保守再編の旗

 石原慎太郎都知事が動き出した。彼は、このまま、日本が衰退していくのをみるのが我慢ならないのだと思う。やるべきだと思ったら、一人でも戦う覚悟があり、先への構想力がある。気難しい老人だが、見識があり心と涙がある。個人的には首相として活躍していただきたい方の一人だ。しかし現実にそうなるかどうかは、わからない。ただ彼が保守再編の旗を揚げることで、日本の政治は大きく動きだすと考える。
 話題は、橋下徹大阪市長のグループとの連携となっているが、それ以前に、2人がお互いの志と能力を認め合っているところにもっと重点が置かれるべきだろう。また2人が共に、「船中八策」という言葉をキーワードにしていることに注目したい。そこが一致すれば、それぞれが、自分のやり方で動き出すはずだ。既存政党は、彼らの存在感の前で、どこまで独自性を発揮できるかが一つの政局の焦点になりつつある。
 石原氏を中心としたグループの基本政策の草案が決まりつつあると報じられた。「国のかたち」「外交・防衛政策」「教育立国」など7分野29項目あり、項目ごとに具体策を明記し、日本の創生を訴えるという。 外交・防衛分野では「自立日本」を掲げ、日米同盟の深化と憲法9条改正による国軍保持、防衛産業の育成、「南西防衛戦略」推進、核保有に関するシミュレーションの実施、男系存続のための皇室典範改正、首相公選制などを明記した保守色を前面に押し出した内容となるという。経済・財政政策は、100兆円規模の政府紙幣発行、国の財政の複式簿記化などがあげられている。このほか、国家公務員3分の1削減、新しい教育勅語の起草、フラット税制などが盛り込まれているという。
 おおむね賛成であり、異論はない。ただ個人的に疑問に思われるのは、エネルギー政策として2040年までの原子力エネルギーゼロという政策だ。それには3つ理由がある。たしかに福島の惨状を考えれば、そう言いたくなる気持ちはわかるが、2050年に人口90億人となる世界で、原子力のエネルギーなしに世界の人々の貧富の差を縮め、充分な食料供給ができるとは思えないからである。石炭も石油・天然ガスシェールガスもその分布には偏りがある。日本のことだけではなく、世界を考えた政治でなければならないと思えてならない。2つ目は、長粼、広島を経験し福島で苦労している日本だからこそ世界一安全な原子力発電所を作れるからである。3つ目は、そうした政策を決めるタイミングと人の問題である。2020年以降に経常収支余剰がマイナスになるかもしれないというときに、そうしたことを決めるべき時ではないと思う。マスコミも含めて多くの人が、ついこの間まで地球温暖化説と京都議定書に囚われ、良く調べず考えずに自然エネルギー派となる傾向があった。
 昨年の年末の地球温暖化の会議で、日本がなぜ京都議定書の延長に反対したのか、ほとんど国内議論をせずに日本は方針を変えた。欧州も驚いたと思うが、京都議定書反対派の自分もかなり驚いた。あれだけ騒いだ温暖化反対論者はどこに行ったのだろうか。遅れていた東欧を抱えていた欧州は排出枠に余裕があり、米国と中国が加わらず、日本だけが2005年比30%のCO2削減を義務付けられるという不平等条約に反対した政治家は少ない。人気商売はわかるが、エネルギー経済を数字として理解していない人も多い。ホルムズ海峡と世界のエネルギー情勢に目配りしている政治家も少ないと思う。米国経済はドル安とシェールガスの開発によって、自国はそれほど海外のエネルギー価格高騰にマイナスの影響を受けなくなりつつあるのではないか。個人的には、補助金目当てのレントシーカーと素直で信じやすい人達の意見は詳細に利害得失が論じられるべきだと考える。
 東電及び9電力の体制をどうすべきかの議論が今年の大きなテーマだと誰もハッキリと言及しないまま時が過ぎていく。福島の復旧を進めるためにも、東電をどうするかを論じなくてはならない。国有化すべきとは思わないが、株主の責任、貸し手の責任、政府の責任は明確にされなければならない。
 今年の春は、サンフランシスコ講和条約が発効して日本が独立して、4月28日で60年目の春となる。今の状況から判断すると、5月の連休明けから1ヶ月以内に総選挙が行われると考える。まぎれもなき保守の旗が一つ立てられることで、消費税の是非ではなく、「この国のかたち」をテーマに総選挙が行われることを国民の一人として喜びたい。