「ヨーコ物語」について

 「ヨーコ物語」というのは「So Far from the Bamboo Grove」という原題で日系米国人ヨーコ・カワシマ・ワトキンス が1986年出版した自伝的小説だ。日本では翻訳されていないので知る人は少ない。戦争の悲惨さを訴える資料として、米国では優良図書に選ばれ中学校用の教材として多くの学校で使用されていた。
 満鉄社員の娘だったヨーコが11歳だった第二次世界大戦終戦時に体験した朝鮮半島北部の羅南からソウル、釜山を経て日本へ帰国する際の状況を描いている。1945年夏の北朝鮮からの脱出記であるため、物語には進駐ソ連軍や北朝鮮共産主義者たちも登場する。いわゆる「引揚者」の体験談の一つである。裏表紙からそのまま引用すると
 Their journey is terrifying - and remarkable. It's a true story of courage and survival that highlights the plight of individual people in wartime. In the midst of suffering, acts of kindness, as exemplified by a family of Koreans who risk their own lives to help Yoko's brother, are inspiring reminders of the strength and resilience of the human spirit.
 5年程前に、在米韓国人の子女が通う米国の学校では、韓国人父母などの抗議によって禁書になったと産経の黒田さんが報じていた。その「ヨーコ物語」を再び採択するボストンをはじめとするマサチューセッツ地域の米国学校が増えているという。それに対してまた全韓人社会が英語教材の内容に関心を持ち、ヨーコの話の完全排除するために努力しなければならないという運動が起きているという。
 何が問題視されたのかというと、引き揚げの際に日本人が受けた暴行や略奪などの記述がけしからんということらしい。植民地支配の加害者である日本人を、被害者のように描いているのは歴史歪曲だという。歴史的事実と無関係に主張がドンドン過激になっていく。
 引揚げ者の苦難は、少し年配の日本人ならば、大陸から引揚げてきた人々に何が起きたかを知っている。暴行や略奪自体が腹立たしいことなので誰も口に出さないが、歴史の歪曲ではない。