水文学

「水文学」という学問の分野がある。「水ぶんがく」ではなくて、天文学のように「すいもんがく」と読む。地球上の水循環を対象とする地球科学の一分野で、水の供給源としての降水の地域的・時間的分布特性、蒸発、浸透、陸水や地下水の移動が主な研究対象だ。今まで理学・工学・農学などの狭間で地味な学問だったが、気候変動が激しくなり、中国の環境汚染や水不足、巨大ダムの建設の問題もあって少し光が当たり、政治学や国際関係学でも大きな意味を持ちつつある。
 アジアの平和を構築するためには、東シナ海南シナ海における法と秩序の確立とともに、チベットに水源をもつアジアの国際河川の管理と水の配分が重要になっている。水争いは、日本でも戦国時代の絶対君主であってもに口を出せなかった分野だとされている。これはアフリカの国際関係でも重要だ。経済が発展するためには、農業生産力が重要だが、アフリカの大きな河川でも中国がこの10年間、巨大なダムを幾つも建設している。
 中国の指導者たちは、今まで、どういうわけか、ダムや発電の専門家としてスタートした理系の人が多かった。温家宝さんは地質調査の専門家であり、胡錦濤主席夫妻はダムの専門家だった。彼らの前の世代の李鵬首相は、水力発電の専門家であり、江沢民主席は三峡ダムの開発を推進してきた。もともと中国は水が不足している国だ。1人当たりの水資源量は約2000立方メートルで、世界平均の4分の1しかない。国際基準では、1人当たりの水資源量が3000立方メートル以下は軽度の水不足、2000立方メートル以下は中度の水不足、1000立方メートル以下は重度の水不足、500立方メートル以下は極度の水不足されるが、中国31の行政区画(省・自治区直轄市)のうち、16の区画は「重度の水不足」、ほか、6つの区画(寧夏、河北、山東、河南、山西、江蘇)は「極度の水不足」で、経済成長の制約となっている。同時に、経済成長が水汚染を加速させ、水不足に拍車をかけるという悪循環だ。水が豊富な四川省から華北に水を持ってくるとしていたが、そこが不足すればチベットからということになるのではないか。中国のチベット侵略の目的は水だったのかもしれない。
 昨日は所用で小田原から大雄山鉄道に乗っていた。昼食は小さな駅の前にある何の変哲もない小さな食堂でたべた。この手打ちの冷やしウドンが衝撃的に美味しかった。丹沢山系の水が良いのかもしれない。考えてみれば、この地域にはフィルム工場があり、ビールの工場があり、豆腐料理でも有名だ。帰りには、本屋で前から読みたかった水文学の本を買った。