動き出した対ロシア外交

1.動き出した対ロシア外交
 安倍首相は昨年末、ロシアのプーチン大統領と電話会談し、北方領土問題の解決に向け平和条約締結への作業を活発化させることで一致したという。2月に森喜朗元首相が安倍首相の特使として2月にロシアを訪問し、プーチン大統領と会談する。民主党の野田前首相も、政党の違いを超えて、森さんを頼りにしていた。
 日本政府は従来、4島の返還を求め、日本の主権が確認されれば、実際の返還時期や方法には柔軟に対応するとの立場だが、9日のテレビ番組で、森さんの意見としては、択捉島を放棄し、国後、歯舞、色丹の「3島」返還で解決を図るべきだと述べた。まさに森さんの面目躍如たる発言だと感じられる。4島返還論について「ロシアがそんなに簡単に返すとは思えない。現実的にやれることをやる方がいい」と指摘し、プーチン大統領が「引き分け」との表現で日本側に譲歩を求めていることを踏まえ、日本の首相は積極的に応える必要があると強調した。
 国際交渉において、難しいのは自国民の期待値の管理である。最終的にどうなるかはわからないが、日露双方の人的な配置と組み合わせ、双方の政治経済事情などからいって、北方領土問題は再び本格的に動き出したとみる。むしろ今回を置いては解決しないという見方もできるのはないか。
2. 北方領土交渉の事実
(1)面積
 4島面積合計 5030平方キロメートル  千葉県(5157平方キロメートル)とほぼ同じ
歯舞群島 面積  100平方キロメートル  2%の面積 国境警備隊員のみ
 (10程の群島からなる)
色丹島  面積  250平方キロメートル  5%の面積 人口2300人
国後島  面積 1500平方キロメートル  30%の面積 人口3900人
択捉島  面積 3180平方キロメートル  63%の面積 人口8300人
(2)様々な考え方
①「2島」先行(段階的)返還:日ソ共同宣言に基づき、歯舞・色丹の2島を返還することによって平和条約を締結し、さらに日本側はその後に残りの2島の返還の交渉を続けるとするもの。ロシア側は、日本の領土権はサンフランシスコ条約によって破棄されているとみなしており、2島は返還でなく平和条約の締結の見返りとしての譲渡とみなしている。平和条約を締結した後に歯舞・色丹の両島を日本に返還することはロシアと日本の両国が認めている。
残りの択捉・国後の両島の扱いが争点となっている。それを支える論理としての国際法上の認識がそれぞれに主張されている。
②「3島」返還論:国後島を日本領、択捉島をロシア領とすることで双方が妥協
③共同統治論:択捉・国後の両島を日露で共同統治
④面積2等分論:歯舞、色丹、国後の3島に加え、択捉の25%を日本に返還させ、択捉の75%をロシア側に譲渡。いわゆる「3.5島」論とも言われる。
(3)今回の交渉の経緯
 2012年3月、ロシア大統領への返り咲きが確実視されているプーチン首相が、海外メディアの編集トップと会見し、日露の懸案である北方領土問題について、柔道家として「引き分け」という日本語を使い、相互に受け入れ可能な妥協点を探り、日本との領土問題を最終決着させたいと表明した所から話は始まった。当時は民主党野田政権だったが、内閣支持率の低さと党内基盤の弱さから交渉を進めるべきだとはとても思えなかった。
 しかし12月に安倍政権が誕生し、麻生さんが副総理となり、外務次官だった谷内さんが内閣参与となった。麻生さん、谷内さんは第一次安倍内閣当時から「3.5島」論者だったことが知られている。領土問題が片付けば、ロシアとの経済関係が大きく進むことは、ほぼ確実に予想される。
 歯舞、色丹の2島に国後島を加え、さらに択捉島の25%を加えると4島全体の面積のほぼ半分になることから、日本から見ると3.5島で限りなく4島に近くなり、ロシアから見ると4島の半分という話になる。ロシアと中国はアムール川の中州を巡り軍事衝突にまで発展する領土問題を抱えていたが、2004年にプーチン大統領胡錦涛国家主席との間で中州の面積を2等分する形で問題を解決していた。そのため3.5島案は日露両国が歩み寄りやすい解決策と考えられる。森さんの言われる三島論は国境線を考えればシンプルになることが最大のメリットであるように思える。