大赤字の静岡空港の「拡大」均衡策

 静岡空港の2011年度の収支が、企業会計と同じ方法で算出され、過去最大の17億円の赤字となったと昨年秋に報道された。空港の赤字は2009年6月の開港以来3年連続の大赤字だという。収益の大半を占める着陸料は93百万円で、前年度190百万円の半分以下となった。就航便数の拡大を目指して国内線の着陸料を半額に引き下げたためだ。地方便の運休や国際線の減便で、着陸回数は3回ほど減り、1日平均10回弱となった。1時間に1回では大赤字となる。施設の維持管理費や人件費などの支出は、19億20百万円だという。つまり限られた情報だけからすると20倍以上の利用客がないと収支均衡しない。
 「機材を大型化するなどして利便性を高め、収益アップを図りたい」と言うが、大型化する需要があれば苦労はしない。羽田と中部国際空港セントレアという大空港に挟まれていること、海上空港ではないので24時間運用も厳しいこと、24時間運用で大需要地名古屋を背後に持つセントレアに貨物需要が持っていかれることが赤字の原因だ。つまり空港建設検討当時に指摘されていた問題が本当の原因だ。成田や関空などでもローコストキャリア(LCC)が主軸の一つになるときに、どう対応するのだろうか。
 どういうわけか、知事選挙が話題になる頃に、この静岡空港がいつも問題となる。問題を掻き回し、後回ししているうちに、次の選挙の時期が来てしまうということなのだろう。民間企業ならば、隠した借金がまた肥大していく構図である。県知事選挙の年には、新人の知事候補は前の知事の顔を潰すと推薦がもらえない、継続して知事を続ける人は赤字を隠したいという法則が働いているようだ。現在の知事も、前の知事もそうだった。
 現在の知事は、日本航空が赤字撤退をするというときに、それは「信義誠実則」にもとるといって裁判までやった。結果は示談となったが、外から見ていて県の顧問弁護士が努力して体裁を取り繕ったようにしか見えなかった。体面を気にする限り、この問題の赤字は拡大して続かざるを得ない。
 静岡県は、議会対策で、赤字を小さく見せるために県内の大企業に頼みこんで民間の運営会社を作ってもらっていた。議会で毎年つつかれないように、オフバランス化したわけだ。3年も赤字が続いているのならば、債務超過なのだろう。今回は、静岡空港のターミナルビルを県有化して増改築するという。2013年度にターミナルビルを資産評価し、13年度末か14年度にも県が取得するそうだ。要するにそれで3年間赤字を立替えてもらった責任を県庁がとるのだろう。指定管理者の責任を果たさずと表で怒る振りをして裏で手を合わせている構図ではないだろうか。
 会計年度のハザマを狙う作戦だ。国際線の旅客増をにらみ、改修・増築の基本計画を13年度にまとめるという。赤字の穴埋めを目立たなくするために買い取って増改築するという計画らしい。静岡空港は民間がターミナルビルを所有して運営しているが、滑走路など県が所有している。つまり、それは別会計から赤字を補填しているということだ。空港基本施設の管理の一部も13年度までは、同社が指定管理者となって業務を受託している。県は同社との指定管理者の契約が終わるのを機に、ターミナルビルを取得して責任をとるという。
 休憩スペースの拡大や国際線の増便に対応できるようにビルを増改築するとのことだが、何とかに追い銭の観がある。基本施設とターミナルビルを県が一体的に所有する一方、新たな空港運営主体となる会社を指定管理者とし、管理業務の拡大を図り、空港経営の一元化を進める計画だという。こうした段階を経て、また空港全体の運営権を、またどうしたわけか民間事業者へ譲渡するという。ターミナルビルの増改築では過剰な投資とならないように、関係者による検討部会を設けて具体策を探るという。探ったところで赤字の上塗り策でしかない。小賢しい悪知恵だけは一級なのかもしれない。
 空港では採算が取れないことがハッキリしているので、防災拠点として利用や、御前崎原子力発電所の遠隔管理施設を考えているのだと思われる。それらの会計費目から空港の維持費を上乗せして新たに委託業務として出せば赤字が目立たないからだ。よく県議会で検討してほしい。だが、お殿様といわれる県知事に刃向かう県会議員はどこの県でもあまりいない。
 静岡空港ができるまで空港が無いといわれていた静岡県には、実は、ほかに2つの飛行場がある。航空自衛隊浜松基地静浜基地だ。浜松基地には各種教育機関AWACSを持つ警戒航空隊等の部隊が、焼津市にある静浜基地には初等教育関係の部隊が置かれている。浜松基地は2,500mの滑走路を持っており、B767と同型のAWACSを運用しているので滑走路を作らなくても民間ターミナルを作れば軍民共用化が可能だった。ただ静岡県全域から見れば西に偏りすぎていた。静浜基地は現在の静岡空港と大井川を挟んで対岸の大井川町にあるので静岡市から見た立地的には問題ないが、滑走路の長さが1,500mしか無く拡張が難しかったという。
 もしかしたら、静浜基地は海抜7mのところにあるので、津波対策を考えれば、高台移転が必要かもしれない。静浜基地の第11教育航空団は初等教育用のプロペラ機T-3を運用しているだけなので、比較的騒音等も少ない。防災利用ならば災害時の活動の中核の自衛隊が既に空港に常駐している方が、管制・運用等の点でいざと言う時の連携も上手く行くのではないか。
 浜松基地を移転するには大きな滑走路の拡張が必要になるだろうが、地元が納得が得られれば、国と自衛隊に頭を下げて、そうすべきなのかもしれない。そうなれば浜松の街づくりにプラスだと判断する人もいるかもしれない。