「屋根の上のバイオリン弾き」とウクライナ問題

 「屋根の上のバイオリン弾き」は小さな村で牛乳屋を営むユダヤ人一家の物語だが、ユダヤ人の不屈の魂の物語だとされている。それはウクライナが舞台だった。森繁久弥さんの舞台には世界からユダヤの人々が見に来たという。
 亭主関白を気取ってはいても、妻には頭が上がらないテヴィエは5人の娘たちの幸せを願いそれぞれに裕福な結婚相手を見つけようと必死に生きていたが、次第にエスカレートしていくユダヤ人排斥のため、着の身着のまま住み慣れた村から追放される。原作ではイスラエルの地へ帰還するが、ミュージカルではニューヨークに向かうところで話が終わる。
 ウクライナ問題を調べていると、それにはカラー革命やアラブの春と同じように、米国の姿が見え隠れする。ロシア語を母国語とするウクライナ人の多い親露派側はロシア軍の情報部門(GRU)の応援を受けているとされるが、ウクライナ政府側には、ブラックウォーターとかアカデミーという米国の民間軍事会社が関与していて、ウクライナの新政権の成立自体が、米国のネオコンという人々によって支援されたクーデタだとみることも出来る。ネオコンの人々は祖父母の時代に、ロシア・東欧から米国に移住したユダヤ人の子孫である。だからどうしてもヨーロッパのことだと割り切れないのかもしれない。もちろんユダヤ系の人々のなかにも、ネオコンとは違って、イラク戦争に反対し、ウクライナ問題に距離を置いている方々がいるのも事実である。
 米国の政策決定にどの人種グループがどうかかわりあっているのか、もう少し調べることも必要なのかもしれない。オバマ大統領は、シカゴのあるイリノイ州で、社会人としてスタートし、政治家となった。シカゴは多人種から構成されているが、ポーランド人が多いことが知られている。そして、ポーランドは、ウクライナでクーデタを起こした人たちが軍事訓練を受けた場所であり、ドイツとロシアに分割されていた歴史のある国なのである。
 米国において、日本が貶められ、事実とは異なる教科書が流布され、反日的な議会決議が時としてなされるのは、中国、韓国の人たちが、米国籍を取得したり、選挙を通じて議員に影響力を及ぼし、反日活動に多額の資金を供給しているからである。そこに欧州の研究と共に、米国の実態についてもっと理解を深めなければならない理由がある

