沖縄ノート 空港、防衛、産業振興 

 米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設に向け、防衛省が実施していた環境影響評価に関する評価書の公告・縦覧が1月29日に終了した。これにより辺野古のアセス手続きが完了した。次は、仲井真知事に対し、政府が埋め立て承認申請をする時期が焦点となるという。2月2日に安倍首相と山本大臣とが沖縄入りし知事と面談するという。普天間辺野古の問題と言われているが、尖閣諸島・沖縄の防衛の問題を話し合うのでないかと推察する。普天間辺野古はその中で決められていくべきだからである。
 最近の沖縄関連の報道で最も不思議なことは、オスプレイが危険な航空機とされてしまったことだ。安全指標を見る限り、オスプレイは現在使われているヘリコプターのCH47より安全であり、中国のメディアが警戒するほど尖閣諸島や離島の防衛にも有効だからだ。また県民の総意といいながら、辺野古の人々の7割は条件付ながら基地の拡張に賛成であり、八重山宮古島の人たちは中国の侵略を本当に心配していることだ。中国公船が初めて領海侵入したのは尖閣諸島の国有化のほぼ1年前の2011年8月24日だった。八重山教科書問題で、尖閣が日本の領土であることを詳述した育鵬社の公民教科書が選定された翌日のことだという。八重山日報のコラムから教わった。
 沖縄の防衛を本気で考えるならば、沖縄の自衛隊の兵員を増強しなければならない。同時多発的な侵攻シナリオがあるとすれば、与那国島だけでなく、石垣島下地島にも沿岸監視隊や移動警戒隊が必要だろう。沖縄本島と一体となった防衛体制を早期に構築する必要がある。そして尖閣諸島にも時期を見て防御部隊を置くべきと考える。制海権、制空権の確保とともに、沖縄本島には陸上自衛隊海兵隊化された部隊を置き離島の部隊との連携、本土の部隊との連携でこの地域を守るという発想が必要ではないだろうか。
 那覇空港は最も忙しい軍民共用空港であり、第二滑走路を作ることは必要なことである。しかし、そこに自衛隊の航空部隊も増強しなければいけないこと、民間物流ビジネスの国際ハブ空港としての役割が拡大していくことと、どこまで両立できるのかを考える時が来ているのかもしれない。
 使い手のいなくなった下地島空港の将来像をどう描くのかも課題だろう。自衛隊パイロット養成課程の学校を静岡から移すことも良いかもしれない。静岡は静岡で、無人航空機などの産業集積の拡大を考えることも可能になるかもしれない。航空機のエンジンは、燃焼器、圧縮機、タービンなどの耐久性・耐熱性が要求される精密部品の塊りであり、その研究開発に費用と時間がかかり、製造のための設備投資額も大きい。タッチ・アンド・ゴーを繰り返しても良いほど、人里はなれているならば、下地島に大型のエンジンの運転実験設備を誘致することも可能かもしれない。航空機関連の実験施設を集めることで、製造業に関連する産業集積を形成することも可能かもしれない。あるいは地元の人には怒られるかもしれないが、中国が海南島の三亜に作っているような軍事基地として発展させる道もあるかも知れない。どういうわけか、世界の有名な観光地の近くには、大きな軍事基地がある。
 沖縄本島は米国式の医療看護をベースとした医療コンプレックスに向いているかも知れない。暖かい気候が豊かな退職世代の人気を集めるのではないだろうか。また日本ではカジノの誘致を希望する都道府県が数え切れないが、もしカジノにかける税金を離島防衛の費用にあてるとしたら沖縄もその設置場所の有力候補になるのではないか。沖縄の将来は沖縄が決めるべきだと思う。考えてみれば、辺野古の基地の問題も決まってからかなりの時間が過ぎた。決まった頃は、これで沖縄本島の北側にも雇用の拡大が見込めるのではないかと勝手に想像していた。計画は実行してこそ始めて利益が生まれる。辺野古の人たちもだいぶ待たせてしまった。 

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(資料ノート)
  (1)先島諸島全体の防衛
  (2)与那国島の混乱
  (3)八重山日報の金波銀波というコラムのバランス感覚 
  (4)新石垣空港は2013年3月7日開港
  (5)下地島空港
  (6)辺野古地区
  (7)アジア物流ハブとしての那覇空港


(1)先島諸島全体の防衛
