この1年の困難 (1)中国ジニ係数0.61の衝撃

 アジアにはわかっているだけで大国が介在する武力衝突が起きてもおかしくない所が5つあると書いたのはビル・エモットだった。それは中印国境チベット朝鮮半島東シナ海尖閣諸島、台湾、パキスタンだという。(「アジア三国志日本経済新聞社、2008年)。彼の歴史認識には間違いが多いと思うが、問題の所在を嗅ぎ当てる能力は英国の伝統なのだろう。昨年より、6番目の場所として、南シナ海がこれに加わった。
 「日本の空をどう守るか」(双葉新書、2011年)を読んでから時々元空将の佐藤守閣下のブログを読む。今年の初めのブログには、ご友人の中国ウォッチャーとの会話が紹介されていた。少し抜粋引用する。「習総書記は本気で戦争やる気かな〜」ととぼけて言うと、「彼にはそれしかない。習総書記が1日の指導グループを集めた茶会の席で、毛沢東の詩を読み上げたという。出席者は習近平の頭の中は毛沢東でいっぱいになっている。彼の政治は左、経済は右だと認識したという。・・・今年の夏ごろが一番危険だ。7.7(7月7日)は盧溝橋事件の日、彼らはもう一度日本に戦争を仕掛ける気だ。・・・彼らは決めたことは必ず実行する。そうしなければ彼らの居場所は中国には無くなる」と話したという。
 少し中国政治に関心のある方は奇異に感じたと思う。「政治は左(つまり毛沢東)」の意味である。薄煕来氏の事件と貧富の格差の拡大もあって毛沢東の理論は以前ほど強調されてはいない。習総書記は、毛沢東の何を継承したのだろうか。昨年来NHKで放映宣伝されている「中華民族」なる奇異な歴史観に基づく放送番組を考えると、それは領土拡張主義かもしれないと思えてきた。
 昨年の秋以降に注目していた中国報道が2つある。1つは、2012年に中国で起きた反日デモの際に日本車に乗っていた中国人に対する傷害行為で逮捕された息子の母親の弁解と反日教育の実情だ。「学校ではずっと日本は邪悪な民族だと教えている。最近のテレビでは、大多数の番組とドラマは抗日がテーマで、日本人を恨まざるを得ないだろう」という。
 特に1989年の「天安門事件」以降、中国では、それまでの「階級闘争」教育から「外国侵略に対抗する」教育に軸足を移したことが知られている。この愛国教育では、歴史が断片的に伝えられ、外国侵略者の凶悪さと残忍さが強調され、自国指導者の過ちに一切触れない。その目的は、若い世代の民族主義の思想を膨張させることだ。1979年のベトナム侵攻に対しても、中国による侵略戦争であると認識をしている中国人はほとんどいないという。
 もう一つは日本が総選挙中の報道だ。これには本当に衝撃を受けた。12月10日に産経新聞が伝えた中国各紙の報道によると、所得格差の指標であるジニ係数が中国で2010年に0.61と、世界最悪水準に達していたという。ジニ係数は、0から1までの数値で表される。0.5以上だと、暴動などの極端な社会的対立が起きるとされている。国際的には、0.4以上が「社会紛争の多発する警戒線」とされている。中国ではこれをはるかに上回る格差が生まれている。2012年の反日暴動も、こうした貧富格差に憤る出稼ぎ労働者らの不満発散の“はけ口”に利用された観があったと報じている。
 中国のジニ係数は1980年代初頭まで0.3以下だったが、2000年には0.412と国際警戒線を上回るところまで上昇していた。その後は政府が調査結果を公表しなくなっていた。今回の調査は、政府重点大学の西南財経大学(四川省)と中国人民銀行中央銀行)金融研究所の共同事業で、全国25の省・直轄市自治区8400戸余りの家庭を調べた。それだけに信頼性はかなり高いとみられている。過去の国連などの調査でも、0.6台はボツワナシエラレオネ中央アフリカボリビア等に限られていた。端的に言えば、それだけで投資不適格な国といっても良いのではないか。2万社、10万人の邦人の救出計画が必要ではないのだろうか。
 その中国において、不動産バブルの崩壊、輸出の不振、環境汚染の激化、人件費の値上がり、貧富の差が激しく、中間層がいないため内需も期待できないこと、毎年の労働人口の増加と失業者の増加、農村部の貧困と年間20万〜30万件の暴動とデモが起きていること。そして共産党員を中心とする富裕層による海外への逃避と巨額の資産持ち出しが始まっている。
 中国国内の知識人の多くが、習近平が10年もつとは考えていないという。「中国崩壊」は、もう既に始まっていると考えても不思議ではないのではないか。
 周辺国の一つのである日本は、守りを固め、あらゆるシナリオと事件に備えるしかない。安倍内閣は危機管理を優先課題にあげ、現行の防衛大綱を停止と見直しを宣言し、ようやく防衛力強化に乗り出した。それで間に合うのだろうか。この方針転換だけでも政権交代して良かったと思えてならない。