想定の内外 

    1.集団的自衛権の議論
    2.邦人人質事件の後で
    3.想定の内外
    4.想像の翼

1.集団的自衛権の議論
 集団的自衛権の議論はやはりおかしい。沖縄返還にあたって、日本は朝鮮半島有事でも米国に基地の使用を認める姿勢を示したときから、実質的に集団的自衛権の行使を容認してきたという考え方に、自分は賛成だ。日米安保条約は第6条で、日本だけでなく極東、つまり韓国と台湾やフィリピンの防衛にもコミットしている。1969年の佐藤栄作首相は、朝鮮半島有事の際、「日本は米軍の基地使用について前向きに、かつすみやかに態度を決定する」と米国のナショナル・プレスクラブで演説した。米国にとって日本の基地は極東防衛に決定的に重要で、日本がそれを認めなかったならば沖縄は返ってこなかっただろう。だから北朝鮮が韓国を攻撃すれば、日本は自分が攻撃されていなくても、韓国防衛に出動する米軍に基地提供という形で武器、弾薬、兵力の補給を支援することになる。それは本質的には日本の集団的自衛権の行使である。米軍と一体になって武力行使をするのと基地提供ではレベルの違いはあるが、北朝鮮からみれば、日本と米国は一体だろう。
2.邦人人質事件の後で
 シリアにおけるISILによる邦人人質事件では結局二人の邦人が殺されることとなった。ただ正直に言えば、2年前の2013年1月のアルジェリア人質事件で10人の邦人が犠牲となった時と比較して不思議と無力感がなかった。死者に鞭打つ気はないが、シリアでなくなった二人のうちの一人がシリアに行ったのは民間軍事会社設立を目的としたものだというし、今一人のフリーのジャーナリストにしても、どこのメディアと口約束し何を目的としてシリアに行ったのかがわからないからである。戦場の子供の悲惨さを報道するためと言われてもピンとは来なかった。漠然と彼らの無事を祈っていても、いかなる意味でも彼らを英雄視することはできなかった。メディアがどんなに奇異な安倍批判をしても、事件後の安倍内閣の支持率が大方のメディアの世論調査の支持率で5%上昇したことはそう考えている人が多かったことを物語っているのではないか。
 その後、野党の政権批判は下火となった。人質交換交渉の対象となったヨルダン空軍中尉の殺害方法には本当に腹が立った。多くの日本国民は、ヨルダンやトルコは今回の人質交換交渉で日本人のために多大な配慮をしてくれたと思われる。安倍首相が「日本はヨルダン国民とともにある」との言葉を述べたことが多くを物語っているのではないかと想像する。
 戦争難民に対しての2億ドルの人道支援援助がおかしいという日本の国会議員がいた。800万人と言われるシリアの戦争難民は寒さに震えひもじい思いをすべきだとでもいうのだろうか。拘束された2人の立場を考えていない安倍首相の発言が問題だと批判する野党の指導者が何人かいた。いい加減に八方美人は止めたらどうだろう。彼らの言うことが正しいとすれば、日本の政策を変更するには、日本人の人質をとって脅せば良いことになってしまう。自らの人気取りのために発言する人達を偉くしてはならない。
 ただ安倍政権に明らかにしてほしいことは、自らの意思に反して日本国内から誘拐され北朝鮮に拉致された人々をどう取り戻すかということである。国会では、相手国の同意を得たうえでの「自衛隊による在外邦人の救出」が一つのテーマになっているそうだが、北朝鮮による拉致被害者と拉致の可能性がある特定失踪者を合わせて数百名の人々の救出は、どう考えるべきなのだろうか。拉致問題は人道の問題とされているが、普通に考えれば、主権が侵害されている。自衛権が認められるならば、所在の確認の問題はあるものの、奪還することは自衛権の範疇にあるというのが私の理解である。「自衛隊による在外邦人の救出」は、既に喫緊の課題であることはハッキリしている。きちっと実のある議論をしてほしい。同時に、駐在武官派遣の増員や大使館内での序列の引上げ、更には日本独自の情報機関と国際的な情報発信機関の創設についても着実に進めてほしいと願っている。
3.想定の内外
 新たな制度や法律を作る際に、様々な事態を想定して頭をストレッチして検討することが必要になる。しかし安全保障の議論では、周辺国の動向や見通しについて、たとえ事実であったり、十分現実的な見方であっても、政治に関係する人間がその見通しや仮説を述べること自体が問題となる可能性がある。言わずもがなということである。そのことが温和なやり方を好む国民感情と相まって「大人の判断」を理由にした「事なかれ主義」と「場当たり主義」がはびこり事態を悪化させてきた。
 ごく最近の報道で、自民党の防衛専門家は、いわゆるグレーゾーン事態の際に米軍に加え防衛協力を進めている「オーストラリア軍など」も防護の対象にすべきという認識で一致したことを知った。公明党の了解を取るために苦労しているのだろう。切れ目のない安全保障法制をつくるためにはグレーゾーン事態とは、平時と有事の中間にある状態を言う。領海に侵入した外国の潜水艦が退去要請に応じず航行を続ける場合や、漁民を装った武装集団が離島へ上陸した場合などがこれにあたると解説されている。そうした事態を、自衛隊の安全保障の教科書では準戦時と定義し、戦闘こそ起きていないものの、防衛(交戦)海域などが設定され、海上封鎖などによる経済的圧迫が行われ、船舶などの臨検・抑留・拿捕が行われ、重要な地域(水域)陸海空路の封鎖、対象国周辺への軍事力の集中・展開がなされている事態と定義している。この場合のオーストラリア「など」は何を意味するのだろうか。オーストラリアは世界有数の資源国であることから考えて、中東などからのエネルギー資源を運んでくるシーレーンや、南シナ海東シナ海が封鎖や軍事的な圧迫、尖閣諸島周辺での漁業への圧力、更には小笠原諸島周辺にサンゴ密漁船を装って海洋調査船が派遣されること自体も、既に平時ではないと考えるべきだろう。オーストラリア軍だけでなく、南太平洋のフランス軍、インド洋でのインド軍とも協力することを表現しているのだろう。協力できる国とは協力して「法による支配と航行の自由」を守らなければならない。
 しかし何らかのストーリーに基づいて安全保障法制を整備した場合、相手側はこちらの法制を研究し、国際条約や法律が想定しない方法で仕掛けてくるため、結果的に切れ目のない法制であることは難しい。その度に法律を制定して対応していては間に合わない。また国家間の条約だけでは、相手を縛れない。実行計画としてのストーリーは幾つも用意しておくべきだが、それを公表することも出来ない。だから安全保障法制はネガティブリスト方式をとらざるを得ない。ネガティブリストになった場合、禁止されていないことはなんでもやって良いことになる。非常事態に際して、警察や地方自治体と打ち合わせをしたり、個別の許可を求めていたのでは間に合わないこともあるからだ。
 しかし自衛隊を出動させた場合に一定期間内に国会に対して承認を求めることとなっていれば、事後的ではあっても国会承認という検証が安全弁として機能する。年度毎の予算によって行動が制約されているため、結果的に国民を無視した行動をとることはできない。日本以外の国は全部ネガティブリスト方式でやっているのに、日本の自衛隊がそれで問題を起こすことは考えにくい。検討の根本はネガティブリスト方式に置くべきだろう。
4.想像の翼
 メディアの評論家の中には、拙速過ぎると批判する人々もいるが、様々な安全保障シミュレーションで、中国が暴走し日本が戦争に巻き込まれるストーリーがごく普通に想定されているほど、国際情勢が急速に悪化している。今後の世界の可能性について幾つかの現実から、想像の翼を少し広げてみよう。
 1989年6月の天安門事件以降、中国共産党政権は反日を自らの正当性の根拠として延命してきた。何年か前にジニ係数0.62という貧富の格差の広がり計測されたが、それから経済社会は悪くなる一方である。公害による国土の汚染、暴力による異民族弾圧と統治、共産党幹部の国外逃亡と財産持ち出しなど、もはや何があってもおかしくはない状況にある。既に中国の国内産業をけん引してきた不動産のバブルははじけ、石炭産業での大型解雇が始まった。労働単価の上昇と共に組立生産基地としての魅力はなくなった。経済成長率が7.4%とか7.5%だと主張されているが、全くあてにならない。既にゼロ成長またはマイナス成長に陥っていたとしても驚かない。