 106千人が住む先島諸島とは、宮古列島尖閣諸島を含めた八重山列島からなる。この地域の守りを固めることが急務になっている。軍事アナリストによって作成された尖閣諸島侵攻シナリオ想定を読むと、尖閣諸島もさることながら、現在、防衛配備が手薄である与那国島石垣島宮古島下地島など空港のある有人の離島の防衛をどうするかについて政府の方針をまず明確にすべきと思われてならない。
 仮に相手方が離島を占領しても、制海、制空権を確保した上で離島奪還能力が高ければ、相手方への抑止力が高いはずだいうのが今までの考え方だった。「砂漠を海、プラントを島」と考えると、アルジェリア人質事件は、海外邦人の保護の問題ではなく有人離島の防衛の問題となる。離島奪還能力さえ高ければ良いということではないと思う。「同時多発的に仕掛けてくる」可能性を考えれば、少なくとも空港などの施設がある有人離島にはそれなりの部隊の配置を早急に実施すべきと思われる。
 ①宮古列島(53千人)
  宮古島(46千人)、池間島大神島来間島伊良部島(5千人)、下地島多良間島水納島
 ②八重山列島(52千人)
  石垣島(47千人)、竹富島小浜島、黒島、新城島西表島鳩間島由布島波照間島与那国島(1600人)
 ③尖閣諸島
  魚釣島久場島大正島
(2)与那国島の混乱
 台湾まで110キロの与那国島は、尖閣諸島から150キロ。中国本土まで350キロの距離にある。現在でも那覇からは週4回しか航空便がない。東京からは飛行機を乗り継いで最短でも4時間半かかる。与那国と石垣島の間はプロペラ機のコミューターで30分、船では4時間かかる。国境の島であるため、台湾有事や尖閣諸島問題など周辺地域の有事に巻き込まれる可能性がある。そのため、民主党政権のときに、陸上自衛隊の沿岸監視部隊の配置と移動警戒隊の展開用地の整備が決まったほどだ。本年度は用地取得費10億円を計上されたが、来年度は、駐屯地の敷地造成や宿舎の建設などの経費として62億円が計上されるという。与那国島最大の集落である祖納集落にはコンビニもなく、小さな診療所があるだけだ。急患が出れば、海上保安庁のヘリで120キロ離れた石垣島に搬送をする。
 しかし、そのことで日本の一番西側にある島に議論が起きていることはあまり報じられてはいない。地元では推進派の住民と反対派の住民が対立し、島を二分する事態となっている。反対派の住民は配備計画の説明が不十分だなどと主張し島内では混乱が続いている。推進・反対の双方ともに歩み寄る様子はない。
 推進派の町議は、「台湾との交流は30年も続けているが、島の住民が食べていけるだけの雇用は生まれない。島内に高校がないから若い人はどんどん離れていく。自衛隊と共存して島を活性化するしかない」という。終戦直後の混乱期に与那国島が台湾との密貿易の中継地として栄えた頃は2万人を超えた人口もいまや1600人を下回る。働き盛りの隊員やその家族が生活することで、島の経済の活性化につながると期待する。現在の治安は、2つの駐在所、2人の警官と拳銃2丁で守られているという。個人的な結論を言えば、島民に対する国による直接的説明と説得が不足していると思われてならない。
(3)八重山日報の金波銀波というコラムのバランス感覚 
 左派の強い沖縄のメディアでバランスよく事実を報道していると思われるのは、石垣島を本拠とする社員20名ほどの八重山日報である。先島諸島には、沖縄本島とは異なる意見と感覚があるようだ。2013年1月の金波銀波というコラムに尖閣諸島について以下のような記述があった。 
 (以下抜粋引用)・・・石原慎太郎都知事日中関係を悪化させたせいだと批判する声がある。・・・擁護するわけではないが、・・・中国公船が初めて領海侵入したのは2011年8月24日であり、国有化の1年も前なのだ。中国の尖閣に対する野心と国有化には何の関係もない。この「8月24日」は、かの八重山教科書問題で、尖閣が日本の領土であることを詳述した育鵬社の公民教科書が選定された翌日でもある。中国に八重山ウォッチャーがいるのかどうかは定かでないが、実は関係者の間では「八重山育鵬社版を選定したことに中国が怒り、住民を威嚇したという見方がある。・・・中国国内の報道を見ていると、中国政府が「開戦」に強い意気込みを抱いていることがうかがえる。日本を挑発して先に手出しさせれば、米国もおいそれ介入できない・・・今後もエスカレートするはずで、事態の鎮静化にもはや安易な期待はできない。国境の島に住む住民にとって、厳しい時代の到来である。(引用終わり)
