景気対策が効かない日本の景気対策

 世の中は12月14日の総選挙に向けて騒然としてきた。GDP速報値は▲1.6%だという。速報値でこんなに騒ぐのかとも思う。12月8日に確報(第2次速報)が発表されるが、そこでどう修正されても誰も文句は言えないが、ここで早めの景気対策をとるという。GDPを500兆円とすると、1.6%は8兆円。年率となっているはずなので3ケ月分は2兆円(?)。何故(?)がつくかというと、春夏秋冬の支出パターンを踏まえた季節調整という統計処理がされているはずだからだ。いずれにしても「景気が失速するか否か、デフレを脱却するか否か」が当面の経済論議のテーマになった。
 つい1週間前は「社会保障と消費税のあるべき姿」を声高に唱える人も多かった。財務省の影響を受けた人たちだ。IMFのラガルド専務理事も日本の財務省の肩を持った。IMFが困った時や増資の時にあんなに気前よく助けてくれるのは日本だけだからだ。新聞社も消費税の軽減税率の適用に難色を示されたら大変だし、エコノミストや学者は政府の審議会の委員とならなければ、統計データや政府資料の入手が難しくなる。政治家にしても財務省を敵にしても得することは少ないからだ。だから本当のことを知りたければ「財務省の考え方」とその影響力を考慮することだ。
 ニュースの解説では、在庫投資と住宅投資を理由にしていたが、本当にそうだろうか。本当の原因は、公的資本形成の遅れだと思う。東日本大震災からの復興需要、オリンピック招致の影響もあって、建設需要が過大となって人手不足が顕在化し、単価の改定と予算の上積みが遅れ各地で入札不調が目立ち、10兆円を超える未執行予算が積み上がっていることではないだろうか。短期的に見れば、消費税引上げのための景気対策が効いていなかったのである。それが証拠には、今年はあれだけ自然災害が多かったにもかかわらず、補正予算を組もうという声が起きなかった。これから追加として組まれる景気対策も、低所得者への給付と住宅購入者の為のエコポイントが中心だという。
 もう一つの問題としては、為替レートが是正されたのになかなか貿易赤字が改善されないことである。貿易赤字が増えればGDPは差し引かれる。輸出は、中国や韓国の人たちの買い物ツアーの動向を見る限りそれほど心配しなくても良いのではないか。徐々に数量が伸びてきそうだ。むしろ色々な意味で、輸入の削減・代替にどう取り組むかがポイントだと考えている。具体的にはエネルギー輸入と飼料作物も含めた食糧輸入である。
 エネルギーには、議論の多い原子力の話もあるが、コジェネや住宅の窓対策もあるし、大きくは直流送電技術の導入や地熱の活用もある。米国の嫌がるロシアからの天然ガスや電力の輸入もあるだろう。ロシアからパイプラインでエネルギーの輸入が着手されれば、エネルギーの国際価格を一層低下するだろうし、日本の安全保障を高めるだろう。もちろんその前に北方領土の返還と日露平和条約の締結が必要だ。それには集団的自衛権の議論も必要だし、中国やロシアから脅されたら米国さんお願いしますでは、話にならない。
 エネルギー価格が低下すれば、安価な水素エネルギーも手に入るし、ミドリムシのような微細藻類だけでなく、植物工場や魚の養殖も大幅にコストダウンできる。そして新たな産業がおきてくる。
 日本の山にはイノシシやシカが溢れるだけの生産力がある。それを食べるのも悪くはないが、高齢者の活用も兼ねた牛や羊の山地酪農への転換も可能だろうし、里山を整備しバイオマス燃料として活用する手もあるだろう。高齢者だって、ロボットスーツを身に付ければ重たいものも持てるし、山登りも可能だ。何より新たな雇用になるし生きがいを見出だす人も増えそうだ。そしてロボットスーツは日本が世界に輸出する新たな商品となるだろう。
 まだまだやれる景気対策があるのは、能力があって真面目な人が多い日本だからである。不幸中の幸いは、安倍首相が財務省主導の経済運営にならないように留意し「デフレ脱却」を政策の中心に置き、消費税の再引上げには距離を置いてみていたことである。そして11月になってアッという間に、再増税ありきの自民党を含めた多くの政治家の考え方を変えたことだ。内閣参与の浜田先生は、アベノミクスの金融緩和、財政の機動性、構造改革の3本の矢に、それぞれ「A」「B」「E」の評価をつけたという。構造改革は安倍さん一人がやるものではない。新たな産業と地方の創生を願いつつ一票を投じたい。