忘れられた殿様の反乱 今ひとたびの夢

1.久しぶりの日本のリーダーの登場 安倍首相の高まる評価
 2013年12月の週刊ダイヤモンドに載ったユーラシア・グループのイアン・ブレマーのインタビュ-が興味深かった。「オバマ政権が揺れているが、・・・米国経済の成長に影響がなかった。・・・米国には、最も刺激的で利益率が高い大企業が全てある。米国は近々、世界最大のエネルギー生産者となり、今後も成長する。世界最大の食料生産国でもある。革新的な製品も米国からだ。3Dプリンターは、製造業の発想を一変させた。政府が機能していなくても、米国経済はまだ伸びる余地がある。・・・世界のリーダーを見渡してみると、安倍首相は、最も効果を上げているリーダーの一人といえる。・・・原子力発電所の再稼働の方針は、人気がないが、資源国ではない日本にほかの選択肢はない。福島第1原発の事故は悲惨で、今後も悲劇であり続けるが、第4世代の原発ではそういうことは起きない。日本がきちんと何かを遂行しようとすれば、新幹線システムのように、完璧にすることができる世界一の能力があるのはわかっている。・・・日本にとって最も重要なのは中国との関係だ。・・・最も重要なのは、「虎にちょっかいを出すな」ということ。彼らは、日本にとって災難となるようなことを引き起こす口実を探している。」虎への対処法については異論があるものの、欧米の識者の代表的で常識的な見方ではないだろうか。
2.恐れられている田母神人気 
 東京都知事選挙の告示日は1月23日であり、2月9日が投票日となる。今回の「東京都知事選挙」に関しての報道は明らかに可笑しい。秋葉原の前での田母神候補陣営の盛り上がりを全く報じないのはかなり異常だ。3時間近く聴衆が立ったままの会場は熱気に包まれたが、総勢600人を超えたという。あれほど多くの聴衆が、真剣に聞き入っている姿を、なぜ既成メディアは報道しないのだろう。さらにニュース報道では、宇都宮氏と田母神氏も入れて事実上4人の戦いなのだが、田母神候補の紹介の後には必ずドクター中松候補を入れて5人紹介する。失礼ながらドクター中松候補はもう何回も選挙に出ているが、そうした報じられ方をしたことのない候補だ。「大手メディア」は、どうしても田母神候補を泡沫扱いしたいようだ。
   http://www.youtube.com/watch?v=qkmByf7g0Ik&feature=player_detailpage
 好き嫌いを別として淡々と考えた1月11日時点での自分の見方は、舛添250万票、田母神170万票、細川140万票というものだった。田母神氏が逆転するとすれば、若者と自民党の女性票の動きだと思っている。舛添候補と田母神候補の差は公明党支持票の差であり、保守票の半分は田母神候補に投票するとみた数字だ。各種の報道機関も調査結果も出始めたようだ。舛添氏が最も大勝する可能性として舛添340万票、細川150万票、田母神70万票、宇都宮70万票という見方もあるようだ。そういう二強対決に強引に持っていこうという誰かの意思を感じる。
3.忘れられた殿様の反乱 今ひとたびの夢
 大きな見方の差があるのは、細川護熙元首相(76歳)の取り上げ方である。たしかに知名度はあるし、小泉元首相の支持を取り付けた。各種のメディアはトップ・ニュースで報じているが、「脱原発」以外には公約がなく、その発表も告示直前の20日の発表が繰り延べられた。辻褄を合わせようとしているが、都政ではなく、国政を左右するための出馬なのではないかとみている。
 過去の歴史を紐解けば、熊本の殿様の末裔である細川が政治の中心に出てきたのは、1992年5月に「文藝春秋」誌上で提唱した、自由社会連合を母体として既成の政治や政党を打破して日本に新しい政治体制を作り上げるという理念のもと日本新党を結成したからである。それが「ジバン(後援会組織)、カンバン(知名度)、カバン(選挙資金)」のない多数の政治家を国会に議員を送り込んだことにあった。55年体制崩壊をもたらした「新党ブーム」の火付け役となったのがきっかけである。
 具体的には1993年(平成5年)7月の衆議院選挙において自民党は離党が続き、解散前の議席数は維持したものの、単独過半数には達しなかった。自民党を離党した羽田・小沢が結成した新生党、同じく武村正義らのグループが結成した新党さきがけ、前熊本県知事の細川護煕が前年に結成した日本新党の3新党は合計100議席余りを獲得し、新党ブームのあおりを受けた日本社会党は70議席に半減したのだった。
 羽田・小沢の新生党は速やかに動いて社会党公明党民社党社会民主連合民主改革連合の各党派と「連立政権を樹立する」ことに合意した。選挙後の1993年8月に日本新党とさきがけは「さきがけ日本新党」をつくり、キャスチングボートを握った。そして自民と非自民双方と「政治改革の実現」を条件とする連立交渉に入った。双方とも条件の受け入れを表明したが、「細川首相」を提示した小沢の主導する非自民側が取り込みに成功し、8月9日、38年ぶりの政権交代が実現し、政治改革を掲げる非自民・非共産8党派連立内閣が発足した。
