政治経済短観 12月5日

(1)日本の総選挙が始まった
 衆議院選挙が4日公示された。16日が投票日となる。全国300の小選挙区比例代表11ブロック(180議席)計480議席を争う。新党が相次ぎ計12党が乱立していると報じているが、政界再編の過程だと考えられる。大事なことは誰も口にしないという原則もあるようだ。今回の総選挙の争点は、民主党の3年3ヶ月3代の民主党政権に対する総合評価であり、民主党の対外政策の是非であり、憲法上の自衛隊の位置づけ明確化である。戦争放棄条項自体は重視される。誰もが口にしないが、それらの争点に対する国民の結論はきわめてハッキリしているように思われる。そのため選挙の見所・焦点は自民党がどこまで議席を伸ばすのか、第二党にはどこがなるかであると考えている。
 11月28日の時点で、自民党230議席日本維新の会70議席民主党70議席日本未来の党40議席とおいた。多くの予測の平均とシナリオの分岐点を意識して考えた数字である。個別選挙区の状況は既に織り込まれたものをスタートにしている。そこから投票日までの出来事の影響をプラス・マイナスで考えていく自分なりの前提である。
 シナリオの分岐点を考えるとは、どの予測にも数字の幅があるが、その大小を考える際のバランスである。例えば、今回の数字は、「自民党公明党と合計して安定多数の269までは届かない。自民党日本維新の会の合計が、衆議院の2/3である320議席にはいかない」と想定しているが、それが変われば、政治は更に大きく変化する。同時に、旧民主党である民主党日本未来の党議席合計が自民党現有議席119を上回るためには、何らかの風が必要だと考えた。
 この1週間に起きたことは、選挙への影響だけを考えれば、自民党への「4つの追い風」が吹いたと考えて良いと思う。12月1日の就職活動解禁は雇用と経済の問題を思い起こさせた。北海道の停電は、改めて電力供給の重要性を実感させた。北朝鮮のミサイルは、自衛隊の役割と南西諸島の問題を再認識させている。笹子のトンネル事故は公共投資とそのメンテナンスの重要性を認識させた。
(2)参議院の勢力分布と来年前半の政権運営
 来年前半の日本の政治の展開を考えるにあたっては、来年夏に参議院選挙があることを考慮に入れなければならない。そして、それまでは参議院現有議席をベースとして政治が展開する。参議院議席数は242であり、半数改選である。11月30日現在、民主党国民新党90、自民党+立ち上がれ日本(現;日本維新の会)85、公明党19、日本未来の党12、みんなの党11、共産党6、社民党4、みどりの風4、新党改革2、新党大地2、無所属4、欠員2である。
 今回の総選挙で、自民党公明党中心の政権ができるとしても、過半数の122には、旧立ち上がれ日本の3名を除けば11議席ほど及ばない。更に憲法改正のためには、「各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない」ため、参議院においても162以上の賛成が必要である。ここに衆参同日選挙論があった。安定的な政権運営をするための自民・公明・民主の3党連立という考え方の基盤があった。
 新政権は法案を通すための11議席を、更には憲法改正のための51議席の支持をどのように獲得するのかが、ポイントとなる。もう一つは、衆議院総選挙の無効の訴訟が提訴されることである。最高裁判所の判断で一票の格差の是正を義務付けられていたが、0増5減の法案は通したものの、総選挙自体は旧来の区割り定数で行なわれているからだ。今回の選挙が無効だと判断される可能性は低いとは思うが、場合によっては衆参同日選挙も考えなければならない。
 新しい政権枠組みの成立には、2つの条件があると思う。1つは、外交安全保障政策と財政金融政策での大枠での合意あるいは政策協定である。もう一つは、参議院の1人区で大きくぶつからないことだ。参議院選挙においては、一人区の勝敗が選挙全体の鍵を握るとされているからだ。2007年の参議院選挙での民主党旋風がこの3年3ヶ月の民主党政権の発端だった。一人区は、人口が少ない地域に置かれている。自民・公明両党は、安定的な政権運営をするためには来年夏の参議院選挙の1人区で、民主党あるいは日本未来の党と競わなければならない。1人区で2016年の改選議席自民党が占めているにもかかわらず、2013年の改選議席をどこの党が占めているかといえば、この両党だからである。この両党が独占している県にも楔を打ち込みたいだろう。
