内外情勢 2013年2月

1.北の核実験
 北朝鮮が2月12日に3回目の地下核実験を行なった。「ウラン濃縮型なのか、小型化に成功したのか」を空中から把握するのは原理的には難しそうだ。核実験場では、2つの坑道で実験準備が行われていたので、追加的な核実験実施の可能性があるという。どうやら本気で核兵器の実用化を急いでいるようだ。
 米国に向けた大陸間弾道弾の開発にはいま少し時間がかかるにしても、射程1000−1300キロのノドンミサイルで日本全土を射程に収めているのでその脅威は現実以外の何者でも無い。経済制裁をしてもしなくとも、北はその技術をお金に替えることを考えるだろう。これから食料が不足する春が来る。
 輸出入の7-9割が中国相手とされており、既に昨年から中国の治安工作部隊が密かに入っているとの情報があった。今回、中国が珍しく北の核実験に反対しているが、それはどこまで本当なのだろうか。中国はコントロールできない振りをして、北という名前のもう一枚の核カードを確保したのではないか。かつて中国とインドと武力衝突した際に、パキスタンが核開発することをサポートしたのは中国だった。日本は今、明らかに中国国内においてテロ攻撃を受け、尖閣諸島と沖縄への侵略を受けつつある。
 ロシアのメディアは日本の核武装を心配しているようだ。誰がみても、北の仮想敵国の筆頭は、国民が他国に誘拐されても反撃することの無い日本である。そうした状況で核武装しない方が奇異なのだろう。少なくとも、日本は相手方の基地を先制攻撃する能力を強化し、米国への核弾頭を撃ち落とすための集団的自衛権の行使を宣言すべきだろう。巡航ミサイル導入や、戦闘機による攻撃能力の拡大等が課題となる。今月の日米首脳会談は、その意味では大きな節目の会談となりそうだ。
2.パキスタンのグワダル港
 パキスタン南西部の要衝グワダル港の運営がシンガポール企業の撤退により中国企業に移ることになったようだ。中国はグワダル港の建設費230億円の75%を当初より拠出していた。中国は、将来的には、中東からの原油を同港からパイプラインで中国に輸送したいという。ミャンマーシットウェー港から雲南省に抜けていくパイプラインのようなものを考えたいのだろう。中国は、ミャンマーだけでなく、バングラデシュスリランカでも港湾を整備している。いわゆる「真珠の首飾り」戦略の西の拠点である。日本は、米国の経済的負担を軽減するために、シーレーンの防衛や、南シナ海の航行の自由の確保に向けて、できることが何かあるのではないだろうか。  
3.インドの潜水艦発射型の弾道ミサイルの開発
 インドの防衛研究開発機構はこの1月にベンガル湾で潜水艦発射型の弾道ミサイル「K5」の発射実験に成功し開発は完了したという。K5は射程距離が1500キロ、核弾頭を搭載することも可能という。今後、原子力潜水艦の実戦配備に向けての準備が進むのではないだろうか。インドは2012年に、アジアのほぼ全域とロシアやヨーロッパの一部を射程におさめる5000-6000キロの長距離弾道ミサイル「アグニ5」の発射実験を行なっている。
4.プーチンによるロシア国境の画定
 プーチン大統領は2004年ごろから、中国、カザフスタンアゼルバイジャンウクライナなどと次々と国境を画定させた。バルト諸国ともほぼ合意し、ノルウェーとも海上国境を画定させたという。北朝鮮との17キロの国境線も画定した。大陸国家のロシア人にとって、国境が不透明なことは不安感、焦燥感を生むようだ。石油価格の高騰によって政治と社会が安定したことも国境問題の解決に乗り出す余裕となったようだ。まだ周辺諸国で国境が画定してないのは、南オセチアアブハジアの独立をさせたグルジア国境と日本との北方領土問題だけだという。
 中国との国境は、80年代後半のゴルバチョフ時代に交渉が再開して、1991年に東部国境をほぼ決まり、1994年にエリツィン政権との間で西部国境が決まった。極東のアルグン川の3つの川中島を総面積375平方キロの帰属が未画定だった。プーチン政権はこの3島の帰属交渉を中国側と秘密裏に進め、2004年10月の中露首脳会談で、①タラバロフ島は中国領②大ウスリー島とボリショイ島はほぼ2分割という形で電撃的に決着させた。2005年に批准書を交換し、2008年に議定書に署名し、係争地の半分を中国に渡した。この折半方式はカザフとの国境やノルウェーとの海上国境でも適用された。当初は、相互譲歩が喧伝されたが、ロシアは領土を半分割譲し、中国も半分しか獲得できなかったことで双方敗北感が残り、近年は互いにそのことへの言及を避けているという。
 ロシアがあえて譲歩した最大の理由は中国との紛争の芽を事前に摘んでおきたいとの思惑によるものだ。国境を未画定のまま放置すれば、中国はいずれ、極東への途方もない領土要求を持ち出しかねないと観ていたからだという。
5.オホーツク海と極東ロシア
 ロシアにとって中国はもはや脅威ではないはずだったが、2012年7月に北極海横断を目指す中国の砕氷調査船「雪竜」が宗谷海峡からオホーツク海に入ったのとほぼ同時に、太平洋艦隊は樺太からオホーツク海に向けて、対艦ミサイルを発射する軍事演習を行った。オホーツク海はロシアの聖域であり、中国の艦船を入れたくないようだ。8月には、ロシア国防省は千島列島と北方四島に移動式対艦ミサイルを配備するとの計画を公表した。国後島択捉島にミサイルを置けば宗谷海峡が射程に入るという。
