天下の暴論 2013年1月

1.大阪市立桜宮高校の改革 
 橋下徹大阪市長が、体罰で自殺者の出た市立高校の改革に取り組んでいる。賛否様々だが、権限がない中で、よくやっているのではないか。彼の発言がなければ事なかれ主義が前面に出て体質が変わらなかったのではないか。教育委員会の採決は4対1だった。結局、スポーツ2学科の入試は中止となり、普通科としての入学定員に振替えて行なわれることになった。
 特にバスケ部の監督が、昨年の秋まで9年間、学校とは無関係にマンションを一棟借上げ、何も管理をせずに、金銭出納管理だけはしていたと報じられたのには驚いた。おそらく未だ報じられてないことが様々あるはずだ。もし今まで通りならば、問題のバスケ部の監督だけの処分に止まり、今後の学校全体の改革の可能性は見えなかったのではないか。強豪校の運動部の監督は、大学への推薦権を持っている。運動部が強くなればなるほど周りの先生も口を挟めなくなる。周りが、執拗に行なわれる体罰に気がつかないはずはない。そんな環境の中で異常な暴行事件が起き被害者が自殺した。改革はまだ入り口であり始まっていない。
 コメンテーターの中では尾木ママの意見が現実的でまともだと思えた。「この学校は体育科がメインで、強くなければいけない使命を背負っている。進学重点校の体育版です。橋下市長はそれがゆがんで出てきたと捉えた。校長の言うことを聞かない。校長の権限が及ばず、私物化されている。これは高校教育全体の構造で、全国の高校が自己点検すべき中身が含まれている。桜宮高は設置のあり方を見直し変えていく第一歩です。」
 高校生に記者会見までさせて、どうして監督なり教員なりが出てこないのだろう。この闇はかなり深い。
2.大阪市交通局の民営化は最終段階
 市長の発言を読んでいたら、市政のほうも、交通局の民営化、職員の給与削減、大阪府との水道事業の統合などが進んでいる。大阪市は、同和行政に絡んで長年に亘り暴力団が介在してきたと言われている。不祥事の多い環境事業局や交通局も同和問題と絡む可能性があり、改革をすすめると自分の身が危険になると考えられてきたようだ。
 2月開会の定例市議会に、交通局の民営化の条例が出される。重要な施設であり、議会の3分の2以上(58人以上)の賛成が必要だという。市長は正面突破を目指すようだ。今年3月までに市議会で事業撤退に関わる議決をし、平成27年4月に新会社に移行するという。大阪維新の会は33議席公明党19議席では足りない。自民党17議席の協力が不可欠という。
 大阪市民には申し訳ないが、大所を片付けて、国政に出られるかどうかが気になる。外交安全保障を別にすれば、橋下市長の能力見識は確かに凄い。口は悪いが人情もある。
3.アルジェリア人質事件の教訓
 「多くの人質がテロリストに頭を撃たれ殺害された」ことが発表された。テロリストの銃撃によるものか、アルジェリア軍特殊部隊によるものか、わからないという。ハッキリしているのは、日本独自の情報収集ができなくて、手の打ちようがなかったことだ。
 外交ジャナーリストの手嶋龍一さんは、「先進主要国で対外的情報機関がないのは日本だけです。日本は空母や核兵器を持っていない。牙を持っていないからこそ、長いウサギの耳でなければいけないのに耳も小さい。・・・総理がさまざまな問題を判断するよりどころとなる情報が、世界の水準からかけ離れている。長いウサギの耳を持つことがまず第一歩で、警護の特殊部隊はその後の話」 としている。
 もう一つわかったことがある。テロ側から見て脅しに弱い国、過度に人命尊重という国にはテロが寄ってくるという事実だ。対策として議論に上りつつあることは、「駐在武官」の充実による世界の軍事テロ情報の獲得、海外邦人の救出体制の検討など、全て自衛隊の活動の強化充実すべきということだ。形は違っても、東アジアでも日本は同じ目にあっている。そちらの対策も自衛隊の強化が一番かもしれない。
4.危機管理に弱い日本 
(1)想定外という言訳
 米国では原子力発電所防御も対テロ戦の重要項目だという。過激派に乗っ取られた航空機が原子炉に突入し原発が全電源を喪失した事故を想定したシミュレーション訓練を定期的にやっている。本当は福島も、津波の問題ではなく危機管理の問題だった。電力会社がダメならば、すぐに国家が指揮を取れる体制がなかった。原子力発電所の安全基準の作成とは別個に、危機管理チームによる対応訓練が大事であり、そうした準備がない方が驚きだった。法制度の議論よりも、具体的にどうするのかを具体的につめることが重要だ。
(2)為さざるの責任 イランの邦人救出劇から28年 
 1985年3月19日にトルコ政府のオザル首相とトルコ航空に在イラン邦人を救出してもらってから既に28年経とうとしている。2011年2月のカダフィ政権崩壊時に、中国政府は10日間にリビアにいた36000人の中国人を避難させた。韓国は韓国人1400名とともに韓国企業で働いていた外国人労働者を避難させた。その時の日本の内閣は、邦人17名のために、自衛隊を出すべきか出さざるべきか議論していた。