 その内閣の首相が細川護熙氏である。1994年1月には紆余曲折の末ではあるが政治改革4法が成立した。政治改革が実現したことによって連立政権は目標を失うと同時に消費税を国民福祉税と衣替えして税率を7%に引き上げようとした「国民福祉税構想」騒動などがおこり、求心力を失っていった。
 ある評論家が今回の騒動を、「政治主導」と叫んで政権を取り、日本を混乱に陥れた民主党政権を彷彿させると書いていたが、歴史的には民主党の源流・本家が「さきがけ日本新党」なのである。そして細川の政治資金規正法違反の佐川急便からの借金問題が明らかになると、追及されるのが嫌で内閣をほうり出したとされている。
   *「さきがけ日本新党」の出身者の現在の所属
 民主党: 鳩山由紀夫(2013年6月離党)、菅直人野田佳彦海江田万里前原誠司玄葉光一郎枝野幸男江田五月など
 維新 : 山田宏中田宏小沢鋭仁松野頼久
 自民党: 茂木敏充鴨下一郎小池百合子
 政治評論家の田中秀征氏もこのグループにいた。細川内閣では武村が内閣官房長官、鳩山が内閣官房副長官、田中は特別補佐として細川に仕えていた。
 田中の最新の論説はいつもとは違って急に筆が荒くなり、安倍政権が優先している①特別秘密保護法の実施、②憲法の解釈変更による集団的自衛権の行使、そして③原発のなし崩し的再稼働を思い通りには進ませないと書いている。要するに細川さんのブレーンも周りの人も関心があるのは国政であって都政ではない。
 「原発問題」を今回の東京都知事選挙の最大の争点にしたい人がいることはわかるが、国政の敵を江戸で討っても、都民の課題の解決にはならない。小泉元首相もそうだが、「タイミングとキャッチフレーズ」で生きてきた人の時代では、もうないと思う。
4.都政の課題とエネルギー問題
 2020年のオリンピックパラリンピックを成功させることも大事だが、アジアの中だけでも、シンガポール、香港、上海、ソウルなどとの厳しい国際的な都市間競争に負けない東京を作り上げることも必要だ。各市区の特性に合わせた街づくりと役割分担、更には、先を見通した東京全体の課題には今から取り組まなければ間に合わない。
 4人に1人が65歳以上の高齢者という世界に例のない超高齢化都市になることに加え、地価や家賃が高いため一人暮らし老人も多い。多摩地域の老齢化対策と環状6号7号の間の木造住宅の密集地域には大きく手を入れなければならない。インフラの老朽化も深刻である。下水道施設の約1割は50年を超えている。30年を超えた高速道路が約半分を占めている。大きな資源を投入しなければ更新はできない。
 エネルギーの議論の仕方にも注文がある。「目標達成までのプロセス」を是非説明してほしいのである。「直ちに原発ゼロ」をもし政権が決断しても、すでに原発は福島に限らず存在している。すべての原発廃炉にしたとしても放射性廃棄物は残る。だから捨て場所は絶対に確保しなければならない。その意味で原発の再稼働に賛成反対を問わず、放射性廃棄物の最終処分場に決着をつけなければならない。それが政治の責任である。都政はそれに関与できるのだろうか。
 また今、原発が再稼働できず、発電を石油やガスの輸入に頼っているが、その原燃料費用の増分が3兆6000億円である。産油国は、日本の事情をよく知っていて、強気で値段をふっかけてくる。ロシアからのLNGを輸入も、根本的な解決にはならないだろう。消費税の3%増税の増収は、およそ4兆円と予想されるが、ほぼ同じ金額が海外に流れていく。
 発電コストから考えて風力・太陽光といった自然エネルギーの可能性はまったくない。太陽光発電の強制買い取りは、1キロワット時あたり42円少し下がって39円であり、原子力の発電費用は、事故の賠償費用などをかなり大きく見積もった20兆円を加えても10円を少し超える程度である。使用される土地の面積からいってもJR山手線の内側の面積(約58平方キロメートル)に太陽光パネルをびっちり敷き詰めても原発1基分(100万キロワット)の電力しか生み出せない。
 電力生産・消費は、国力とも言われている。経済学的には、電気を沢山使う国の景気が良く、潤沢に使える環境整備が必要だ。日本が国際的に進んでいる技術である原発を、全面的に停止するという方針になれば、経済の活性化は胡散霧消する。原子力発電技術は、これからも維持して改良する必要があり。原発をやめたらその技術の維持できない。世界的には、朝鮮半島から東シナ海にかけて、原発が林立しており、中国や韓国は、輸出ビジネスにも積極姿勢にある。日本の原発は60%くらいの稼働率だが、韓国の原発稼働率は90%以上だという。工事も粗雑だ。中国では原発事故などしょっちゅう起きているが、全く報道されない。しかもこれらの国に耐震技術などを期待することはできない。これら中国・韓国の原発が重大な事故を起こせば、その影響は日本に及ぶ。