天下の暴論 2012年9月

1.暴力は排除されたのか
 六本木で焼き肉店経営者が目無し帽の男10人に撲殺されるという惨い事件があった。犯罪率は統計上は減少しているようだが、大都会の治安が悪化しているのではないか。米国の治安悪化地区の犯罪ドラマのようだ。暴力団対策法に続いて暴力団排除条例で、暴力にかかわる行為はきれいさっぱり日本列島から排除されるはずだったが、そうなってはいない。それどころかかえって指定されてない暴走族系や海外系の荒っぽい暴力集団が勢力を伸ばしている。除草剤をまくと一定の期間は一本も生えないが、それが過ぎるとかえって雑草雑木が繁茂する現象に似ている。一面的な正義の追求という考え方が、思わぬ影響を呼び起こしているのではないか。学校秀才の警察幹部では対応できないのかもしれない。
2.国家を壊す人権委員会
 民主党の法務委員会が会期末のドサクサに紛れて強引に採決した人権救済法案を閣議決定するという。選挙対策なのだろう。以前からの流れから言うと、これは人権委員会が差別だと認めたものを罰することができるという法律と言われる。人権委員会は、被差別者、障害者などが優先して選ばれる。しかし差別の基準は極めてあいまいだ。その判断が違っていた場合でも名誉回復の手段がない。全国で2万人規模の人権擁護委員を選ぶというが、その選定過程も不透明で国籍条項も除外されている。法務省のバランス感覚はどうなっているのか。永住資格の条件や帰化の条件などもズルズルになっているようだ。法務省は大丈夫か。
3.事なかれ主義で領土は守れるか
 東京都の尖閣諸島購入のための第一回目の調査が終わり、都知事石垣市長、沖縄県知事と相談しながら物事を進め、灯台や船溜まりを造ることも検討するとの方針だとしていた。しかし、ここにきて政府は国が直接買い、「平穏に安定的に」維持するという。何を考えているのだろう。結局党内基盤が弱い首相は自分の意見を貫くことはできない。政府がなすべきは、東京都と競争することではなく、中国の顔色をうかがうことでもなく、実効支配を確実にすることだ。事なかれ主義の外務省では国を守れないと国民は思っている。
4.冷静ではなくて冷酷な外交を
 北朝鮮外交が少し動き出した。遺骨の取集がきっかけだという。二万人の遺骨を日本に帰還させるためには一千億円を要求されているという人もいる。北の国家予算は、二千億円なので、北朝鮮は遺骨と引き換えに国家予算の半額にあたる金額を要求されていることになる。拉致問題の解決、被害者の帰国が一番大事であり、申し訳ないが亡くなった人の遺骨収集の優先順位はかなり下がる。
 南の韓国は韓国で、政治的にあれだけのことをしながら、経済への影響を与えないように必死だ。しかし実行支配に変化はなく、軍事演習が中止になっただけだ。そして日本に歴史教育の徹底を要求している。捏造の歴史に踊らされて争うこと程、馬鹿なことはない。韓国の歴史教育が正しく清算されない限り本当の和解は生まれない。APECを機に米国に頼み込んで、もうこれ以上、ことを荒立てないと言い出した。一撃必殺の喧嘩上手だ。日本政府の優柔不断であいまいな態度は有害だ。
 個人的にはクールはクールでも、冷静ではなくて冷酷な関係をしばらく続けるべきと考える。経済制裁をしながら、韓国歴史教育の歪みの清算を図るべきと考える。他国に内政干渉するのではなく、日本国民に隣国の正しい歴史を教えることから始めよう。そうすれば、馬鹿馬鹿しくて馬鹿げた議論に付き合う人々はぐっと減る。世界にもこの事実を知らしめれば、隣の国も少しは考えるだろう。
5.日本外交の立て直し
 日本の外交はどうあるべきなのか。様々な学者、外交官OB、政治家が外交についていろいろな本を書いている。しかし事実の認識とモノの見方において、しっくりくる本となると限られる。2年前に亡くなられた村田良平大使が退官されてから書かれた本は、若者や国民には真実を伝えたいという志にあふれた稀有な本だ。毀誉褒貶を恐れず、実名をあげて現役の政治家や外交官の行動と考え方を評価している。国益を守ることに全力をあげられた一人の外交官の気概を感じる。折に触れて読み返すと新たな発見がある。
 彼は、国家主権の侵害に対して日本は鈍感な国だという。何かの事案が起きた時に多くの日本人がまず万事穏便にと考えるのがだめだという。事案によっては、抗議し報復しなければかえって良くない。本質を見極める眼と頭がない人たちが権力を握っていたら目もあてられない。
6.世界一安全な原子力発電所とエネルギー計画
 世界一安全な原子力発電所を造れるのは日本である。中国でも韓国でもない。福島の原子力発電所の事故の本質は、非常電源の喪失という事態を想定しなくてなくて良いと誰かがどこかの時点で決めたことからだという。電源喪失の事態への事前対処法は様々あった。その意味では福島原子力事故は人災である。観たくないものは見ない考えないという発想が、安全を脅かし、安全保障を脅かしている。
 さすがに経団連の会長が、原発ゼロは人気取りと何時になく政府を批判した。寿命の短い政府が、エネルギーの長期基本計画を決めるという。計画能力がない人たちに計画を決めさせてはいけない。首都圏の利根川水系が水不足で10%の取水制限が始まるという。メディアは、脱ダム宣言をしていた政治家に現在の感想を訊いて回るべきではないか。
7.ニコニコ外交の本質
 ロシアが国境問題の話し合いを言い出した。学生ボランティアが東京横浜ご褒美旅行に来るという。なるほどプーチン大統領は情と気配りの人だというのが良くわかる。もちろん筋金入りの愛国者で頭も良い。今の日本の首相・外相では、かなり分が悪い。現在、日本の政府は国民支持率の低迷に苦しんでいるので、外交で得点を挙げて人気の回復を図りたいと思っているのだろう。だから外国政府がここぞとばかりに外交攻勢をかけている。次の内閣よりははるかに扱いやすいと思っているのだろう。あれほど大事にしていたはずの中国・韓国は日本に喧嘩を売り始め、そっけなくしていた北朝鮮とロシアはニコニコとソフトムードだ。
 大局から見れば、今の日本に必要なのは人気取り外交ではなく一見逆の富国強兵策だ。富国強兵策をとれば、多くの外交目的が達成できるのではないか。