日本の制約条件

1.制約条件理論
 昨年亡くなられたイスラエルゴールドラットさんが世界に広めた生産管理論に「制約条件理論(TOC)」がある。簡単に言えば、鎖の強度は一番弱い環で決まるという考え方だ。工場の生産能力も生産工程の中で一番能力の小さいところで決まるという理論だ。工場の生産量を増やすためには、ボトルネック工程の能力を上げなければならない。またそれ以外の工程の能力増強は意味がない。そうした制約(ボトルネック)を認識するために、原材料の供給から、工場、営業、マーケットを一貫したシステムとしてとらえる必要があるという考え方だ。分析を始める時に先ず考えるのは、どこに制約があるかを見つけ出すことにある。制約は、原材料の場合もあれば、設備の能力の場合もある。市場の問題なのかもしれない。そんな考え方を使って納期の大幅な短縮、在庫削減、生産量の増大、営業利益を飛躍的な拡大を成し遂げた日本企業も多いと言われている。
 結局、人間が関係するシステムが抱える様々の問題は、さかのぼっていくと幾つかの根本的な原因によって引き起こされている。
2.増税シフトは円高デフレ推進シフト
 野田内閣の防衛大臣国家公安委員長民主党国対委員長が更迭され内閣が改造となった。増税シフトだという。日銀の総裁は欧州の債務危機が最大のリスクだというが、国民にとっての最大のリスクは、世界が不況に入りつつあるときに、増税以外のことは考えたくない民主党内閣である。
現下の最大の問題は、東日本大震災からの復興であり、有効需要の水準であり、雇用の創出である。
 今後、増税シフトは、まず公務員給与と国会議員定数の削減をして、「政府も政治も血を流したのだから」、消費税の引き上げ法案に賛成すべきだというシナリオの創出に全力を尽くすのではないだろうか。国会議員定数の削減で野党と取引をする。そして賛成しないのは、責任ある政治家ではないという宣伝が行なわれると思われる。
野党多数の参院で法案が否決されれば、衆院解散に踏み切るという。「不毛な政局談議はやめ大局に立って奉仕することが求められている。崖っぷちにいるのは民主党ではない、日本と国民だ」と野田首相は強調したとのことだ。しかしそのことがなぜ国民と野党への脅しになるのか、自分には理解できない。
 もちろん、そうした方針に乗って、話し合い解散に持ち込めるならば、それもお国のためだと考える柔軟な保守系の議員もいる。それは政治論としては議会人らしい真面な議論だと思うが、解散がなければ始まらない。
 しかし経済論としてみれば、公務員給与の削減はデフレ要因である。増税すればさらに支出を抑えるのでデフレとなる。だから増税シフトはデフレ推進シフトに他ならない。デフレになれば、実質長期金利が上昇する。
 昨年、英国のフィナンシャルタイムズは、円はグローバル金融危機における避難場所の地位を「永続的」に確保するに至ったとした。その地位が永続的なものではないことはハッキリしているが、国債を多額に発行しているにもかかわらず、デフレが続き、実質的長期金利が欧米より高く、インフレの兆候はこれほども見えず、デフレを一層推進する増税が決まれば、欧米の経済環境は短期間に改善しそうもないので、円高は更に進む。
 すこし歴史を振り返れば、1997年4月、村山内閣で内定していた消費税等の税率引き上げが橋本内閣で実施された。産経の田村さんは「カンノミクスの勘違い」という記事の中で、消費増税を実行したせいで、増税翌年から日本はデフレ不況に突入しそれが今も続いているという。増税を実施した1997年度においては消費税収が約4兆円増えたが、2年後の1999年度に、所得税法人税の合計額が6兆5千億もの減収となった。
 円高の結果、製造業はさらに打撃を受け、若者の雇用は減少することが考えられる。工程分業もあって途上国との雇用の争奪は厳しさを益すことになるだろう。そして我らが年金財政はそれらの若者が支える世代間搾取の制度となり、長期に国力を失っていくのではないだろうか。
 普通の企業人と比較しても、ものごとの全体像と大小、後先の判断ができず、周りも見えておらず、外交にも失敗が多い政権に何を期待することができるのだろう。野党は総選挙の論点を増税反対ではなく、「円高デフレの克服と新しい日本のかたち」とするよう知略を尽くすべきと考える。
3.反日宣伝の奇異
 つい最近、中国では南京大虐殺の映画がヒットし、それを見たチベット族の人民軍所属の人気歌手が「日本人許すまじ」という反日コメントを書き込んだツイッターが話題になった。南京陥落は74年前の歴史的事実だが、その映画は事実に基づいたドキュメンタリーではない。ここ数か月、チベット族の僧侶が毎週のように、中国政府に抗議して焼身自殺している現実はどうやら人民軍の中では報道されていないらしい。
 韓国の日本大使館に火炎瓶を投げ込んだ犯人の中国人の祖母は、慰安婦で祖父は韓国での抗日活動に従事し日本軍に拷問され死んだという。日本人女性がこの犯人を日本から韓国に連れてきたとされ、火炎瓶を投げ込む前に、靖国神社放火の犯人は自分であることを韓国メディアに明らかにしていた。祖父母のことは少なくとも66年以上前のことなので、本人の供述以外に確認するすべがない。しかし中国人漁民が韓国領海内での不法操業をして逮捕され、韓国海上保安官を殺傷したことが両国の問題となっていた。大衆レベルで悪化していた中韓関係は運よく改善し中和され、北朝鮮への対応を話し合う中韓首脳会談が開かれた。
 反撃しない日本は、格好のターゲットだ。ただ嘘で固めていくうちに本当のことだと思い込み、それを根拠に攻撃に出てくる変な人がでてくるので始末が悪い。
 もっとも大阪の教職員組合の先生のように、「君が代」を聴いて起立するだけで心臓がバクバクし、中国大陸に侵攻した日本軍の一員として中国人捕虜を銃剣で突くように命じる自分の姿が瞼に浮ぶとまで告白する先生までいるので、中国や韓国の人を一方的に非難してはいけないことがわかる。「君が代」を聴くとストレスで動脈が何か所も切れる先生までいるという。橋下徹市長でなくとも、そうした病気の先生は、治療に専念し、教育を担当すべきではないと考える。
 こうした様々な問題の淵源をたどってみると、対外関係のほとんどの問題は、敗戦前ではなくて1945年から1952年の間の占領下の日本での米国の施策に行きつく。日本が1952年4月28日にサンフランシスコ条約によって独立してから、今年で60年となる。