傍目八目政治短観 スリー・アウト

1.首相と副首相の説得力
 年が明けて野田首相がいろいろなところで不退転の決意を表明し、増税案が参議院で否決されたならば解散をすると言い出した。この人は誰を説得しようとし、誰と戦っているのか、はっきりしない。野党は解散を待ち望んでいる。彼がそう話せば話すほど「マニフェストに書いてあることは命がけで実行する」とのビデオの視聴回数はうなぎ上りだ。増税マニフェストにはなかった。だからこそ、きちんと論理的に説明しなければならない。
 この週末、岡田副首相は、消費増税社会保障の一体改革について、年金制度の抜本改革のために必要な財源は、今回の10%には入っていないこと、抜本改革にはさらなる増税が必要になることを明らかにした。2015年10月に消費税が10%になっても、社会保障の充実には新たな増税が必要だとし、将来の増税幅については最低保障年金をどれぐらい大きくするかによると指摘した。また財源が必要なのは年金だけではないため、いま最終的な税率の議論をできないといった。野党は、社会保障改革の全体像を示すよう求めているが、抜本改革を議論しないと一体改革が議論できないということではないと言ったという。嘘はないが、それでどうやって国民や若者を説得するつもりなのだろう。足し算引き算だけならば政治家はいらない。
2.社会保障の説明と老人の誇りある選択
 社会保障を年金、医療、その他に分けてそこにどういう問題があり、どうすべきかという説明が全くない。税との一体改革というならば、世代間の公平が問題となる。
 年金制度への不信感を払しょくするためには、積立方式との差を説明しなければならない。年齢構成から、若い世代にどこまで負担をかけるのか。消費税にすれば、たしかに所得税をとれない年金世代から税金を徴収できる。しかし人口構成がいびつであることを反映し若い人たちからあつめた年金原資を豊かな老人世帯にどう所得移転をするか、はっきり告げなければならない。曖昧にすることで制度が守れるとは思えない。
 医療費の問題もどんどん技術が進み、高額医療が出てきている。それも死ぬ前3年間の費用が存外大きい。一般論として70歳を越えての延命治療には費用の点で問題があると思う。ただ、どう死ぬかという問題は、他人からとやかく言われたくない問題でもある。いつまでも現役時代のようにピンピンとしていて、ある時、子供に迷惑をかけずにコロリと行きたいというのが自分の考え方だ。どう死ぬかというのが一大事であることは間違いがない。70歳以上は特約を結ばない限り延命治療はしないこととすべきではないかというのが自分の意見である。金銭的にも後の世代の人に迷惑をかけたくないのである。その時点でまだ働きたい、生きていたいと思う年寄りは自分で保険をかければ良い。年配者が多い議会ならではの議論を聞かせてほしい。
3.増税以外のこと
 昨年12月に、増税の前提として公務員給与の削減、国会議員定数の80議席削減を実現すると、首相が突然言い出したので驚いた。どちらも必要だと思うが、増税案をまとめるのと同様の難しさがありハードルはさらに上がったと感じたからだ。ものごとの大小、後先の感覚がだいぶ違うらしい。
 年頭会見では、この世界情勢が不安定な中で、年末にあれだけ外遊していて、外交安全保障には全くコメントがなかったのにはかなり驚いた。辺野古普天間基地を移すにあたって、沖縄の振興予算は満額回答したものの、どう進めていくのかは全くわからない。知事から大臣へと権限を移す埋立許可の特別措置法までやらないとコメントしてしまった。どのように沖縄県民を説得するつもりなのだろうか。新任の田中大臣は奥方の方が存在感の強い政治家だからと言って、防衛力が優れているわけではない。気になっていることは、東日本大震災への出動から撤兵してきた自衛隊に最高司令官から労いの言葉はあったのかどうかである。寡聞にしてわからないが、国民の多くは自衛隊の活動に感動し感謝している。
 東海・東南海・南海の連動地震に備えるならば、自衛隊を更に10万人ほど増やすべきではないのだろうか。どうしてそうした政治家の声がないのか不思議に思う。10万人出動したときに周囲の国が、隙あらば領土を侵す構えを見せていたことを多くの国民は知っている。
 昨日、民主党の議員団が100名集まって財政再建のため、公共用地を1400億円の売却をすると言う。必要な公務員住宅をなぜ作らないのだろう。TPP加入をきめた昨年秋に、農家の経営規模を大幅に拡大することを決めたはずだ。そのための具体的な土地政策を論じられないのだろうか。
 日本の国土の総面積は3770万ha、そのうち農地と放牧地を合わせて480万ha、森林が2510万haあってそのうち里山の人工林が1000万ha、もう伐採しなければならない時期なのでスギの花粉がよく出て、多くの国民が悩んでいる。国土利用は適切なのか。外国資本による水源地の買い占め問題にはどう対処するのか。基地全体を見渡せる不動産を外国人の保有にして良いはずもない。世界の食糧危機やエネルギー危機にどう対応すべきなのか。欧州の債務危機やホルムズ海峡の問題にどう対応するのか、だれも発言しない。作らなければならない法律は何なのか、思いも付かないのかもしれない。だとしたら、彼らは、政治のために生きておらず、政治によって生きていている。
政治は野球ではないが、民主党は、もう充分スリーアウトである。