 そう考えると、総選挙の結果次第であることは否定しないが、みんなの党の11議席(非改選10)は実に魅力的である。もう一つは、新政権ができて100日は政権のハネムーンだと言われる。3月末までは前政権との違いをみせる最大のチャンスでもある。そのため民主党との連立は考えにくいのではないか。
 みんなの党は、政策が一致すれば連携するという原則に基づいていると主張している。一定の政策合意ができれば、その連携は進むのではないか。日本維新の会まで含んだ4党連携や連立になるのかどうかはわからない。
(3)2030年原発ゼロのときの家庭の光熱費は32千円
 政府が将来の原発ゼロに向けた課題や影響をまとめた文書が3日になって判明したという。2030年の総発電量に占める原発比率をゼロにすると、電気代を含む家庭の光熱費が月額で最大32千円となり、2010年実績17千円から15千円引上げられると試算していることが公表された。原発関連地域への対応にも懸念を示した。もっと早く試算はできてはずだが、公示のドタバタにまぎれて発表された感がある。策定中のエネルギー・環境戦略に原発ゼロ目標を明記する方向で検討しているという。まだ政府ゴッコを続けているつもりでいるらしい。
(4)みんなの党の6つの主要政策
 今回初めてみんなの党の政策を読んだが、驚くほど安倍総裁の主張に近いというのが、自分の印象だ。この内容と国土強靭化政策との整合性をとり、外交安全保障政策を加えていくと今後の安倍政権の政策になるのではないかと思えてならない。
 国土強靭化政策の第一項目は、東日本大震災からの復興である。いずれにせよ、どのように地域を強靭化するかについて、国家の視点と地方の視点から何らかの形で調整しなければならない。道州制といったところで、現在多くの人に道州についての共通認識があるわけではない。最終的な形に進む前に、道州単位での発想や意識が進展する仕組みを整備すべき段階だと思われてならないのである。その1つとして「カウンティ統計制度」がある。国会議員や県議会がフラットに話合う場があっても良いのかもしれない。
 下記の6つの主要政策についてはみんなの党のWEBより転記したが、「増税凍結と原発ゼロ」という言葉にとらわれずに合意が作れるならば、連携は可能なのではないか。増税の前にやるべきことがあることと、エネルギー政策をゼロから考えていくべきことでは共通しているからだ。
①復興第一
 日本の復活には東北の復興が必須。2011年度政府予算に盛り込んだ約15兆円の復興予算のうち4割が未使用。使われたとしても被災地に直接関係ない不適切な使途が明らかとなった。地方のことは地方で決められるようにするのが基本。適切、迅速な復興のためにしっかりと質す。
②経済復活
 成長しつつある「30億人のアジア市場」を開拓。TPPを推進し、国際競争力を高める。同時に、規制改革を行い地域密着型(地場)産業(医療・介護、福祉、子育て、家事支援、教育、農業等)で経済を再活性化して雇用を増やす。
③デフレ脱却
 先ずは、日銀法改正により政府と日銀が協定を結ぶ。金融緩和と円安誘導、積極財政を進め、モラルハザードを回避した上で株式や社債不動産投資信託(REIT)などを購入して市場への資金供給を拡大させる。
行政改革
 制度を憎んで人を憎まず"縦割り行政の弊害を打破し、スリムで効率的な行政組織を目指す。正しい政治主導を確立するために、中央集権の行政システムや官僚制度を改革し、国民が主役の政治にする。
増税凍結
 増税の前にやるべきことがある!消費税増税は凍結。景気が冷え込んでいるにもかかわらず、国民に負担を強いるのは愚の骨頂。十分な歳出削減もせず消費増税財政再建に成功した国はない。むしろ増税の前にデフレから脱却するための名目成長率を高める政策を集中的に行い、税収増を目指す。
電力自由化原発ゼロ
 いまだ止まらぬ放射能漏れ。日本の安全神話は崩壊し、技術的にも心情的にも原発依存のエネルギー政策の限界が露呈した。当面の電力需要にはLNGコンバインドサイクル発電、再生可能エネルギーの普及・促進などで対応。電力自由化による市場原理による原発淘汰を促すとともに、廃炉に関する産業・ビジネスを推進し、既存の立地自治体の財政支援、雇用確保にも十分配慮する。
(5)2013年の日本
 今度の選挙では、日本をどう再建していくかについての国民の決意が示される。選挙が終わってからの半年で何を行い何を達成するのか、夏の参議院選挙で何を国民に問い、何を実行するのかについて、様々な思考実験が必要な時期なのかも知れない。国民の一人として、2013年は、日本を再建するための大きな1年にしたいと考える。