内外情勢 2012年5月

1.国内
 4月30日に日米首脳会談があり、そのあと首相は強気の記者会見をしていた。それ以外何も伝わってこない。現在の内閣・政党支持率を考えれば、いつ何があっても不思議ではない。メディアは全く報じないが、今の国会会期のままでは、消費税増税法案も審議途中のまま採決せずに終わることになるという。1つの特別委員会で何本もの重要法案を1ー2ヶ月で通すことはできるはずがない。国会の会期の延長幅が連休明けの一つのテーマとなる。
 連休中、関西が選挙区の与党幹部は、ロシアで、サハリンと北海道の間のガスパイプラインの建設をぶち上げた。良い考えだと思うが、その前に関西の電力をどうするのかはっきりさせてほしい。2−3か月先の夏の電力供給の目処がついておらず、計画停電の具体的検討を始めざるを得ないという。
 電力の需給に関して、政府・与党とも全くの他人ごとのようだ。東日本大震災から1年以上もたって何も決まっていないこと自体が信じられない。どうして問題の切分けと総合的な対策の時間軸の設定ができないのか。円高も問題だが、石油の需要がひっ迫している中、日本がエネルギーを買い漁ることで世界の石油価格を高騰させ、計画停電を行うことで、製造業の海外移転を促進することになるのは明らかだ。
 自衛隊の活動と努力に不満があるわけではないが、この1ヶ月、防衛装備、体制そして法制は不十分だと痛感させられた。北朝鮮のミサイル発射騒動で明らかになったことは、ミサイル防衛システムの数が圧倒的に足りないことだ。そして巡航ミサイルには対応できないことも明らかになった。地方自治体との広報連携体制も不十分だった。F35の価格は42機調達で一機当たり200億円だという。どこまでの範囲をふくんだ費用なのかはわからないが、高騰していることだけは間違いない。価格以上に問題なのは、きちんとしたものが出てくるまで時間がかかることだ。間に合わないことがはっきりした以上は、お金がかかっても別の手段を講じなければならないはずだ。
 石原都知事が英断された都による尖閣諸島の購入という奇策は国民の献金によってその実施を促進すべきだろう。それだけではなく与那国島石垣島、そして対馬などの離島の防衛が不十分であることが明らかとなった。
 ただ防衛大臣は問責決議を受けているため、そうした問題の検討が国会で当分行われないのではないか。そのことだけでも万死に値する。
 しかししばらくの間、そうした問題とは無関係に時間が空費されそうだ。無罪判決を受けた小沢氏の当面の目標は、9月の民主党代表選挙前に総選挙をさせず、審議を長引かせて消費税を採決させないことだ。そのことが彼の影響力を存続させるポイントとなる。選挙になれば自分のグループの多くが落選するからだ。そして9月の代表選には、総選挙の顔として国民受けする若手を立てて臨むとみる。一方、首相にしてみれば、自民党と事実上あるいは暗黙の連合を組んで消費税増税法案を可決し、基礎年金の一元化などの使途を選挙の争点にして選挙を行ないたいと考えているだろう。
 個人的には、消費税がどうなろうと、7月にはいれば、民主党の支持基盤は一層の打撃をうけると考える。電力料金が引き上げられる上に電力不足を引き起こした無能力の責任が問われることになるからだ。そのため首相の期待する自民党との連立は成立せず、むしろ、自民党と橋下グループの連携が進む可能性が出てきたとみる。
2.海外
 中国の重慶市の幹部失脚報道などでいつも驚かされるのは、共産党幹部の汚職と中国マフィアの暗躍の実態、そして蓄財額の大きさだ。4億円で政局が左右される日本とは規模が違う。ほとんどの幹部は子弟を海外に留学させ海外に蓄財し、その永住権を得ていることである。普通に考えれば成功しているエリートほど、海外に移住を望んでいる国が発展するわけがない。
 それほどのエリートでなくとも、2つの方法で、海外への脱出を図っているように見える。2000年以降のアフリカへの中国の進出は、あたかも国内における公共投資の一部であるかのように、お金も出すが、資材も人も軍隊も出している。その集団に付随して食堂も洗濯屋も進出するので、現地の一般民衆の不満は高い。おそらくその中国人の集団は工事が終わっても、様々な方法で、そのまま現地に定住をすることになるのだろう。もう一つは、試験を突破して、海外の大学なり大学院へ留学して現地の会社に職を得て永住権を得る方法だ。
 貧富の差が拡大していても、今迄は経済の全体的な拡大が不満を緩和してきた。しかし欧米経済が一様に減速すると輸出は伸びず、折からのバブル崩壊によって中国国内の不満が一層高まるだろう。そうした不満を軍事に転嫁させないことが、アジアの平和と中国の民主化を創造するうえでのカギになる。日本の一層の防衛力強化が必要な最大の理由である。
 もう一つのカギは水の需給だ。穀倉地帯の水が不足すれば、雲南から水を持ってくる。そして雲南の水が足りなければ、チベットから水を持ってくることになりそうだ。しかしチベットの水はアジアの多くの国々を流れている大河の源流である。南シナ海と並んで、チベットの水利がアジアの平和を左右する。
 内向き志向の日本ではあまり大きく報じられていないが、日本が自衛隊を派遣した南スーダンでは、ようやく分離した北のスーダンとの衝突が激しくなっている。4月下旬に南スーダンの首脳陣が北京を訪れ、今後2年間で総額80億ドルの融資を中国から獲得した。融資は石油開発のほかに橋や水力発電施設、通信網などの整備に充てられ、工事は中国企業が行うという。報じられてはいないが、返済は石油でということであり、融資対象には武器もあるのではないかと推測する。南にしても中国の援助を得ることが必要だった。というのは、北の武器のほとんどは中国製であり、そのメンテナンスはおそらく北ではできないからだ。北より南と付き合うことが中国の利益になれば、北に肩入れすることが少なくなるからだ。戦闘が拡大したときに防衛大臣南スーダンPKOをどうするつもりなのだろうか。
 アフリカでも中国のやり方に徐々に現地の不満も高まっている。しかし、有史以来、ヨーロッパ人がアフリカに行った人数よりも、2000年以降に中国人がアフリカに行った人数の方が大きいと言われているが、その全体像はまだあまり分析されていない。
 先頃、世界金融大手の英スタンダード・チャータード銀行は、中国の広義マネーサプライM2が過去5年間で146%増加し、2011年末時点でのM2残高は13兆5000億ドルに達したという。また2011年度のM2新規増加額の52%を中国が占め、2009-2011年の3年間でみても世界M2の新規増加総額のうち、48%は中国中央銀行によるという。IMFに気前よく出資した日本の財務大臣はこの問題をどう考えるのだろうか。
 中国系の学者は、元は国際通貨ではないため、マネーサプライが急増しても元は国際社会で流通することができず、国内だけで流動していることから、インフレの圧力はすべて中国国民が耐えなければならないと白々と言う。中国の海外進出の形態と重ね合わせればそれが何を意味するのかを考えなければならない。違うルールの国と同じ土俵で競争はできない。同様に為替安を意図的に創出する国との貿易や付き合い方を考えなければならない。