内外情勢 2012年10月

1.米国の意思と空母の負担
 2隻の米国空母のうち1隻はマレーシア近海に、もう1隻は台湾東方沖に布陣しているとのことだ。マレーシアはブルネイとともに南シナ海の南部に面している。つまりマレーシア近海とは、今まで海南島の制空権が及ばず、今年就役した中国初の空母「遼寧」が、対潜用のヘリコプターなどを搭載して、自国の戦略原子力潜水艦の警備と他国を牽制するために置かれると予想される南シナ海の南部を意味するのではないか。台湾東方沖も、東シナ海を出て水深が深く、中国が戦略原子力潜水艦を配置したいと考えている海域のはずだ。米国は、2隻の配置によって、同盟国への配慮とともに、米国の戦略的な意思を示した。
 一般に、スキージャンプ式の空母は、航空機の離陸時に船自体を風上に向かって高速で助走させる。4本のカタパルトで打出す米国空母と違って全ての艦載機を離陸させるのに時間がかかり、その航空機の燃料や武器の重量も制約される。現時点では、中国の空母本体のエンジンと航空機のエンジンの技術には遅れがあるといわれ、軍として装備全体としてのデータ共有技術にも差があるとされている。
 米国の空母打撃群1つの維持費は、艦載機や周辺に配備する潜水艦、イージス艦も含めて年間1兆円だそうだ。維持費を装備調達コストの1割程度と考えるならば、10兆円の装備費をかかることになる。産経新聞によれば、空母本体の調達コストは4500億円らしい。こうした部隊を訓練休養の部隊を含めて数セット保有することは、米国にとっても、そうした米軍打撃部隊に対抗しようとしている中国にとっても大きな経済負担となることは間違いがない。
2.日本への制裁
 産経の古森さんは、尖閣諸島に対する中国側の今後の動向について米国の専門家にインタビューし、中国側が今後100人単位の軍人ではない工作員を組織し活動家としてを尖閣に上陸させて立てこもるといった行動を起こし、日本側の実効支配に挑戦する見通しが強いとの見解を報じている。中国は最高指導層が対外的な強硬さを国民に誇示するために尖閣諸島問題では強い行動に出るという。
 中国の経済状況をみると、足元で製造業の景況指数が悪化している。欧米の需要低迷により輸出が激減し、雇用の確保が難しいようだ。ここにきて人民日報は日本への経済制裁をよびかけている。制裁すれば日本の経済は20年は後退するという。中国と韓国と自由貿易協定を結べば、日本産業は困るだろうと脅してみせた。
 本当だろうか。日本の朝日新聞も、ユーロ危機や人件費の上昇で欧米勢が対中投資を減らすなか、日本は中国への積極的な投資を続けてきたが、尖閣問題があってこれが全く動かなくなったと報じている。デモでの破壊行為や不買運動が、日本企業に「中国リスク」を痛感させたという。
 朝日新聞の場合、その後が少し論理が変だ。問題は日本企業にもあり、欧米企業に比べ、中国人社員の処遇が悪いという。人件費の上昇で欧米勢は撤退していると言っていたのではなかったのか。さらに、当面の問題を克服するには、中長期の大局に立って相互信頼を取り戻すことこそ大切だという。それが中国政府への提言ではないところが間が抜けている。
 日本から中国への輸出は製造機械、ロボット、原材料などで、日本が輸出をやめると、中国が困るという。ミシンの輸出をやめれば、アパレル、繊維産業が立ちゆかない。日本へ来る中国人ツアーはもともと評判が悪い上にホテル自体が中国人の経営だという。自動車産業稼働率が落ちれば、いずれは工員の解雇となる。しわ寄せは中国人労働者にいく。関連部品、下請け、孫請けの日本企業も撤退を検討している。保険業界は「反日暴動」リスクを勘案し、保険の掛け金を引き上げるか、保険の販売・引受けをやめた。そのため制裁されるまでもなく中国で企業活動を拡大できるわけがない。
3.日本の総選挙
 自民党の総裁選で安倍さんが勝ったのは、事情通の人ほど奇跡的だという。竹島尖閣諸島の問題に対処できる人をとの国民の想いが、安倍・石破体制を産み出したのかもしれない。
 民主党は、総選挙を来年以降に伸ばし、自分で予算を編成した上で、北朝鮮から拉致被害者の帰国を実現して支持率を少しでも上げたいとの噂が流れている。しかし離党者続出に悩み、国会が開けない内閣がまともな外交をできるわけがない。まして首相自身が参議院で問責決議を受けている。それで協力しろとは良くわからない。
 民主党国対委員長は、先週「国民が今、求めているのは政局や政争ではなく、しっかりとした政策の実行だ。国民生活を左右する重要な法案を人質に取るということはあってはならない」と訴えたという。同感だ。だからこそ、経済に多少影響が出ようとも、1日も早い総選挙が必要だと思う。