ウクライナからアジアへ

   1.クリミヤ半島はロシアの影響下へ
   2.米国は大丈夫だろうか
   3.ドイツとロシアの協調 
   4.ウクライナからアジアへ

1.クリミヤ半島はロシアの影響下へ
 ロシア軍と思われる国籍不明の武装勢力がクリミヤ半島を出現した後、オバマ大統領は「ロシアがクリミアから撤退しなければ重大な結果を招く」と警告した。これに対してロシア上院は、ロシア人保護を理由に、ウクライナへ動員することを全会一致で承認した。
 もともとクリミヤ半島の南端の西側には、ロシアの黒海艦隊の母港のセバストポリある。南端の東側が、ヤルタ会談が開かれたヤルタだ。クリミア半島には大部隊のロシア軍がずっと駐留している。黒海隊司令部、海軍歩兵旅団司令部に加えてミサイル連隊が4個4カ所あり、海軍航空隊が数カ所の軍事空港を持っている。クリミヤには通信施設を含めて12カ所以上の基地があるという。駐留兵力は2万数千人で、2500人の歩兵と、数百人の特殊部隊が含まれている。今回、さらにロシア本土から6千名が増派されているという。
 クリミヤ半島の住人は6割がロシア人、2割5分がウクライナ人、残りの1割強がクリミヤ・タタールであり、管轄こそウクライナだがロシア人の街であり、ロシアにとっては歴史的にも思い入れの深い土地である。
 そのクリミヤでは武装勢力が議会を占拠してそこで新たな首相が選ばれた。ウクライナの首都キエフで起きたのも、そうしたクーデタだった。デモというよりも内戦と名づけるべきだと思えてならない。クリミヤの新首相は、クリミヤとウクライナ、そしてロシアとの関係を決める住民投票を3月末に行うという。ロシアは現在の協定でも2045年までセバストポリに基地を置くことになっていた。しかしウクライナの新政権の考え方によっては、黒海艦隊も追い出されかねないというのがロシア側の見方だったのではないか。クリミヤがウクライナから独立するかどうかはわからないが、少なくとも、ウクライナからの自治権がグッと強化されそうだ。クリミヤは完全にロシアの影響下に入った。
 米国の国務長官は、ロシアに対し、資産凍結やビザ発給停止、貿易制限などの制裁を検討するとしたが、軍事的な対抗措置は検討していないという。NATOにしたところで、ウクライナは加盟国でないので集団的自衛権が、直ちには発動されるわけではない。それに対してプーチン大統領は、一転、ウクライナ国境で行われていた15万人の軍事演習を終了し、欧州やIMFとの協調路線を打ち出した。
 ロシアはクリミア半島を確保し、本土のウクライナは全世界から金融支援してもらうことになれば、ロシアにとっては良い成行きではないだろうか。そうした状況を我慢できない勢力が多ければ、ウクライナの内戦は長く続くことになる。
2.米国は大丈夫だろうか
 実はここ数日、ウクライナ問題に関しての米国の様々なコメントを見ていて、余計なことながら米国は大丈夫だろうかと思わざるを得なかった。ロシアを「常軌を逸している」「想定外」「ロシアにはだまされない」などと批判しているが、米国には、心動かされる具体的な主張が何もないのである。ウクライナやクリミヤの歴史、東西地域の特徴などを知れば、ロシアの行動は十分予測されるものだからだ。
 もちろんウクライナの将来はウクライナの人々が決めれば良いことだが、西ウクライナガリツィア地方は、もしかしたら独立するか、ポーランドと一緒になる可能性もあるかもしれない。また東部地域ではロシア語が使われ、ロシア系の人々が多く、軍事産業や宇宙航空産業、原子力関連の研究所を中心とした機械産業があるため、モスクワが無関心でいることは難しい地域である。2013年12月に米国の国務次官補はキエフを訪れ、大統領と会談したり、火炎瓶闘争をしているデモ隊になぜ食糧を配ったのだろうか。カナダのアルバータ州エドモントンウクライナ移民の子孫が故郷の民主化を支援するのと訳が違う。
 その意味では自民党の石破幹事長の「(ロシアの動員令は)ウクライナにおける自国民保護ということなのであって、日本流に言えば邦人救出という話だ。・・・武力の行使とか、武力介入という言葉とは少しニュアンスを異にするのではないか」という見方に大筋で賛成だ。
 むしろ何故米国が、ロシアを必要以上に孤立させ、冷戦を再現させようとしているのかが分からないのである。何か隠れた狙いが別にあるのだろうか。ウクライナの問題で世界全体を冷戦構造に変えようとしているのだろうか。しかもロシアを孤立化させるとまで言いながら、軍事力の使用を考えていないと表明したことは、東アジアに「災い」をもたらしかねない発言だった。
