沖縄ノート 2013年2月

 自民党政権になって、政府と与党の政治家が毎週のように沖縄を実にこまめに回っている。沖縄の2大新聞は左派系で報道が偏るため、直接、沖縄から情報を発信しないと地元の人に伝わらない。また地元の動きが分からない。
 2月21日には普天間飛行場の名護市辺野古への移設促進を求める名護の市民大会が開かれ、ホテルの椅子を取り払って1000名が参加したという。「北部地域振興協議会」が主催した。
 沖縄本島でも、中南部は都市化していて、北部は自然が豊かだ。沖縄の人口140万人の内、129万人は本島に住んでいる。
 北部は面積では本島の6割占めるが、400m程度の低い山が続き、平地が少なく人口では12万人しかいない。名護市は6万人と北部の人口の半分を占めるが、山で東西に分かれている。住民の多い西岸と辺野古のある東岸とではかなり風景が違う。西側はリゾートの多い恩納村などとつながり、東側の辺野古は、キャンプ・ハンセンやキャンプ・シュワブを持つ宜野座村金武町とのつながりが深い。辺野古には数年前に名護高専ができた。
 中部には最も米軍施設が集中している。沖縄市13万人、浦添市11万人、宜野湾市9万人、うるま市12万人などを含む59万人が住む。南部は那覇市の32万人を筆頭に糸満市6万人、豊見城市6万人、南城市4万人を含む54万人が住む。中南部には多数の小規模市町村がある。地域性もあるが、補助金も多いので合併する要因が少ないのだろう。
 昨年来、宜野湾市長選挙、浦添市長選挙と左派連合以外から新しい市長が誕生した。新たな動きが出てきているのかもしれない。来年1月には名護市長選挙があり、その動向が注目されている。沖縄県は、移設先の市町村の受け入れ希望がない限り、基地を動かさないため、その市長選挙後に政府からの辺野古埋立て申請をするとみていた。今回の日米首脳会談では時期が言及されなかったが、名護市民大会での前市長の発言などからすると、政府は3月にも沖縄県に埋立て申請をするのかもしれない。 
 仲井眞知事は、3年前の参議院議員選挙では自民党の島尻安伊子陣営の選対本部長を務めて、島尻氏の2期目の当選に尽力した。「竹島の日」に式典で挨拶をした内閣府政務官である。今度の7月の参議院選挙での動きが注目される。参議院議員と県知事の選挙区は同じなので、1人区では、お互いに無視できない関係にある。仲井眞知事は、2010年11月に、自民党沖縄県連からの支援推薦と公明党みんなの党の推薦を受けて52.0%の得票を得た。共産党社民党国民新党新党日本沖縄社会大衆党の推薦をうけた伊波洋一宜野湾市長などを破り再選を果たした。次の知事選は2014年の暮れだが1939年生まれの仲井眞氏はそのとき75歳である。
 1月の末に仲井眞知事を補佐する副知事が交代することが報じられている。人事は本当に決まるまで分からないが、1人は県の部長さんからの昇格である。もう1人は琉球大学の高良倉吉(たから くらよし、1947年 - )先生だそうだ。
 副知事になられるかどうかは全く分からないが、高良先生のご専門は琉球史で、琉球王国の内部構造、アジアとの交流史の研究者であり、首里城復元やNHK大河ドラマ琉球の風の監修者であることは存じ上げている。「沖縄イニシアティブ」を唱えた3人の琉球大の先生方のうちの1人として知られている。
 「沖縄イニシアティヴ」論は個人的には面白かった。現実的にアジア太平洋の中での沖縄の将来を考えようという提言だ。東京を中心に考えていると、沖縄は辺境であり、日本文化とは一見異なる文化を持つ島々であり、軍事戦略上の要衝であり、、観光・リゾートに適した地域であることしか評価されなかった。もっと自由に沖縄が新しいソフト・パワーの一つとなることを願い、自らの過去・現在・未来に対して積極的な自己評価を与え、日本社会の一員としての自己の創造的役割を明確にしたいという議論だと理解している。沖縄サミットの前後に話題となったと記憶している。
 著書には『琉球の時代─大いなる歴史像を求めて』(筑摩書房、1980年)、『琉球王国の構造』(吉川弘文館、1987年)、『琉球王国史の課題』(ひるぎ社、1989年)、『琉球王国』(岩波新書、1993年)、『「沖縄」批判序説』(ひるぎ社、1997年)『アジアのなかの琉球王国』(吉川弘文館、1998年)などがある。13−15世紀の国際都市としての琉球をわかり易く描いており、それが沖縄イニシアチブの発想の原点かもしれない。
 沖縄から東京までの距離は1400kmだが、南に1400kmいくとマニラになる。この距離を南西に伸ばすと香港に、北西に伸ばすと北京に達する。この距離を半径に円を描けば、台北・ソウルは東京よりも沖縄の近くにある。地理的に沖縄は東アジアの臍に位置している。
 人事はともかくとして、自由な発想で、新しい逞しい沖縄が出てくることを楽しみにしている。