 東京の新聞だけ読んでいては気がつかない視点だった。領土問題についてきちんと教科書に記述することが必要だ。
(4)新石垣空港は2013年3月7日開港
 既存の石垣空港第二次世界大戦中の海軍飛行場を基にしており、滑走路の長さは1500mしかなかったので、年々大型化する旅客機の発着に耐えられなくなった。ボーイング737型機などの小型ジェットが暫定的に就航していたが長さが足りず、旅客数、貨物、燃料の搭載量を制限していた。
 石垣発の東京/羽田、名古屋/中部、大阪/関西線は目的地までの燃料を搭載できず、直行便でも燃料補給のために宮古那覇を経由を余儀なくされ、今でも那覇で乗り換える場合と所要時間があまり変わらない。旅客数・貨物数が少ないため、島の産業・観光が制約され、長距離便が離着陸できなくて大都市からの直行便が増便しにくかった。
 騒音で学校の運営などに影響が出るようになったこともあって、小・中型機も離発着できる、2000m級の滑走路を有する新空港を念願していた。その空港が3月7日に開港する。
 石垣島には海上保安部があり、旧石垣島空港はヘリポートとして使われるという。
(5)下地島空港
 下地島空港は、今まで民間航空機のパイロットがタッチ・アンド・ゴーを繰り返す訓練用飛行場として運営されてきたが、既に日本航空は利用をやめ、ANAは13年度以降の利用は白紙としている。年間約6億円の空港使用料を両社で折半し負担していたので、ANAの3億円しか見込めなくなった。県は他の活用法の調査をしているという。
 那覇から尖閣までの距離は420キロ、下地島空港尖閣諸島の距離は190キロあり、昨年12月に中国機が尖閣周辺の領空侵犯した際、那覇基地から緊急発進したF15戦闘機が到着した時には中国機は既に領空を出ていたという。中国の福建省の水門の空軍基地から春暁ガス田までは200キロ、尖閣諸島までは380キロの距離であり、戦闘機でそれぞれ7分、12分の距離だという。
 下地島空港沖縄本島と中国大陸の中間にあり、尖閣諸島にも近い。先島諸島では唯一しかも日本でも数少ない、ILSが両端に設置された3000m×60mの滑走路を持ち、戦闘機や輸送機の運用にも支障のない規模がある。ILSとは、計器着陸装置(Instrument Landing System)であり、着陸進入する航空機に対して、空港・飛行場付近の地上施設から指向性誘導電波を発射し、視界が悪いときでも安全に滑走路上まで誘導する計器進入システムである。水平及び垂直の誘導を与え、かつ、定点において着陸基準点までの距離を示すことにより、着陸のための一の固定した進入の経路を設定する無線航行方式をいう。
 下地島に住民はいない。かつての住民の多くは数十メートルの水路をはさんで隣接する伊良部島に住んでいる。両島は幅40mから100mの水路で隔てられているが、幅が狭いため航空写真などではあたかも間に川が流れるひとつの島のように見える。この入江には6本の橋が架かっている。
 下地島空港については、当時の琉球政府行政主席と日本政府の間に交わされた「屋良覚書」が存在し、これによって下地島空港の利用は県が主体となって行い、緊急の場合を除き、軍民共用空港化は為されないとされていた。ただ下地島空港の地元の旧伊良部町では、2005年3月の町議会で自衛隊誘致の請願が可決されたことがある。経済の活性化と中国海軍の宮古島近海への出没に伴う危機感からだという。
 自衛隊下地島空港の使用が可能になれば、東シナ海での行動範囲が広がり、航空自衛隊の戦闘機部隊や早期警戒機だけでなく、海上自衛隊P-3C対潜哨戒機部隊の基地、または補給中継施設として非常に重要な拠点となりえるという意見がある。一方で中国の短距離弾道ミサイルの射程に入っているという制約もあるという。相手方に占領されれば、逆に戦略拠点となりえる施設なので少なくも陸上自衛隊による防衛が必要となる。航空基地や防災拠点としてしての活用を考えるのならば、ミサイル防衛体制の構築とともに、海抜が低いために津波対策の必要性があるかもしれない。伊良部島の人口は現在5千人であり、隣の宮古島(46千人)と合併して宮古島市となっている。2つの島の間では、2015年の完成を目指して、全長3540メートルの橋が建設されている。総工費は380億円だという。宮古島と同じ宮古島市である池間島来間島は既に橋でつながっている。宮古島には、現在のところ、先島諸島唯一の自衛隊の駐屯地であるレーダーサイトがある。
(6)辺野古地区