 今、日本では春節による中国人観光客の「爆買い」の恩恵を受けている。それと経済の崩壊とがなかなか結びつかない。米国債を買い入れるという米国との金融面での連携が「元」を事実上の米国ドルとリンクさせ、米ドルのように貨幣発行メリットを享受しているのだろう。そのカラクリが露見する前に「元」の影響力を拡大しようと国際金融機関を設立を急いでいる。変動制がきちんと運用されれば、元の相場は下落するだろう。年間7000億円とも1兆円とも言われる反日活動費を米国で散財していることを考えれば、どんなに用心しても用心しすぎることはない。
 習近平政権の汚職の摘発で、2014年12月、前政権で党内序列9位だった周永康氏の党籍が剥奪された。加えて胡錦濤側近の令計画・人民政治協商会議副主席に対する調査が開始されたようだ。共産主義青年団派の中心人物である。江沢民派との勝負がつけば、次はだれが考えても団派との権力闘争となる。次の常務委員候補は団派で固められている。習近平氏は政治・軍事・外交の全般を仕切るだけでなく、2014年6月に自ら中央財経領導小組の組長となって経済政策の最終決定権を総理の李克強氏から取り上げた。この2人の敵対と暗闘が一層の経済状況の悪化を招いているのではないか。既に、実態は内戦一歩手前なのではないだろうか。江沢民派と団派が連携したとの観方もある。加えて、多業界にわたる夜逃げラッシュが各地で広がり、民間金融の破綻を誘発する悪循環が始まっているようだ。
 今後の中国は7大軍区毎にその動きを見ていく必要があるかも知れない。分裂するとすれば軍区毎に分かれていくからである。そして分裂するにせよしないにせよ、その危険性を外に転嫁しようとする圧力の中で、日中の衝突が生じかねない。その衝突は日本の意思に関らず、中国の都合で起きるので、日本としては軍備を強化し抑止力を強めるしかないのである。その際、米国なしに戦うストーリーも用意せざるを得ないだろう。金融面での協調していることに加え、ウクライナや中東で手を抜けない局面で事件が起きているかもしれないからである。中国が核兵器で脅してきた時にどう対抗するのだろうか。
 朝鮮は南北とも危機を迎えつつある。為替レートが適正化するに従って、韓国の輸出競争力が落ちている。加えて輸出先の経済状況が急速に悪化している。頼みの中国経済はこれから調整過程に入るだろうし、中国系企業との摩擦に悩まされるだろう。市場としての欧州経済も軟化している。総じてみれば韓国経済は既に中国の影響下にあり、中国の大変動をそのまま受けるしかないのではないか。大統領の任期は1期5年だが、朴槿恵政権の任期はこれから3年あるにもかかわらず、既に支持率は3割を割り、レイムダック化しつつある。朴槿恵政権は、米中のはざまで、日本の悪口を言いながら上手くやろうとしていたが、その目論見はもはや成立しない。日韓関係は、ここ数年日本がこれといった悪意ある行動をとったわけでもないのに、悪化をし続けている。韓国はつまるところ、50年前と同じように謝罪と賠償を求めているのである。ところが日本国民は、嫌韓本や朝日新聞誤報訂正事件を通じて、歴史的真実を多くの日本人が学んでしまった。韓国人が「歴史を学べ」と叫べば叫ぶほど、多くの日本人は心の中で「知らないのはどっちだ」と思っているため、今後は適切な距離を置いて行くしかないのかもしれない。米国や多くの日本人が忘れていることがある。それは北朝鮮が倒れる前に韓国において従北政権が選挙によって誕生する可能性があることだ。従北政権の反日政策はもっと過激になるだろう。その前に軍部がクーデタを起こすかもしれない。朴槿恵政権は韓国保守派の最後の希望だったが、反日政策を取り入れることによって何とか選挙に勝つことができた政権だった。韓国が混乱すると、第二次大戦後のように多くの難民が海を渡ってくるかもしれない。その時日本は彼らを受け入れるのだろうか。
 北朝鮮北朝鮮でその自壊が間近に迫っていると言われている。金政権が崩壊すれば韓国に百万人単位の難民が流れ込むことになる。韓国内は想像を絶するほどの大混乱に陥るだろう。その際の邦人救出の計画を立てなければならない。北朝鮮の国民が地続きの韓国になだれ込めば至る所で殺人やテロが頻発するだろう。その被害は在韓米軍の兵士たちにも及ぶ。ただ李氏朝鮮でも500年続いたことにを考えれば北朝鮮のような国は存外しぶとい。北に拉致された数百名の日本人を奪還しなければならない。
 最終的に朝鮮半島がどうなるかについても考えておくことが必要だろう。仮に、反日感情によって統一された統一朝鮮が成立するとすれば、日本にとって厄介である。韓国は日韓基本条約において、朝鮮半島における唯一の合法政府を主張しておきながら、西ドイツのように自らの負担で統一を図る意識がない。これまた日本の援助頼みということらしい。かなりレベルの高い人たちでも本当に危なくなれば日本が助けてくれると思っているらしい。忍耐と寛容をもって接し、報酬と援助を与えれば敵意を溶解し敵対関係を好転しえると思ってはいけないとマキャベッリが説いていた。お金を出さされた上に核兵器で脅し続ける隣国の成立に何故、協力しなければならないのだろうか。日本は早晩、自らの新たな半島政策の立案が求められることになるだろう。
 日本でもウクライナ問題は時として、ロシアが全面的に悪いかのような報道がなされることがある。しかし1年前にクーデタに倒されたウクライナのヤヌコビッチ政権は選挙で選ばれた合法政権であり、現在ウクライナに出来ている内閣は閣僚に外国人が数人入った多国籍政権となっていることは興味深い事実である。イギリスの国防相は、ロシアがバルト三国に介入する可能性を本物かつ現実的な脅威だと表現し、NATOはロシアの侵攻に備える必要があると警鐘を鳴らしているという。本当だろうか。ロシアにとってのウクライナは、米国にとってのキューバのような存在のような国だった。今は東部2州だけが問題であるかのような報じられ方をしているが、もともとウクライナは西部と東南部で、宗教が違い、言語が異なり、片や農業国であり、片や工業が中心の国だった。同時に東南部には資源があった。欧米というより米国はロシアの思惑を読み誤りウクライナ危機を深刻化させてしまった。バルト3国が独立して、元々はそれらの国を支配していた残留ロシア人グループの処遇をロシアの人々は気にしているのである。
 オランダの日本研究者カレル・ヴァン・ウォルフレン氏は、「ウクライナ危機は、米国が中央ヨーロッパやアジア地域での支配強化を目論んでいるために起きている。米国の意図は、経済的な結びつきを強めるドイツを筆頭とする欧州とロシアの関係を分断することにある。ウクライナの親露的な政府を転覆させるため、米国は右翼勢力に資金援助を行なった。その結果、腐敗はしていたが民主的に選ばれた政権が、クーデターによって倒された。欧州各国は米国のやり口を好ましくないと思いつつも、米国に従ってロシア制裁の道を選択した」と指摘している。大多数の日本国民にはピンとこないかもしれないが、自分も同意見である。地政学を学ぶとこれはかなり常識的な観方だとわかる。
 中東においては、トルコ人、アラブ人、ペルシア人の勢力変動の中で、新たにクルドの人々がシリアとイラクの地で歴史上初めて国をつくりだそうとしているかのようだ。「アラブの春」は結果として混とんと敵意を生み出した。米国はドルが世界通貨であるために、多くの戦争を引き起こしてきた。その収束の方向はまだ見えていない。中東においても平和を取り戻し、人々に希望を与える仕組みをどのように作り出すかが問われている。
 総じて、今後の世界において、中国が勝つか、米国が勝つかはロシアがどちらにつくかによって決まる。米国には、中国人指導層の家族が移住し、持ち逃げした資産を持ち込んでいる。そのことを掴んでいる米国政府は現在の中国共産党政権を恐れてはいない。同時に、中国に弾圧されているチベット人やウィグル人の気持がわからないようだ。そしてロシア憎しのあまり、ユーラシアの人々がいかに中国を恐れているかに気が付いていないようだ。そうした指導層が米国の舵取りをすれば米国の衰退は早まる可能性がある。

