国家戦略の行方

 これから月末まで行政刷新会議で事業仕訳による公開予算削減会議が行われ、3兆円ほど概算予算が刈り込まれる見込みだ。財務省は民主政権のお墨付きをもらい、特別会計に鉈を振るう権限を手に入れた。民主党財務省の助けを借りて特別会計の無駄を暴いて、国民にアピールしながら子ども手当などに必要な財源が捻出することになる。日本郵政人事院の役員・高官の任命を通じて、「政治主導の任命ならば天下りや渡りではない」ということになり、OBの人事権も安堵された。日本航空は事実上「国有化」された。複数年予算を実現するために憲法改正が必要と知らず、外国人地方参政権がどう憲法と整合するのか、答えられない政権に驚いている人が多い。自民党よりまだ益しという人もいれば、アウトカウントは幾つだ数える人もいるが、まだ1回の表だとも感じられる。この2ヶ月で、一般国民から、姿が全く消えてしまったのが国家戦略局と国家戦略の行方だ。「雇用、環境、子育てを通じた経済成長戦略」が不必要とは言わないが、国家戦略ではないと思う。国家の役割は何かと聞かれて、菅副総理は「外交、安全保障、通貨制度、福祉の基準」と答えられたようだ。地方主権となれば、公共工事、福祉の実務、教育などの主体は地方に移行するというイメージで考えられていると思われるが、何を考えるのか、まだはっきりしていない。

1.地方制度
 国家戦略となれば、地方制度を含む国家組織の企画も入ってくるだろう。たとえば、「地方主権」という言葉は、記憶では恒松先生が会長をされていた地方自治経営学会で、あまりの中央集権体制に対抗するために、地方主権という言葉と気概が言い出されたのが初めだと思う。その後、道州制にしてアメリカのような連邦国家になればよいという人も出てきた。昨年までは、市・道・国という3層制をベースとした道州制を考える自民党、30-40万人の市をベースに二層制で考える民主党と大雑把にみてきたが、これから入り繰りがあるかもしれない。国の硬直的予算配分を分割した方が経済は伸びると考えるが、30-40万の市ごとに地方税率や環境規則を変えられては厄介なので道州制の導入をという経済界。道州のような新たな人為的な制度の構築にエネルギーを使うよりも基礎的自治体を充実させて、後は国でやればよいと考える人。あまり党派に関係がなく、その人の帰属する地域によっても意見が異なるような気がする。要するに、国の出先機関と職員をどう位置付け、県庁とその職員をどうするのか、それによってどう国全体の効率を上げるのかが問われている。

2.治安
 外国人地方参政権は、もっと慎重に取り扱うべき問題だと考えられる。憲法との関係についても情緒的でなく考えなくてはならないことは自民党の稲田議員の言う通りだと思う。いわんや、鳩山首相の「日本列島は日本人だけのものではない」という発言は、外国人地方参政権という文脈で首相が軽々しく口にすべき言葉ではないと思う。毎年1万人づつ増えている中国人永住者、外国人の子供まで含めた子供手当の支給を考えれば、これからかなりの数の外国人が日本に入ってくることが予想される。中国にいれば、1人しか子供を持てないが、日本では産めよ増やせよとなるからだ。はたして、今でも悪化している治安は、現在の警察力、現在の個人認証システムで大丈夫なのか。高齢化地域に住む人間の一人として、多くの外国人が来たい住みたい活力ある日本になってほしいと考えるが、同時に安全を保つ仕組みとともに、地方参政権の国政に及ぼす影響を遮断する制度、安全保障に及ぼす影響等を遮断する制度・組織が必要だ。スパイ天国と言われ、安全保障上の機密が漏えいしてしまう国で良いわけがない。