 国際法は軍隊による自国民の救出を認めている。憲法を改正して、自衛隊を名実ともに軍隊にする必要がある。
(3)ネガティブリスト方式への転換
 よく日本の自衛隊ポジティブリストで行動規制をかけられているが、普通の軍隊はネガティブリストだけがあって、後は臨機応変に活動することを求められているという。官庁キャリアの育成評価システムにも問題があるのかもしれない。目的合理性より、法的根拠と屁理屈で議論する癖が付いてしまう。何かが根本的におかしい。
(4)先制的自衛権を持った普通の国への移行
 ミサイル防衛システムは技術的に難易度の高いシステムである。昔、西部劇でコインを空に投げてそれを拳銃で打ち抜くガンマンがいた。ミサイル防衛システムの難しさは、標的が落下するコインではなくて、相手のガンマンが撃った弾丸にこちらも弾丸を当てなければいけない点にあるのではなかろうか。そんな難しいことを考えるよりは、相手がミサイルを構えた瞬間に発射塔ごと壊してしまった方がはるかに簡単だ。それは自分の考え方では防衛のうちに入る。
5.事件の被害者の実名の公表
 アルジェリア人質事件で遺族への配慮など理由に実名の公表を避けた政府に対し、「国民の関心の高さ」などを理由に大手のメディアが実名を公表し報道を始めたようだ。官房長官は「ご家族は大変悲しみ動揺しており、日揮と相談して氏名の公表は避けて欲しい」と述べていた。近年は匿名発表のケースも増えており、政府は人質事件について遺族感情を優先させて身元情報を伏せてきた。内閣記者会は公表を求める理由として①事件への国民の関心が高いこと②政府が公的に安否確認を行っていること③政府が情報収集、救出、帰国支援に全面的に関与していることなどを挙げているという。そんな中で、朝日新聞は朝刊に犠牲者の実名と写真を公表し、他のテレビ、新聞各社も追随し実名が広く報道されることになったという。朝日新聞は変だ。国益も人情もない。加害者については本名を開示しない場合もあるが、基準が狂っている。
6.沖縄振興予算3000億円 「基地問題と直接関係しているに決まっているじゃないか」
 民主党政権に続き、自民党は2013年度も、沖縄振興基金を3000億円出すという。正気だろうか。2011年度は2300億円前後ではなかったか。2012年度の野田内閣のときにこれが3000億円に積み上げられた。そのため北部地域に毎年100億円のお金が配られている。この振興基金を通じた補助金システム自体が基地の移転を阻害しているのではないか。
 普天間基地は特別に危険な基地ではなく、飛行場として特に危ない基地のはずもない。危ないならば、基地近くの小学校はとっくに移転しているはずだ。大学だって、基地に擦り寄るように後から作られた施設であることはハッキリしている。彼らは安全性を問題にしているのではない。安全性が問題ならば、ワイヤー入りの風船など飛ばさない。
7.太陽光発電の買取価格の引き下げ
 愚かな経済学者が騙されて、太陽光発電のメガソーラーによる電気料金の買取価格をかなり高く設定してしまった。物事の本質を見抜けるかどうかにあまり頭の良さや学校の名前は関係ないようだ。経済産業大臣はその価格を30円台に引き下げよう努力しているという。国民経済から言うならば、早く馬鹿な法律は廃止すべきである。
8.12年ぶりの中国のジニ係数の発表
 中国国家統計局も1月になって12年ぶりにジニ係数を発表した。2012年は0,474で、貧富の格差が改善されたという。しかしこれを信じている人はいない。この数字が0.61より低いのは、合法的収入のみ集計され、グレー収入は算入されていないからだという。
9.中国の水問題
 中国全土で慢性的な水不足が広がっているという。飲料水や農業用水の枯渇といった問題が各地で表面化している。雲南省四川省などでは干魃による飲料水不足が深刻化している。雲南省四川省はもともと水が豊かな地域だった。気候変動も影響を与えている。日本各地で雪が降っているのと同じ理由で雨が降らない。全土の都市のうち60%が水不足に直面し、地下水の過剰なくみ上げによる地盤沈下が首都・北京でも発生している。
 注目されているのはチベットの水源だ。アジアの大河の源流はほとんどチベットにある。巨大ダムを幾つも作っている。水利を勝手に変更すれば、下流アジア諸国の反発を招くことは間違いがない。海水の淡水化のプロジェクトも進めているがそれだけでは十分ではない。トイレの水洗への移行も問題だという。発展を急ぐあまり、省エネや工場排水の管理も充分ではない。排水が流れ込めば飲料水には使えなくなる。経済成長に必要な石油原単位、エネルギー原単位、水の原単位も日本に比べればだいぶ高そうだ。地味な環境管理は、中国においては経済成長の源泉なのだが、あまり注目されてはいない。