伊豆と沖縄とポリネシア

1.台風とウナギの回遊
 統計を調べたわけではないが、昨年はことのほか台風が多かったのではないだろうか。台風の発生から日本列島への到来の進路が報じられるのを見ていたら、台風とウナギの進路はほぼ同じであることに気がついた。ニホンウナギは、グアムの西の西マリアナ海域で、新月の晩に一斉に産卵するとわかったのは、つい数年前のことだった。
 そこで受精後数日でふ化してレプケトファルスという葉っぱの形をした仔魚となり、まず北赤道海流で西に運ばれ、フィリピンの東で黒潮に乗り換えて、4か月から6か月かけて日本沿岸にたどり着き、そこでシラスウナギに変態するのは、冬から早春にかけてのことだ。この透明なシラスウナギが河口に入ると、黒い色素が発達してクロコと呼ばれ、川の上流に移動するにつれて黄ウナギとなり、川で5-10年生活して、秋に黒く銀色の銀ウナギとなり海に下る。
 そこからが少しはっきりしないのだが、銀ウナギは親となるために、伊豆諸島・小笠原諸島マリアナ諸島、つまり太平洋プレートがフィリピン海プレートの下へ潜る沈み込み帯に伴う島弧に沿って概ね3000キロの旅をして産卵場に至り、子孫を残して生命を全うする。9月にナショナルジオグラフィックがウナギの完全養殖の現状を報告していた。技術的には可能でも、未だ大幅なコストダウンが必要な状態にあるようだ。
2.ラピタ人の移動
 太平洋に浮かぶ島々に住むポリネシア人のルーツは台湾にいたモンゴロイド系のラピタ人だとされている。その一部は紀元前2500年頃に南下を開始した。別のグループは黒潮対馬海流に乗って日本列島にも渡っており、三重県や愛知県、静岡県和歌山県などに彼らの子孫が多いと言う。南下したグループは紀元前2000年頃にインドネシアスラウェシ島に到達した。ラピタ人はここで進路を東に変え、紀元前1100年頃にはフィジー、紀元前950年頃にはサモアやトンガ、紀元1世紀頃にはエリス諸島やマルキーズ諸島、ソシエテ諸島、300年頃にイースター島、400年頃にハワイ、1000年頃にクック諸島ニュージーランドに達したという。
 ラピタの人々は、日本人のルーツの一つといっても良いのではないかという考え方がある。京大人類学の片山一道先生の記事を見ると、体の前面に入れ墨をした人の写真が出てくる。日本書紀にも、神武天皇畿内に入った時、天皇が連れていた家来が黥面をしていた事に畿内の女性が驚くシーンがあった。倭人伝は3世紀に倭人は身分の大小に関わらず入墨をしていて、九州には8世紀位まで黥面文身の風俗は残っていたと伝えられている。湘南ではサファーの人がよく入れ墨をしているが、海人族の伝統かもしれない。
3.日本への到来 伊豆と沖縄
 台湾がルーツならば与那国島は隣だし石垣島宮古島沖縄本島はご近所だ。コメの伝来にしても、揚子江下流流域からだとする説に納得できる理由が多い。話を伊豆半島に絞っても、三嶋大社は三宅島に創建されて、伊豆半島の先端、白浜の「火達山(ひたちやま)」に鎮座し、三島市遷座したと伝えられている事実とも符合する。
 白浜の神社の場所の名前からして、昨年の爆発した小笠原の西ノ島新島のような造山運動と関連した神様なのかもしれない。愛媛の大三島大山祇神社は静岡の三嶋大社と共に三島神社の総社とされるが、海と山の神様だという。
 もう一つ関連すると思われるのは、海岸地域の「えびす」様信仰である。人々の前にときたま現れる外来物に対する信仰であり、海の向こうからやってくる海神だとされている。イルカやクジラをいう場合もある。それらはカツオとともに姿を現し、漂着したものは村の副収入となり、飢饉を救う食料となった。
 「ウナギの稚魚や台風だけでなく、ラピタという南方系の海人も、海流を使って日本にやってきた」と考えると、伊豆の多くの伝承や伝説、神社・地名の由来、神話の解釈が大きく進展するのである。
 例えば、伊東の秋祭りである。伊東をはじめとする伊豆の東海岸の祭りでは「鹿島踊り」が奉納される。これは海上から弥勒船がやってくるという民間信仰を基盤にしている。それは沖縄の八重山地方のニライカナイ信仰と類似している。この2つがどういう関係にあるかという問題は、民俗学柳田国男先生(1975-1962年)が「海上の道」(1961年)で、日本という国を考えるのにどうしても明らかにしたいと書き残した問題の一つだった。
 伊豆と沖縄といえば、もう一つ有名な物語がある。椿説弓張月(ちんせつゆみはりづき)である。文化4-8年(1807-1811年)に曲亭馬琴の文章と葛飾北斎の画で出版された読本だ。正式にはその前に鎮西八郎為朝外伝との添え書きがつく波乱万丈の物語である。源為朝(1139−1170年?)は、弓の名手で鎮西八郎と称して九州で暴れ、保元の乱で父の為義とともに崇徳上皇方で奮戦して敗れ伊豆大島へ流された。そこで大島の代官の娘を妻とし、伊豆諸島の諸豪族を切り従えて自立の動きを見せたため、1170年に大島を所領とした工藤茂光は上洛して為朝の乱暴狼藉を訴え、討伐の院宣を得て、伊東氏・北条氏・宇佐美氏ら500余騎、20艘で攻めよせ、自害に追い込んだといわれている。この伊東氏というのは伊東祐親に代表される伊東の水軍だった。たしか宇佐美にも、堂ヶ島にも為朝に関連する伝承が残っていたと記憶している。
 当時の工藤茂光は伊豆を代表する牧草地だった牧之郷で良馬を多数保有していた伊豆半島最大の勢力だった。平岩弓枝氏は、馬琴の物語の面白さは荒唐無稽に徹したところにあるという。幸田露伴の「為朝」によれば、曲亭馬琴は下田に滞在していたことがあり、琉球王国の正史「中山世鑑」(1650年)や「おもろさうし」(1531-1623年)などで為朝の子が琉球王家の始祖舜天になったとされる物語を知ったという。しかし、この物語は全くの荒唐無稽なのだろうか。日本のウナギがグアム西方の海山で産卵するために旅をし、新しく誕生したウナギの子どもは一旦フィリピンに向い、そこから北上して台湾沖縄を経て日本に戻ってくる。源為朝には、名護市の北側にある国頭郡今帰仁(なきじん)の運天港周辺に東郷平八郎閣下揮毫による上陸記念の石碑が建てられている。
 ここで思い出されるのは伊豆の天城山は昔、狩野山といったことだ。応神天皇5年に伊豆の国が命じられて作った船は枯野、あるいは軽野という。ともに、カラノ、カノとも読むようだ。長さは10丈、試しに海に浮かべたら、軽く浮かび、その速さといったら走るがごとくだった。そこでその船を名付けて、「枯野」と言った。修善寺駅の南西4Kmほどの伊豆市松ケ瀬には軽野神社がある。八丈島にはアウトリガー式の丸木舟があり、それをカンノと読むという。サンスクリットでは「ノー」が船を意味するという。カヌーとカノーは語源は同じ名のではないだろうか。東海大学海洋学部にいらした先生は、古代ポリネシア語で読むべしと主張されるだろう。また稿を改めて報告したい。クスの丸木舟は杉の丸木舟よりはるかに重く堅く、長年の使用にに耐える。クスノキを市区町村の木とする街はかなり多い。大阪15ヶ所を筆頭に愛知・福岡と続き、歴史的にも海運水運に縁が深い地域である。伊豆にはクスの大木が多くそれにちなむ地名と神社がある。タブの木もクスノキの仲間だそうだ。宇久須、大久須。熊野の那智大社の祭神は熊野夫須美命であり、これもクスノキをご神体とした熊野の神だという。