3.外交・安全保障
 国家戦略の中で、外交、安全保障の問題は政権交代以降、驚きの連続だったといっても過言ではない。政権全体として、日本を何所へどう導こうとしているのか全くわからない。中国が軍事力を著しく拡張する中で、「中国とは友愛で、米軍は海外に」となっている現実に呆然とする。アフガンはお金で済ましたようだが、代わりに中国軍が参加するという話が出てきた。イランイラク戦争の教訓はどうなったのだろうか。インド洋での給油を辞めることによって、その地域での安全保障上の情報への接近が難しくなった。普天間の問題は委員会を作った形にしてもらって何とか取り繕ったが、嘉手納の米軍戦闘機は半減され、F22も引き上げることとなった。さらに、自衛隊の防衛大綱を1年先送りしたまま、財務省主導の予算削減が続いて良いとは考えられない。国家安全保障政策のない外交、防衛がそのままで済むわけがない。今後10年、20年、30年という単位で国家安全保障をどう考えるか明確にする必要がある。それが国家戦略の第一のそして最大の役割だと思う。そしてその安全の中でこそ豊かな国民生活を享受できるのである。そのためには、まず集団的自衛権を認めるところからスタートすべきと思われる。

4.通貨と経済政策
 今世紀になって「人、金、技術が、自由に国境を越えて動き、余剰資金が発展途上国に投下された」そのためBRICSを中心として大きな経済成長が可能になった。そして「世界をドルという妖怪が徘徊する」ことになるなかで、中南米危機、アジア通貨危機エンロン問題等があり、サブプライムローンの問題となった。そしてドルの信認が揺らいだ。
  この10年間の世界の実質GDP         30兆ドル→ 50兆ドル
  この10年間の金融資産(M2:現金預金準通貨) 60兆ドル→180兆ドル
基軸通貨のドルが暴落すれば、日本、中国、ヨーロッパの外貨準備、米国債券も暴落してしまうため、各国で協調して金利調整や、株式債権の買い支えが行われた。この間、米国は基軸通貨国としての恩恵を最大に享受した。儲けの主体は欧米にあることははっきりしているため、彼らが儲けを吐き出すべきであるが、最終的には、ドル漬けの世界を時間をかけて、ドルとユーロとアジアの通貨の3つで徐々に薄めていくしかない。こうした文脈の中でアジアの通貨をどうするのか、具体的に考えていくしかない。中国は既に自国の元を唯一のアジア通貨とすべく動き出した。しかし中国元にはまだ多くの制約や問題があり、日本円には安全保障・発言力・成長力の点で問題があるとみられている。新たな局面を切り開くためには、今までの静かな日本路線から決別し「日本人が持つ人と組織と技術をフルに生かして豊かで強い日本をつくる」ことが必要だ。その意味では麻生・谷内ラインの「自由と繁栄の弧」という路線は名前を変えて取り上げても良いと思われる。

 ****経済成長政策****
 環境分野では、基本的には「真水」の政策に注力すべきである。
 特に石炭活用のクリーン化に焦点を当てた技術開発に注力すること。
 新たにGNPの1%相当の開発投資を行い、新たな産業を創成すること。
 米国以外の同盟国とも通常兵器について共同研究が可能な制度の導入。
 世界第7位の海洋大国として自国内資源の活用開発の積極化。

5.官僚制度
 天下り渡りに関しては廃止削減は当然だが、退職金を何度ももらえない制度とすることに焦点を当てることが重要だと思われる。同時に、定年を70歳とする制度に改め省庁内での政策研究所の充実、専門職制度の導入、議会調査局の設置、外務省の増員、インテリジェンス機関の設置など、国家のために専門知識を活用し生かす方向に切り替えていく必要がある。

6.70歳定年制の導入
 日本の経済成長力を担保するために、ロボットを活用する、外国人を入れることもあるが、定年を延長し、70歳までは元気に働けるという制度に切り替えていき労働力を維持するとともに、年金の支払額を削減して行くことを検討することも必要だと思われる。そのための制度設計に早急に始めるといった大胆な政策転換も国家戦略の中にはあっても良いと考える。

 日本人の持つポテンシャルをフルに活用し、安全で豊かな国民生活を享受できる環境を自ら作り出していくことこそ国家戦略の役割ではないだろうか。今その行方が問われている。