 極東地域におけるロシアの人口が628万人なのに対し、隣接する中国の黒竜江省の人口は3800万人とされる。また中国の新しい歴史教科書には、「極東の中国領150万平方キロが、不平等条約によって帝政ロシアに奪われた」との記述が登場したという。まさしく中国がある日突然、ウラジオストクを「中国固有の領土」として返還を要求しかねないという意味で尖閣諸島に注目しているという。中央アジアでの主導権争い、不法滞在、中国軍の増強など水面下の対立が進んでいるようだ。何よりも、中国経済の成長で中国とロシアの力関係は大きく変わったため、ロシアが自らの主張を貫徹するのは難かしいという。
 ウラジオストクの店に並ぶ野菜や果物は、中国人が近くのレンタル農場で生産しているものだという。ウラジオストクの中国人街には、中国人が溢れている。気づかれないうちに、中国人は全沿海地方を支配しているという。今後も、極東からのロシア人流出と中国人流入は続けば、ロシアの極東は中国に飲み込まれてしまう。歴史教科書にその記述が載ったことは、中国がロシアに対して壮大な失地回復闘争に着手した証拠である。
6.日本維新の会のエネルギー政策 
 話題は国内に移る。ベタ記事の中からピックアップした。大阪市橋下徹市長と、大阪府松井一郎知事は2月8日、有識者でつくる府・市の「エネルギー戦略会議」がまとめた中長期エネルギー戦略案を巡り、「具体的な工程表が示されていない」として、2030年を目標にした原発ゼロ政策を採用しない」こととしたという。日本維新の会は、昨年の衆院選で「2030年代までの原発フェードアウトする」を掲げていたが、現実路線にかじを切ることになりそうだ。
 もともとの戦略原案は、電力自由化や重大事故時の損害賠償を原発事業者が負担するルールの導入などで、「遅くとも2030年までに原発をゼロとすることは可能」と明記していたという。橋下市長は、「原発ゼロができることはわかるが、道筋を示すことが大事。工程表が無い以上、いつ原発ゼロにするとは言い切れない」と述べたようだ。この現実感覚が彼の魅力だと思う。「関西原子力安全監視庁」の設置を目指すなど、他の戦略案は採用が決まったという。戦略会議の委員を務めた古賀茂明氏は記者団に、工程表が示されなかったことについて、「脱原発に向け大きな枠組みを変えるため議論してきたが、議論に十分な時間がなかった」と語ったという。
 国家戦略としては、ホルムズ海峡が封鎖されたときにはどうなるのかまで考えておく必要がある。また仮に原発ゼロは可能でも、その負担が、1家庭あたり32千円/月では話にならない。
 この決定によって、旧太陽の党グループとも整合性がとれ、自民党ともこの分野の政策で協調できる可能性が出てきた。「日本維新の会みんなの党」連合が戦うのは民主党の候補だからである。民主党から移ってきた議員にもしかしたら、そのことが分からない人がいるのかもしれない。むしろこの連合にとってやや不安を投げかけているのが、みんなの党代表の渡辺さんの動き方である。何を気にしているのかが分からない。
7.日本の地熱発電
 地熱発電は国産エネルギーとして注目されている。コストの実績でも償却が進んだ設備では、7円ー8円台/kWhの発電コストとすることが可能だという。何より富士電機東芝三菱重工の日本企業3社が世界の地熱発電設備容量の70%を作っている。環境省によるポテンシャル調査ではシナリオによって1080〜5180MW(温泉発電を含む)の発電が可能という。現在の2倍から10倍の発電量だ。日本国内の地熱発電による発電量は世界的に見ても上位に位置するが、日本全土の莫大な総発電量からすると、国内地熱発電の割合は0.2%に過ぎない。530MWは、福島第一原子力発電所美浜原子力発電所などにある中型原子炉1基分にすぎないからだ。それには、どうも1972年に通商産業省環境省の間で交わされた「既設の発電所を除き、国立公園内に新たな地熱発電所を建設しない」という覚書が生きているからではないだろうか。
 日本は火山が多く地熱発電、あるいは高温岩体発電に適しており、太陽光発電風力発電以上に地熱発電の開発も進めるべきというのが自分の意見だ。民主党のやった事業仕分けで「地熱開発促進調査事業」と「地熱発電開発事業」の2事業が廃止されてしまったという。果たしてそれは復活しただろうか。技術の本質を見抜けない人たちの判断にはとても付き合いきれない。
8.温室効果ガス25%削減目標の撤回
 1月24日の記者会見で、菅官房長官温室効果ガスの排出量を2020年までに1990年比で25%削減するとした民主党政権の目標について、とてつもない目標であり、実現不可能だとして撤回する方針をようやく表明した。今後、安倍政権として新たな目標を検討するという。
 2012年9月には野田政権も、2020年時点の削減率が「5〜9%」にとどまるとの試算を公表していた。原子力発電所の停止を理由にするメディアもあるが、もともと「とてつもない」というよりは実現不可能な目標だった。それは麻生内閣の案と比較してみればわかる。麻生さんの案も背伸びしていたが、それを何の試算も無しに2倍にしたのが、鳩山内閣が主張したこの目標値だった。欧米のベストセラーの書籍の主張をそのまま使ったのだった。つまり自分の頭で考えた数字ではなかったのである。個人的には民主党政権が、とんでもない政権であることに初めてガクゼンとしたきっかけとなったのが、この25%削減の目標だった。