 古代に、なぜわざわざ大和から遠い伊豆で船を作らせたのか。それは神津島の黒曜石を運んでいた縄文人の子孫が、伊豆のあちこちに住んでいたからだという説がある。高い造船技術を持っていたり、高い鉱物採集技術(探鉱、採掘=石工)を持っていたと考えられている。この地で船を作った人は、自分達が得意とした、太平洋の黒潮をすばやく渡りきることのできる構造の船を作った。
4.鬼と天狗
 古今著聞集の巻第十七に「伊豆国奧島に鬼の船着く事」という興味深い記録がある。承安元年七月八日(1171)、伊豆国の奥島の浜に、船が一艘着いた。島の人たちが暴風に吹き寄せられたかと思って近よって見ると、陸より六間ほど離れて船を泊めたのは鬼たちだった。上陸した鬼たちに粟酒など出すと馬の如く飲み食いした。鬼が島人の持つ弓矢をよこせというのを断ると、鬼は鬨の声をあげて弓を持つ人を打ち殺し、怪我をした九人のうち五人も死んでしまった。島人が神物の弓矢を持ち出すと、鬼たちは船に戻り、風に向って走り去った。後、鬼の落としていった帯を国司に奉った。この帯は、蓮華王院(三十三間堂)の宝蔵に納められているという。
 鬼の姿は「其かたち身は八九尺ばかりにて、髪は夜叉のごとし。身の色赤黒にて、眼まろくして猿の目のごとし。皆はだか也。身に毛おひず、蒲(水草)をくみて腰にまきたり。身にはやうやうの物がたをゑり入たり。まはりにふくりんをかけたり。各六七尺ばかりなる杖をぞもちたりける。」というが、ラグビーフアンの自分とっては、姿形の描写から思い浮かぶのはハカで雄叫びを上げるニュージーランドマオリの選手の姿である。「奥島」というのは伊豆大島と考えてよいのではないか。更に言えば、この時の神仏の弓矢が鎮西八郎為朝のものなのか、或いは為朝本人を指すとみると、為朝が琉球まで辿りつくのは、あながち荒唐無稽とは言い難くなる。
 鬼の姿形でもう一つ思いつくものがある。それは天狗である。伊豆には、思いのほか、天狗伝説が多い。伊東の仏現寺には「天狗の詫び状」がある。柏峠に毎夜天狗が出没して悪さをし、旅人を悩ましていた。そこで、仏現寺の和尚さんが峠に赴き、7日間祈祷し、満願の日に峠の巨木を伐らせた所、空から巻物が落ちてきたという物語である。
 伊豆半島西端の大瀬崎の大瀬神社は引手力命神社(ひきてちからのみことじんじゃ)である。大室山の北側の十足にはそれと対をなす引手力男神社(ひきてちからおじんじゃ)がある。委細はわからないが、大瀬神社の社殿の彫刻には、素晴らしい天狗の彫り物が、一面に彫り込まれている。引手と言えば、弓矢の引手にも通じることから、多くの武将が弓矢などを奉納しているという。鬼が欲しがったのも弓矢だった。
 松崎町の天狗碁盤石は、旧・中川村大澤里の禰宜之畑の北にあるという。上面が平らで黒白の斑点があって、盤上に碁石を並べたような石のことを言う。この辺に天狗の巣があって、天狗が碁を打った跡と言われている。そして天城山には兄弟天狗が棲んでいたという伝説がある。万太郎山には万太郎天狗が、万次郎山には万次郎天狗が、万三郎山には万三郎天狗が棲んでいた。彼らは時々山から出かけては八丁池で水浴びしていた。 万次郎山のほとりに天狗の土俵場と呼ばれるところがあるが、落葉がまるく踏みつけられて、兄弟が相撲をとっていた土俵の跡だという。
5.日本人のルーツ
 太平洋に拡がったラピタの人々はポリネシア人の祖先なので、古代ポリネシア人とも呼ばれている。その人々が台湾に来る前に大陸から来たとすれば、雲南とも揚子江下流とも言われるコメの遺伝子から見た日本人の渡来ルートとも符合する。ロシアの本を読むと、第二次世界大戦以前から、日本人はバイカル湖周辺のブリヤート人とよく姿形が似ていて同族ではないかと言われていた。最近では細胞内のミトコンドリアのDNAを調べてそれが確かめられて「日本人のルーツは中央アジアバイカル湖周辺)34% 東中国(上海・蘇州・南京周辺)15% 南中国 15% 東南アジア(北ベトナムラオス周辺)5% ヒマラヤ・チベット周辺 3.4% 東北アジア朝鮮半島経由)3.2% 中国起源渡来人 7%」となっているようだ。ご先祖様の範囲があまりにも広くて実感がわかないが、この説が広まってから、文化は全て朝鮮半島から伝来したという説をとる人はだいぶ少なくなった。ただ古代において沖縄には仏教が伝来してないので、仏教は朝鮮半島ルートで伝来したことは事実と考えられている。
 日本人の祖先が中央アジアまで至れば、 キルギスウズベキスタンの「肉の好きな人は残り、魚の好きな人は日本にいった」という伝承も事実と思えてくる。中央アジアを西に突き抜けて南下すればイランに行き当たる。奈良の正倉院の品物がシルクロードを伝わって日本に来るのと同様に、そのはるか以前に或いはその後も、人が来て文化に影響を与えたとしても不思議ではない。そしてイランと交流があったことまで辿りつくと、諏訪大社の上社の御頭祭(おんとうさい)がユダヤ教の「過越しの祭り」、そしてそれを起源とするキリスト教の「イースター」と似ていても不思議ではない。世界は学校の歴史で習う以上に、昔から繋がっているのかもしれない。
6.古代ポリネシア語で読み解く日本の固有名詞
 為朝が琉球にたどり着いたように、古代ポリネシア人が海流に乗って船を操り日本列島にやってきたことが事実とするならば、日本の神話や言葉にも何らかの痕跡影響を与えているはずだと考え、文献を探していたら、東京商船大学名誉教授で東海大学海洋学部の教授だった茂在寅男(もざいとらお)先生の所説に出会った。(「古代日本の航海術」(1979年6月小学館)、「日本語大漂流」(1981年7月光文社))先生の考え方は、伊豆の伝説伝承を説明し、柳田国男先生の海上の道の疑問を解くことが可能な仮説の一つを提示しているのではないだろうか。先生は航海学の専門家ではあるが、古代ポリネシア語から日本語の語彙の語源の一つになったという「大きな海図」を提示されている。古代ポリネシア語自体についてはハワイ語辞典を編纂されたハワイ大学のサミュエル・エルバート名誉教授の説を参照している。
 古代ポリネシア語は、紀元前200-600年頃に成立していたと推定され、そこからトンガ語とサモア語がわかれ、更にマルケサス語(タヒチの北東1500キロにあるヒバオア島などからなる仏領ポリネシアの諸島の言葉)、ハワイ語と分岐していく言語である。ハワイ語の成立が800-1000年頃とされているので、太平洋からハワイまでを1000年以上かけて言葉が拡がっていったこととなる。台湾と与那国島、南西諸島の距離を考えれば、その伝播の早い段階からラプタの人々とともに文化や古代ポリネシア語が断続的に日本に到来したと考えるのが自然だろう。 平凡社「太陽」の初代編集長だった民俗学者谷川健一先生は、退職後、沖縄や宮古といった南西諸島をはじめ全国各地でフィールドワークを行い、日本の地名や、神社の祭神、旧家の伝承を総合することによって古事記日本書紀などの伝説や物語の解釈や古代学に新局面を拓かれた。茂在寅男先生も神々の名前と地名に着目された。言語学では「固有名詞学」というらしい。神話や神々の名前そして地名の意味が明らかになる。幾つかの事例を茂在先生の本から転記要約してしておく。(日本語と南方語の関係については、村山七郎、大野晋ほかの諸先生の研究があるようだ。)

