中国の大戦略(再掲)

 現在、多くの識者が中国の大戦略について論じているが、やはり黒野耐閣下が「戦争学概論」(05年講談社)で示された中国の大戦略が最も優れた見方の一つだと思えてならない。以下に再掲する。
(1)世界最強の覇権国である米国が、日本を基地として東アジアに進出し、中国の影響力を封じ込めようとしているので、日本の大国化を阻止しつつ、できれば平和的に米国の覇権をくつがしたい。
(2)ロシアとの関係を固定し、インドとの関係改善を進め、南の東南アジア諸国への経済的、軍事的影響力を高めていくために、ロシアとベトナムとの国境紛争を、元々の中国の主張からはやや不利でも穏便に解決し、インドとも国境画定の途を大筋つけた。そして自由貿易圏構想などを提示し東南アジアの国々を安心させる。しかし2014年には南シナ海に空母を投入する。
(3)統一した朝鮮半島は中国の影響下に入れるか、少なくとも日米の緩衝国として中立化する。当面は統一に伴う混乱のリスクを避けるため好ましい形での分断を維持する。
(4)米国から、欧州のドイツ、フランスを切り離し、日本を切り離す。そのため東アジア共同体構想を推進して政治・経済・安全保障で日本を、そしてインドを取り込み、米国、オーストラリア、ニュージーランド、台湾を排除する。
(5)こうした大戦略のもと、日本が国連安保理常任理事国になることに反対し、必要あれば反日デモを行う。日本を米国から引き離し、中国に従順な国とし、米国の東アジアへの介入を断念させることがポイントとなる。そしてそれを実現するための最大の対日戦略兵器として日本の歴史認識批判というソフトウェア兵器を使う。
 国家中央軍事委員会主席だった江沢民は2004年12月に「長期的な敵は米国、中期的な敵は日本、当面の敵は台湾独立勢力である」と言明したという。05年7月、軍の高官は、台湾統一の際に米軍による軍事介入があった場合、中国は米国に対し核兵器を使うと公言し、その際、日本が米軍の後方支援した場合、「対中宣戦布告」とみなし、日本を攻撃対象とするとした。さらに中国は、セルビア、イラン、キューバ北朝鮮などと同盟を結び、これらの諸国に各技術を提供し、ロシアを含めて世界的な反米軍事攻撃態勢を築くとしている。つまり、北朝鮮イラクの核は中国の後押しを受けている。
 中国軍が米軍と対抗するためには、海洋正面の縦深性(つまり広大な緩衝地帯となる海域)を確保し、米軍の巡航ミサイル、精密誘導兵器から、中国にとって死活的に重要な沿岸部の政治経済中枢を防衛しなければならない。だから第一列島線の内側、すなわち南シナ海東シナ海には、資源の調査、開発を超えて、入られたくない。南シナ海を核の第二撃能力を確保するために聖地としたい。戦略ミサイル原子力潜水艦の配置場所としたい。東シナ海より深い海である。台湾周辺の制海・制空権を強化し、尖閣諸島を含めて与那国島から沖縄までを占領したいというのが彼らの意図である。台湾、沖縄、尖閣諸島がポイントとなる。学者を使った理論武装、沖縄への移民、移住の推進。
 そして、第二列島線の内側、つまり沖ノ鳥島を中心とする沖縄とグアムの間の海域では、攻撃型原子力潜水艦を展開し、必要あれば、米国空母群が自由に行動できないように機雷を敷設する作戦能力を獲得したい。2021年に投入する原子力空母はその押さえとなる。