 辺野古地区は名護市の東海岸にあり、海兵隊の演習用基地キャンプ・シュワブがある。辺野古地区はもともと久志村という村だった。1956年に当時の久志村長が基地誘致してできた。普天間飛行場移設先の辺野古崎はキャンプ・シュワブの延長上にある。沖縄が本土復帰する2年前の1970年に名護町などとの5町村合併により名護市になった。辺野古地区から名護市街に出るには山を越えなければならず、名護市民には辺野古に行ったことがない人も多い。名護市は米軍航空機は一切飛んでいないため実弾演習の音が全く聞こえないという。基地の補助金で名護市は発展してきたし、私立の名桜大学も、2010年4月から公立となった。現在は名護市と県北部の町村が設立した学校組合立大学である。
 辺野古の人々の7割が基地の拡張に賛成していても、本土からきた基地反対闘争の専門家が基地反対の旗を振っている。外務省の見解では、既に「辺野古埋立てと海兵隊のグアム移転は切り離されている」こともあって、沖縄の了解を得られる見通しを勘案した上でゆっくり丁寧に申請時期を判断するべきとの判断があるという。しかし遅れれば遅れるほど日米同盟の基礎は揺らぎ、中国は喜ぶ。当然、基地反対派を支援するだろう。反対派にしてみれば少人数で日本の安全保障政策に影響を与えることができるので、反対闘争に力も入るという構図がある。
(7)アジア物流ハブとしての那覇空港
 航空自衛隊那覇基地は、那覇空港を軍民共用空港として使用している。単一滑走路の那覇空港は、民間部分だけでも、年間1420万人以上の乗降客を扱う国内屈指の過密空港であり、複数の滑走路がある伊丹や関西国際空港よりも乗降客が多く、現状でも年間着陸回数は6万5千回あり、これに自衛隊の1万回が加わる。今後も、スクランブルの回数も増えることがあっても減ることはなさそうであり空港の拡張を急いできた。
 県も第二滑走路早期整備を希望しており、安倍内閣も今年になって早期整備に必要となる200億円の追加予算を支出する方向で調整をしている。第2滑走路の整備費は全体で2100億円規模となり、当初7年と見積もっていた工期を5年に短縮するという。工期短縮のための作業員や資機材を手当てするという。25年度予算案では、空港整備特別会計だけではなく、沖縄振興予算や経済対策の公共事業費などの活用を検討しているようだ。環境影響評価は今秋で、実際の工事着工は来年になるという。
 那覇空港の拡張を急ぐのは、アジアの物流ハブとしての那覇空港の活用が始まっているからだ。ANAが主導し、ヤマト運輸が連携する日本とアジアの主要市場を結ぶ新航空ネットワーク構想が動き出している。深夜も運行可能という那覇空港を基点に、貨物専用機B767-Fで主要8都市と結び、その後、拡大していくという構想だ。
 羽田経由で日本国内の主要都市への接続もスピーディとなるという利点を生かし翌日配送の国際宅急便を始めるという。沖縄からアジアの主要都市は4時間以内であり、ヤマトはハブに隣接して、電子商取引業者向けの倉庫を設置すれば、夜中に受注、翌朝配送が可能となる。荷物の通貨地点ではなく、在庫拠点となる保税地区と連動し、アジア進出の製品修理拠点や部品在庫の倉庫も呼び込める。
 大口のアジア物流ではフェデックスや独のDHLが先行していたが、宅急便的な小口配送は、クロネコヤマトの強みがあるという。昨年11月から那覇空港を拠点とした国際宅急便業務が始まった。24時間通関などにより、これまでは3日かかっていた国際輸送で翌日配送が可能になるという。
 ANAの「沖縄貨物ハブ」は、構想は5年前からスタートし、実際に始めてから3年になるが未だ赤字だという。旅客輸送の国内線、国際線に次ぐ第三の柱として、貨物事業の育成を狙っている。リーマンショックもあって、当初の計画より沖縄貨物ハブの黒字化は遅れているが、専用機も8機から9機に増やすという。中国の消費者が日本から購入した国際電子商取引は2011年に1096億円だった。この額は順調に行けば、2020年には、2兆円規模へ拡大するという。
 航空自衛隊は、国籍不明の航空機が防空識別圏に進入しそうな場合、パイロットを要撃機の操縦席に座らせ、いつでも発進出来るような態勢を取り、不明機が防空識別圏に進入した時点で、2機編隊でスクランブルをかける。これは対領空侵犯措置のためであって、当然ながら24時間態勢で行われている。発進が1秒でも遅れると、日本の領空に不明機が数百メートル接近することになるため、最優先で離陸させなければならない。そのことが単一滑走路で過密な那覇空港では従来から負担になっている。