1)神話と神々
「海幸・山幸物語」同型の神話が太平洋に広く分布。釣針の喪失と探索、兄弟の争い、狩猟と漁業、異郷訪問、農業の起源、妻の出産と覗き見。
海幸彦ホテリノミコト→HO'OTELE(舵とり、水主、航海する→海彦)
山幸彦ホオリノミコト→HO'OLI(喜びを与える、幸福にさせる→幸彦)
塩椎神シオツチノ神→SIO・TUTU-I(強い風で吹き飛ばす・悩みや災い→厄払いの神)
豊玉姫トヨタマ姫→TOI-O-TAMA(激しい陣痛・of・子供→陣痛姫)
玉依姫タマヨリ姫→TAMA-I-OLI(子ども・of・喜びを与える→子育て姫)

「国産みの神話」比較神話学の論点だが、陸地が夫婦の交わりから産まれる神話は日本とポリネシアの特徴
伊邪那岐イザナギ→イ(定冠詞)・サナ(聖なる)・キ(男)→聖なる祖始神
伊邪那美イザナミ→イ(定冠詞)・サナ(聖なる)・ミ(女)→聖なる女神

「おもろそうし」は、5世紀前後から謳われている沖縄の古謡を1532年、1613年、1623年の3回に分けて編纂したもの。もともとは巫女や神官によって謡われたが、時代が下り男子によって王宮で歌われた。もし「おもろ」が「御・メレ」の変化形だとしたら、それは「歌謡、聖なる歌」を意味する。
ニライカナイ→NIALA'I-KANUIというハワイ語だとしたら「静かな・平和な・豊かな場所」を意味する。

2)地名
ワタ=ワカ(船、船乗り、海人族)
綿津見宮・海神宮→海人の宮
度会 ワタ・ライ(歓迎する)→船乗りを歓迎する国、「百船の度会」ワタ・ラウ(百、大勢)→大勢の船乗りの集まる国
*この他に和歌山、和歌浦、和田なども之に当るか

難波、浪花 ナニ(美しい)・ワ(水路・河口)→美しい河口
三原山 ミハ(波に漂う、空中に浮かび上がる)・ラ(太陽)→空中に浮かび上がるように太陽が昇る山
駿河スルガ(天国、パラダイス)
陸奥ムツ(地の果て)

7.終わりに
 12世紀の前半の工藤家と伊東家の関係を調べるうちに、椿説弓張月のモデルとなった為朝を征伐するために、工藤・伊東連合軍が大島を攻めたことを知った。はたして為朝が最後に沖縄に渡ったのかという荒唐無稽な疑問を調べるうちに、ウナギの一生と柳田国男先生の「海上の道」のことを思い出した。海流に着目すると、天狗や鬼の話が気になりだした。何か先行文献はないかと調べていたら、茂在寅男先生の航海学に裏打ちされた比較神話学と古代ポリネシア語による固有名詞学に行きついた。どれをとっても2-3冊本を読んだくらいで到底全貌はつかめないが、古代・中世の人々の行動半径は我々の想像以上に広いことだけはたしかなようだ。