3.ドイツとロシアの協調 
 今回のウクライナ危機の中で興味深かったのはドイツとロシアの協調だった。ドイツのメルケル首相は3月2日にプーチン大統領と電話で会談し、欧州安保協力機構などが主導するウクライナ調査団を派遣し連絡グループの設立などに合意した。東ドイツ育ちのメルケル首相はエカテリーナ2世を尊敬していてロシア語が得意だという。プーチン大統領もドイツ駐在の経験があり、ドイツ語が得意だった。
 ロシアは、欧州に天然ガスを供給しているが、パイプラインが通っているウクライナベラルーシとの間でのトラブルが絶えなかった。そのたびに、パイプラインで供給するガスの量と価格が問題になり、ガスプロムはその2国を北と南に迂回して直接、欧州に直接供給するルートを計画し建設してきた。
 1つはバルト海経由のノルド・ストリームであり、ロシアのサンクトペテルスブルグ近郊の街からバルト海の海底を通って、ドイツに陸揚げされる。その距離は1200kmで最大水深210mの海底パイプラインで2011年11月に開通している。
 もう一つはサウス・ストリームである。黒海ブルガリアを経由してギリシャ・イタリア・オーストリア天然ガスを輸送するパイプラインだ。こちらは2013年に建設を開始し、2015年からガスの供給を始める。まだサウス・ストリームは完成していない。
 新聞記事を調べていると、興味深い記事が出てきた。それが事実だとすると、どうもウクライナは石炭とウランだけではなくて、天然ガスにも恵まれた国らいい。2012年の8月に黒海沖の天然ガスの開発を米国のエクソンが旗を振って開発し、シェールガスは、米国石油大手のシェブロンが中心となって開発することが決まったという記事である。ウクライナのガスを開発すれば、欧州のエネルギー面でロシアへの依存は低められ、ロシアにガス価格を引き下げさせる効果があるとしていた。もしかしたら、このあたりが、ウクライナを今回「強引」に欧米側に取り込みたい本当の理由かもしれない。米、英、仏、カナダの4か国は、6月にソチで開催されるG8の準備会合への参加を取りやめると言い出した。ウクライナ移民が多いカナダを除いて、英米仏は国際石油資本の母国である。残りは、日本、ドイツ、イタリアだった。最終的にはG7としては4か国に意見を同調させられたとみる。
 中長期的にウクライナは、年間で約40億立方メートルの海底の天然ガスを生産し、1兆立方メートル規模のシェールガス田を持つ資源国なのである。ウクライナ南部のオデッサなどがある海岸地帯は、東側のロシア語地域に属する。東西に分割されれば、東側のほうがその資源のメリット受けることになるため、分離・分割には反対というグループも出てくるだろう。文化も話す言葉も、歴史も違う地域が一つの国であれば、その統合にはどうしても苦痛が伴うと言わざるを得ない。
 米国のケリー国務長官はロシアをG8から除外したいとまで言い出したという。正気だろうか。ロシアと再び冷戦を開始して、どのように核軍縮を進めるつもりなのだろうか。ドイツは天然ガスの4割をロシアから輸入し、日本は石油と天然ガスの1割を輸入している。
4.ウクライナからアジアへ
 日本にとってはエネルギーの調達以上に、もっと大きな問題がある。それは中国との軍事衝突の可能性である。米国海軍の現場の情報部は、日本と中国の間で「短期的に激しい戦争」があると警告している。その対象が、尖閣諸島だとすれば、第一義的には、米軍はあてにはならないと覚悟しなければならない。
 ペンタゴンは、中国軍との「密接な関係」を望んでいて、それはオバマ政権の方針に従ったものだ。オバマ政権が中国が結んだとされる米中通貨同盟と日米安全保障条約とでは通貨同盟が重い。何よりも、中国共産党政権の親族は米国に在住していて、彼らがどんな生活をしているかは、米国はつぶさに把握しているだろう。だから中国とは最終的に話が付くと思っているのではないだろうか。
 日本は、そうした状況を踏まえたうえで、「短期的に激しい戦争」に備えなければならない。軍事力が自立していない日本は米国にはっきりとしたものが言えない。古き良きアメリカはもうどこにもないと知米派の識者が書いていた。米国の外交は、いつも米国の国益を最優先して動いている。日本だけが例外ということなどないだろう。 
 シェールガスの開発が進み、米国東海岸の沖にある海底油田が開発されれば、米軍が東シナ海、西太平洋、南シナ海、インド洋を守る理由は大きく減じ、そこから引き上げることもあるだろう。そして、そこに大きな軍事的変動が起きる。だからこそ、日本は自分の国を自分で守る体制を作り、一日も早く米国と対等な関係にならなければならない。