静かに高まる緊張 2012年10月

 夏の前半はロンドン・オリンピックで寝不足になったが、ずいぶん昔のことのようだ。夏の後半は国際政治の現実に振りまわされた。台風が過ぎ去って、オスプレイが岩国から沖縄に配備された。岩国・普天間間1000キロの距離を2時間ほどで何事もなく飛んだ。県知事と市長が双眼鏡で普天間基地への飛来を見るシーンがニュースで放映されたが、沖縄防衛のために沖縄に配備された兵器に反対するのは、やはり奇異だ。
 テレビではあまり報じられないが、軍事的な緊張が高まり、西太平洋で米国の原子力空母「ジョージ・ワシントン」と「ジョン・C・ステニス」の2隻が警戒中との発表があった。こうした発表自体は異例のことだと思う。ホルムズ海峡封鎖が懸念されるアラビア湾と同じ体制がとられたのである。さらに太平洋には空母「ニミッツ」が控えているという。
 これには中国軍が中秋節国慶節という大型連休に東シナ海南シナ海黄海で大規模な軍事訓練を実施していることに関係があるという。中国政府の公船が日本の排他的経済水域や領海への進入退出を繰り返し、そこで何かあれば戦端をすぐ開くぞとの意思表示だと考えられる。陸海空軍の全体にわたり戦闘準備態勢をとっているという。当然自衛隊も出動しているはずだが、その動静は報じられてはいない。2隻の米国空母がなければ、いつ中国が戦端を開いてもおかしくない状態にあるのではないか。
 2隻の空母で、思い出されるのは、1996年に行われた台湾総統選挙のことだ。李登輝優勢の観測が流れたときに中国は選挙への恫喝として基隆沖海域にミサイルを撃ち込むなどの威嚇行為を行なった。台湾周辺では、一気に緊張が高まった。この時も米軍は、2隻の空母打撃群を派遣した。中国軍は手も足も出なかったとされ、その時から空母の保有を目指すことになったという。
 米国空母は、航空機だけでなく、攻撃型原子力潜水艦イージス艦やミサイル艦などで守られている最強の動く軍事基地である。米軍は更に南シナ海のスービック湾に巡航ミサイルを積んだ攻撃型原子力潜水艦を派遣するという。東シナ海で押さえ込まれた圧力が南シナ海で噴出しないようにするためなのだろう。中国海軍の原子力潜水艦と第2砲兵が、米空母を標的にして弾道ミサイルの照準を合わせていることへの対抗措置だと考えられる。
 日本国内では離党防止と選挙対策のため内閣が改造された。個別にはコメントする価値もないが、防衛大臣は留任した。なすべきことが数多くあるといっている割には、政府は国会を開きたくないという。解散に追い込まれかねないからだというのが理由だそうだ。正気の沙汰ではない。中国は尖閣のみならず沖縄までも奪取する意図を隠そうともしていない。彼らも正気の沙汰ではない。オスプレイ配備に反対する沖縄の県知事や市長は何を考えているのだろう。彼らの国防に関する考えを問い質すメディアがあってもよいと思う。内閣全般に思考が停止しているのではないか。もはや民主党政権がやれることは解散総選挙だけである。
 国力において、アジアで中国の覇権に抵抗できる唯一の国は日本であり、日本が尖閣諸島を中国に奪われば、アジアはドミノ倒しで中国に呑み込まれていくことになる。