邦人人質事件

 安倍首相のエジプト、ヨルダン、イスラエルパレスチナ歴訪の中に起きたISISの邦人人質事件で、2015年1月は騒然とした雰囲気の中で終わろうとしている。
 2億ドルという巨額の身代金を要求され、続いてヨルダンが収監するサジダ・リシャウィ死刑囚の釈放が要求された。ISISの目的は要求実現よりも彼らを攻撃する有志国連合を分断し、人道支援分野での日本の関与を後退させることを狙っているようだ。
 愚かな野党議員が、SNSなどを通じてテロリストと同様の主張を始めている。900万人とも言われる家と食糧がない難民をそのままにして、人道や人権は成り立つのだろうか。ISISには、言われたまま2億ドルを支払い2人を救出しろと主張する議員まで出てきたのには驚いた。愚かな議員と政党は次の選挙で確実に落とさなければならない。同様に、八方美人のデマゴーグも政治家には向いていない。何年か前の民主党政権でなくて良かったというのが私の実感だ。
 日本のメディアは、ヨルダン政府が後藤さんと死刑囚の交換してくれと言わんばかりだが、ヨルダンにはヨルダンの優先順位があることを理解しなければならない。ネタニヤフ首相が1995年に出版した「テロリズムとはこう戦え」(ミルトス1997年)を取り寄せて読んでみた。(最終章の7章対策の太字の部分を転記する。)テロとの闘いでは、テロリストの囚人を釈放してはならないというのが、大事な原則であるらしい。
 人質事件の報道で忙しくて、誰も触れていないが、今回の安倍首相のイスラエル訪問の目的は、国際制裁を受けているイスラエル経済に梃入れするとともに、最先端のサイバーセキュリティ技術の入手にあるのではないだろうか。北朝鮮の核と中国の軍事的脅威が現実のものとなりつつある中では、どうしても強化したい技術だからである。
 加えて中東を安定させるためには、ヨルダン、エジプト、パレスチナそしてイスラエルの安定が不可欠だからである。そのことは米国議会対策にもなるとみる人もいる。米国政治は、イスラエル右派に牛耳られる米国議会と、それから脱却しようとするオバマ大統領の対立と見る人がいる。たまたま米国のマケイン上院議員イスラエルを訪問していたようだ。イスラエルではもうすぐ総選挙があり、ネタニヤフさんの人気が今一つだという。
 
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 脅威の本質を知り、断固として行動する
1)テロ国家に核技術を提供する国に制裁を加える
2)テロ国家に外交的、経済的、軍事的制裁を加える
3)テロリストのエンクレープ(飛び地)を制圧する
4)西欧におけるテロ政権とテロ組織の資産を凍結する
5)情報を交換する
6)テロを煽る組織の監視と対テロ行動の規模を拡大できるように法を改正し、定期的にそれを見直す
 テロ組織のための資金調達・流用を非合法化する。
 テロを説き暴力による政府転覆を計画している組織の捜査を認める。
 テロ事件の令状規定を緩める。
 武器所有を規制する。
 移民法を厳しくする。
 市民の自由を保護するために、法の定期的見直しを義務づける。
7)テロリストを積極的に追跡する
8)テロリストの囚人を釈放しない
9)テロリズムと戦う特殊部隊を養成する
10)一般大衆を教育する

選挙が終わって  今後の日本政治

 選挙が終わった。終盤300議席を超すかと予想された自民党は単独で290議席を獲得し1人を追加公認した。安倍首相は24日に首相に指名され、第3次安倍内閣が発足する。東京1区で、民主代表の海江田氏は自民前職に敗れ、比例代表でも復活できず落選が決まり、民主党代表を辞任した。当初40−50議席を減らすと見られていたが、与党(自公)でみれば、増減なしの結果なので政権は引続き安定しているともいえるが、自民党単独では公示前の295には及ばなかったし、明確に改憲を主張していた次世代の党は所属議員を大幅に減らした。一時は自民党単独で317議席に迫る勢いもあったが、最終的には国民の警戒感が働いたとみてよいのではないか。ひとまずアベノミクスは信任された。今後は地方創生などの第3の矢が進められ、経済の足腰がどのように高められるかが焦点になる。

  自由民主党 295 → 291 
  公明党   31  → 35
  民主党   62  → 73
  維新の党  42  → 41
  次世代の党 20  →  2
  生活の党   5  → 2
  日本共産党  8  → 21
  社会民主党  2 → 2
  無所属 14、 欠員1 →  8

 安倍首相の究極の政治目標は改憲であることは変わっていないだろう。尊敬すべき政治評論家の杉浦正章氏によれば、2年後の参院選改憲関ヶ原と位置づけた政治が展開されるはずだという。最近の彼の今後の日本の政治の見通しについて抜き書きする。

改憲について「3分の2の多数を形成できるものからやっていくのが現実的」だとして、政党間の合意が出来る項目から発議して国民投票にかける作戦をとるはずだという。まず環境権、地方自治の拡充、自衛のための必要最小限度の実力組織としての自衛隊の存在を憲法に明記することを軸に、一朝有事の際や東京直下型地震など大災害時に対応する緊急事態条項が検討される。

●ただ現状における参院議席は、自民114,公明20、維新11,次世代7で、合計しても152議席であり3分の2の162議席に届かない。当面アベノミクス原発再稼働、安保法制にエネルギーを注ぎ、改憲は折に触れて問題を提起しつつも、再来年の参院選挙で参院でも改憲発議の3分の2を目指す長期戦の構えであろう。

