水の政治経済学(1) CO2よりH2O

地球温暖化対策基本法は、極めて奇異な法案だ。「温室効果ガスの排出量について、すべての主要国による公平かつ実効性のある国際的な枠組みの構築及び意欲的な目標の合意を前提として、2020年までに1990年比で25%削減する。また、2050年までに1990年比で80%を削減する。 再生可能エネルギーの供給量について、2020年までに一次エネルギー供給量に占める割合を10%に達するようにする。」との由である。前提が成立しないならば、この法律はどうなるのか。普通の日本語を前提にすれば、この法律は無効だ。別の読み方があるなら、どなたか最新の霞が関修辞学を教えてほしい。
 昨年来のクライメイト・ゲート事件では、IPCCの権威が地に落ちた。IPCCの温暖化説にかかわった学者達の電子メールのヤリトリが公表され、データの粉飾と嘘が次々と暴露されているからだ。ついにIPCCは本年2月末に第5次報告書の作成プロセスを見直すと発表せざるをえなくなった。一方で温暖化どころか、太陽黒点の観測に基づいて、これからはミニ氷河期だと主張する人々も増えてきている。
 いずれにせよ、はっきりしていることは、日本が二酸化炭素を30%削減(05年比)しようが80%削減しようが、削減論者の論理にのっとって考えれば、地球の温暖化は止めることが出来ないという結論となるのではないか。中国や米国のエネルギー消費の構造をみれば、まだ雑巾の水を絞っていない彼らにしても二酸化炭素の排出量を大幅に減らすのは極めて難しいと思われる。絞り切った雑巾をもつ日本は、この削減を実行しようとすれば、経済成長率を大幅に引き下げることになる。しかも地球温暖化は止まらないという悲劇的な結論となる。ただ割り切って考えれば、温暖化が進んでも、日本列島は南北に細長いので、気候変動に強く、生き残ることが可能だ。歴史が証明している。また周りを海に囲まれているのであまり影響がないという人もいる。もし本気で国際貢献を考えるなら、自分の頭で考えられない政府を持つ国民の一人として、あまり大それたことを言うべきではないが、環境問題では、二酸化炭素の問題より水の問題の方が、はるかに切実だ。温暖化にしろ氷河期にしろ、気候の変動自体が水の問題を引き起こすからだ。
 09年の初めの世界経済フォーラムでは、石油よりも水が貴重な資源になり、今後20年以内に水の獲得競争がひどくなると指摘されていた。中国の1人あたりの使用可能量は世界平均のわずか4分の1しかないという。パレスチナ紛争も、複雑な歴史的問題とともに、ヨルダン川の水をイスラエルが独占しているといった面から考える必要があるという。水の不足は、食料危機や紛争に直結する問題だ。日本は島国なので国際的な水争いがなく、つい最近まで水と安全はタダだと思っていた幸せな国だった。多くの人は忘れているが、江戸時代、水利権は一家の存亡、村の存亡をかけた大問題だった。八ツ場ダム建設中止問題に対する都道府県知事さんたちの発言で、今なお水利権の調整が行われていることを久しぶり思い出させてくれた。たしか三多摩が東京に編入されたのは玉川の水利権が理由だったし、明治維新後、暫くして伊豆が静岡県編入されたのは、静岡の中西部の河川の治水費用を捻出するためだったと聞いたことがある。明治の政府にとっては治山治水は喫緊の課題だった。そして山に多くの木が植えられた。日本は森林面積が増えている数少ない国の一つでもあるそうだ。戦前生まれの日本の植林学者が中国やインドに行って植林をしている事実には本当に頭が下がる。テロの撲滅や世界の平和を考えるならば、水の問題にまず取り組むべきではないだろうか。そして日本の水利権の調整のやり方について研究がなされるべきと考える。
 2009年から2050年までに世界の人口は3割強増加する。その間に農産物の需要は7割増加し、食肉需要は倍増するといわれている。所得が上がり食生活が豊かになることは良いことだが、より多くの水が必要になる。気候変動の影響を考えれば、ドリップ式の灌水設備、不耕起栽培、より効率的な肥料や農薬の利用、水をあまり必要としない遺伝子組み換え穀物の開発などが必要だ思われる。海水の淡水化や上下水道の更新、世界有数の海洋国家として海をそのまま代替農地にしてしまう方法なども模索されてもよいだろう。地域研究ももっと精力的に行われても良いだろう。水と安全がタダだと思える世界を作る一助となる研究や活動ならば、日本人ももう一度、本気になれる気がする。

国家間の紛争と河川

 ヨルダン川レバノン、シリア、イスラエル、ヨルダン、パレスチナ

 ナイル川;エジプト、スーダンエチオピア

 チグリス・ユーフラテス川:トルコ、シリア、イラク

 ガンジス川:インド、バングラデシュ

 アムダリア、シルダリア川:カザフスタンウズベキスタン

 セネガル川:セネガルモーリタニア、マリ、ギニア

 オレンジ川:南アフリカナミビア

 ニジェール川:ナイジェリア、ニジェール、ベニン、マリ

 アムール川:ロシア、中国

 ザンベジ川ザンビアアンゴラジンバブエモザンビーク

 インダス川:インド、パキスタン

 コロラド川:米国、メキシコ

 ドナウ川スロバキアハンガリー

 メコン川:中国、タイ、カンボジアベトナム