列島も沖縄も中国の領土だ」と主張していることに加え、南シナ海における東南アジア各国との領土紛争も、この漁民の操業が発端となり中国軍が出てくるというパターンをとるため、国際社会に対して原理原則を都度はっきりさせ、離島への自衛隊の配備も含めたきちっとした対応が必要だ。日中間の経済では、かねてからの海底ガス田の共同開発問題に加え、中国によるレアアースの輸出削減が大きな問題となっている。どちらも中国の国家としての意図的な動きなので、事務的な話合いだけで解決はできないものと考えられる。
 鉄、銅、鉛、アルミニウム、亜鉛などのベースメタルに対し、添加することによって、その金属を強力に、しなやかに、粘り強く、さびにくくするなどの特性を付け加えるものをレアメタルといい、日本の経済産業省は47の元素を指定し、そのうち17種類をレアアースと呼んでいる。レアメタルレアアースはともに地域的に資源が偏在している。その中でもレアアースは現在、中国が世界の90%を産出しているといわれる。中国はその優位性を活かすために、08年に鉱山会社を統合し、4つの企業にまとめた。原料から二次加工品の輸出へと技術レベルと付加価値を高める方針をとっている。中国政府の資源政策は次のように報じられている。
 (1)中国企業による国外での資源探査と開発の奨励
 (2)国内の開発は西部地区を中心に探査を促進し外国企業からの技術を導入する
 (3)タングステンアンチモン、レアアアースについては輸出構造を見直す
 (4)鉱物資源の総合的な利用促進のためリサイクル、省資源、省エネルギー化を進め、戦略鉱物資源の備蓄を確保する
 (5)環境保全対策を強化する
 レアアースは産業のビタミンといわれ、それを含んだ部品は、ハイブリッド車や電気自動車などの日本のハイテク製品のキーパーツとなっている。原料は風化花崗岩だが、加工精製されたレアアース酸化物(REO)あるいはレアアース・メタル(REM)の形で中国から輸入されている。このままいくと2012年には世界のREO総需要18.5万トンに対して5万トン不足すると予測する専門家もいる。特にジスプロシウムは、それを多く含むカナダの鉱山が数年後に稼動するまでは、中国に多くを依存する体制が続きそうだ。
 中国と粘り強く交渉することも確かに必要だが、新たな調達先の開発、代替技術の開発に今まで以上に注力することが必要だろう。それは「基本的にはリスク管理の問題であり、お金の問題」(つまり、国家の問題であり、指導者の問題)というのが自分の見方だ。大きな目で見れば、日本国内にも資源はある。円も強く海外の鉱山も取得できるだろう。例えば国内のマンガン鉱床にはかなりの割合で希土類元素が含有されていることがわかっている。火力発電所等の集塵機で回収される石炭や石油の灰にも含まれているようだ。日本の排他的経済水域内にある海底のマンガン団塊やコバルトクラスト、熱水鉱床等の海洋資源も供給源として期待されよう。さらに資源リサイクルを発展させた「都市鉱山」も開発対象となる。
 レアアース(希土類)という名前からするといかにも賦存量が少なそうだが、実際には精製技術が難しかったというのが実態だ。火成岩の中には「コバルトや亜鉛」程度には含まれており、少ないものでも「金や銀」よりは多く含まれているので、スカンジウムを除けば豊富な元素だと考えられている。むしろハンドリング・プロセスも含めたリーズナブルなコスト競争力と開発までの5-10年といった長い時間が課題なのだ。元素でいうとランタノイドといわれるランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルピウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルピウム(Yb)、ルテチウム(Lu)の15元素に、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)の2元素を加えた17元素を広義のレアアースという。
 先頃、日本の物質・材料研究機構は、ジスプロシウムを使わずに高温でもネオジム磁石の磁力を保持できる耐久力(保磁力)を高める技術を開発した。ネオジム銅合金を磁石の中に拡散させ、無数の微細結晶の界面組成を制御をすることによって保磁力を高めた。ジスプロシウムはネオジムの1割しか資源がないのでレアアースの中でも貴重だ。こうした技術開発力もわが国の大きな資源の一つであり、様々な資源や能力をフルに活かした総合的な取り組みが必要だ。政治においては、表面的な政治主導や事業仕分けがもてはやされ、民間においても、個別事業採算管理の強化もあって、かろうじてレアメタルレアアースの需給の全体感を支えてきた総合商社の伝統がとぎれることが懸念されている。目的を限定し、商社等の総合力を活用した形での、円高メリットも活用した政府委託の資源研究開発ファンドが幾つかあっても良いのではないかと考える。