衆議院選挙 投票日1週間前

 公示後、大手のメディアは序盤の選挙動静として一様に自民党300議席超えという報道を始めた。今回の選挙は、消費税の引上げ延期とアベノミクスの継続を名目にしているが、安倍政権の信任投票だと考える。
 今回の公示前の時点での480議席の内訳は以下の通り。この選挙では定数が5減るので、改選後は小選挙区295、比例区180の475議席となる。
 ①自由民主党 295、 公明党 31②民主党 54+8 ③第三極政党 67(維新の党 42、次世代の党 20、生活の党 5)
④ その他 25(日本共産党 8、 社会民主党 2、無所属 14、 欠員 1)
選挙の予測をする際に、公明党共産党組織力に優れているため、それだけに手堅いこと、無所属議員はそれなりに根強い支持基盤を持っていることも多い。そのため公明党ならびに④の共産党を含むその他グループを先ず定数項とみるのが自分の考え方である。とすると問題は残りの419議席をどのように自由民主党民主党、第三極の政党で争奪するかということになる。
 前回の総選挙では第三極の政党がそれなりにブームで、民主党を飛び出した人たちが幾つかの政党をつくっていたが、今回一部の人は民主党に里帰りし、みんなの党グループのある部分は、維新の党に集約された。維新の党は比較的新しいメンバーの顔を見ると、いかにも第二民主党のような顔ぶれだが、結党の中核である大阪の市長・府知事の主張は自治労依存の民主党とは相いれない。保守系の議員は、ほぼ次世代の党に集約された。維新の党、次世代の党は、今回は追い風も支援組織も個人の知名度もないだけに厳しいと思われる。
 週刊誌を中心とするマスコミ各社は全て、公示前の予測で自民党が20−50議席を減らすとしていたが、それならば伸びるところがあるはずだが、共産党を除く野党は今回伸びる要因がない。
 民主党の首脳陣は、10月末まで解散を歓迎すると言っていたにもかかわらず、いざ解散となると大義なしと言い出し、続いてアベノミクスは転換すべしと言い、最近では民主党政権時代の方が経済成長していたと言い出したので驚いた。ドルベースのGDPのことを言っているらしい。おかげで悪夢の3年3ケ月を思い出した。経済統計が読めない政党が真面な経済運営はできない。そのため野党で確実に伸びると予想されるのは、共産党だけだ。ただ8議席からのスタートである。そうであるならば、自民党の300議席越えは当然のことかもしれない。
 直前まで選挙に出ることを示唆しながら、結局、大阪市長・府知事は出馬をとりやめたが、維新の党は公明党候補のたっている選挙区には候補をたてなかった。選挙後に大阪で新しい動きが出てくると思う。

景気対策が効かない日本の景気対策

 世の中は12月14日の総選挙に向けて騒然としてきた。GDP速報値は▲1.6%だという。速報値でこんなに騒ぐのかとも思う。12月8日に確報(第2次速報)が発表されるが、そこでどう修正されても誰も文句は言えないが、ここで早めの景気対策をとるという。GDPを500兆円とすると、1.6%は8兆円。年率となっているはずなので3ケ月分は2兆円(?)。何故(?)がつくかというと、春夏秋冬の支出パターンを踏まえた季節調整という統計処理がされているはずだからだ。いずれにしても「景気が失速するか否か、デフレを脱却するか否か」が当面の経済論議のテーマになった。
 つい1週間前は「社会保障と消費税のあるべき姿」を声高に唱える人も多かった。財務省の影響を受けた人たちだ。IMFのラガルド専務理事も日本の財務省の肩を持った。IMFが困った時や増資の時にあんなに気前よく助けてくれるのは日本だけだからだ。新聞社も消費税の軽減税率の適用に難色を示されたら大変だし、エコノミストや学者は政府の審議会の委員とならなければ、統計データや政府資料の入手が難しくなる。政治家にしても財務省を敵にしても得することは少ないからだ。だから本当のことを知りたければ「財務省の考え方」とその影響力を考慮することだ。
 ニュースの解説では、在庫投資と住宅投資を理由にしていたが、本当にそうだろうか。本当の原因は、公的資本形成の遅れだと思う。東日本大震災からの復興需要、オリンピック招致の影響もあって、建設需要が過大となって人手不足が顕在化し、単価の改定と予算の上積みが遅れ各地で入札不調が目立ち、10兆円を超える未執行予算が積み上がっていることではないだろうか。短期的に見れば、消費税引上げのための景気対策が効いていなかったのである。それが証拠には、今年はあれだけ自然災害が多かったにもかかわらず、補正予算を組もうという声が起きなかった。これから追加として組まれる景気対策も、低所得者への給付と住宅購入者の為のエコポイントが中心だという。
 もう一つの問題としては、為替レートが是正されたのになかなか貿易赤字が改善されないことである。貿易赤字が増えればGDPは差し引かれる。輸出は、中国や韓国の人たちの買い物ツアーの動向を見る限りそれほど心配しなくても良いのではないか。徐々に数量が伸びてきそうだ。むしろ色々な意味で、輸入の削減・代替にどう取り組むかがポイントだと考えている。具体的にはエネルギー輸入と飼料作物も含めた食糧輸入である。
 エネルギーには、議論の多い原子力の話もあるが、コジェネや住宅の窓対策もあるし、大きくは直流送電技術の導入や地熱の活用もある。米国の嫌がるロシアからの天然ガスや電力の輸入もあるだろう。ロシアからパイプラインでエネルギーの輸入が着手されれば、エネルギーの国際価格を一層低下するだろうし、日本の安全保障を高めるだろう。もちろんその前に北方領土の返還と日露平和条約の締結が必要だ。それには集団的自衛権の議論も必要だし、中国やロシアから脅されたら米国さんお願いしますでは、話にならない。
 エネルギー価格が低下すれば、安価な水素エネルギーも手に入るし、ミドリムシのような微細藻類だけでなく、植物工場や魚の養殖も大幅にコストダウンできる。そして新たな産業がおきてくる。
 日本の山にはイノシシやシカが溢れるだけの生産力がある。それを食べるのも悪くはないが、高齢者の活用も兼ねた牛や羊の山地酪農への転換も可能だろうし、里山を整備しバイオマス燃料として活用する手もあるだろう。高齢者だって、ロボットスーツを身に付ければ重たいものも持てるし、山登りも可能だ。何より新たな雇用になるし生きがいを見出だす人も増えそうだ。そしてロボットスーツは日本が世界に輸出する新たな商品となるだろう。
 まだまだやれる景気対策があるのは、能力があって真面目な人が多い日本だからである。不幸中の幸いは、安倍首相が財務省主導の経済運営にならないように留意し「デフレ脱却」を政策の中心に置き、消費税の再引上げには距離を置いてみていたことである。そして11月になってアッという間に、再増税ありきの自民党を含めた多くの政治家の考え方を変えたことだ。内閣参与の浜田先生は、アベノミクスの金融緩和、財政の機動性、構造改革の3本の矢に、それぞれ「A」「B」「E」の評価をつけたという。構造改革は安倍さん一人がやるものではない。新たな産業と地方の創生を願いつつ一票を投じたい。