幸せのドラゴン 亡国の途上で

 11月20日までの数日間ブータン国王陛下夫妻が国賓として来日された。国会での演説、福島での祈り、子供たちへのドラゴンの話など、そのお言葉とお人柄に、全ての日本国民が魅了され励まされた。お二人の姿と天皇皇后両陛下のお姿が二重写しのように感じられた。
 一方、欧州の金融危機は全面的に広がり悪化しているかに見える。アジアでも大きな動きがあった。TPPが関心の的となったハワイでのAPECの後、1週間後に米国とロシアが参加して初めての東アジアサミットがバリ島で開かれた。中国の強引な海洋権益拡大を牽制し、南シナ海の海洋安全保障に重点を置いた宣言を採択した。米国外交の動きは目覚ましかった。サミットの前に、オーストラリアに海兵隊が常駐する協定が結ばれ、インドネシアへの戦闘機供与が合意され、国務長官ミャンマーを12月に訪問することとなった。海洋安保問題では、東南アジア諸国の大半は米国に同調し、中国は守勢に回った。
 オーストラリア北部のダーウィン近くにある豪州の基地への常駐は、米国にとっては、中国の弾道ミサイルからの距離があること、マラッカ海峡、スンダ海峡などの航路収束点に近いこと、広い軍事演習場をアジアで確保できることなどの利点があると考えられ、トランスフォーメーションといわれる米軍再編の中で数年前から検討されてきた。オーストラリア側に立ってみると、今後しばらくは自国の軍隊の増強などによって安全保障が守られるにしても、中国の資源外交や軍事的進出を考えれば長期的には米国との連携を深くすべきとの判断だという。いわば10年20年先をにらんだ展開といえる。
 ミャンマーは、独立の英雄アウンサン将軍の娘のアウンサンスーチー女史が軟禁されてから欧米の経済制裁がなされ、それに日本も同調した。その結果中国が進出してきた。その真実は、マスコミの一般的な報道とは異なり、高山正之氏の「変見自在」や西村真悟先生のブログに詳しい。元々は仏教国であり親日的な国だ。アウンサン将軍を海南島で訓練したのは日本軍だという。2010年にはベンガル湾に面するシットウェ港から、中国の雲南省貴州省広西チワン族自治区の貴港へのパイプラインが着工された。また将来的に中国は自国の国境からマンダレーまで高速道路を敷いて、マンダレーからはイラワジ河に船を浮かべ、インド洋に直結するという構想で動いていたと考えられる。ここ10年、マンダレーにおける中国人の移住と土地家屋の買い占めが激化しその無法を取り締まると中国の軍隊がやってきたという。日本国内における外国人地方参政権、大型の領事館の設置などの10年後の日本の問題がここにある。
 今年になってミャンマーは、3月には民政に移管し、中国が進める巨大な水力発電用のダムの建設中止を表明した。中国の次期指導者である習近平氏がこの問題を担当し圧力をかけているというが、ミャンマーの中国離れは否めない。10月にはインドを訪れてインフラ整備の援助を獲得した。ミャンマーは2014年のASEAN議長となることが決まっている。今は貧しい国だが、もともと資源とエネルギーが豊富な国であり、バングラデシュの東にある。ただ既にインド洋に浮かぶアンダマン諸島の北側にあるミャンマー領のココ諸島には中国軍のレーダー基地がおかれているという。
 日本の新聞は、普天間基地の問題や南シナ海の航行の自由の問題ばかり論じているが、本当の問題は、先ず第一に、中国側の、アフリカからイラン、パキスタン、インド洋を経て南シナ海東シナ海に至る「真珠の首飾り」戦略と弾道ミサイルにどう対応するかという問題である。中国が中東から48%アフリカから30%の原油を輸入している国であるという単純な事実に改めて気付く。中国には膨大な人口とレアアース、そして軍事力以外の資源はあまりないのではないか。しかもその資源があるのは内モンゴルチベット、ウィグルそして東北3省である。そして東シナ海であり南シナ海である。また北朝鮮や今はロシアに属するシベリアである。だから領土問題については確信犯だ。
 第二には、米国の軍事費削減に日本自身がどう対応するかという問題である。仮に、北朝鮮の問題が片付けば、米軍は更に退いていくこととなるだろう。そして日本は中国の軍事的圧力と直接対峙することとなる。10年20年とは言わず、半年後の選挙のことしか考えず、緊急時でもないのに除染と称する屋根掃除、土削りに精鋭部隊を出動させる防衛大臣の罪は大きい。
 一部で報じられているように、米国が北朝鮮のことは中国に任せたということであるならば、存外日本が様々な準備する時間は少ないのではないか。しかも韓国では2012年4月の総選挙と12月の大統領選の前哨戦とされるソウル市長選では左派が勝った。FTA締結に際し韓国は最大のパートナーと持ち上げたオバマ氏自体も2012年は選挙の年となる。仮にいったん事あるときに北の大量破壊兵器の無力化に対応しなければならない沖縄の海兵隊は、韓国や中国の同意を得つつ、どう動くべきなのか、動けるのかは、事前に予測することが実に難しい政治的問題である。そうしたことを踏まえながら日本の自衛隊はどのように邦人救出に向かうのだろうか。まだ法改正ができていないのではないか。また朝鮮半島からの避難民にどう対応するのだろうか。日本に対して愛憎半ばする韓国への対応は厄介である。誤解や理不尽さに対してはきちんと反論しなければ、それが新たな不幸を生む。
 近場で困ったことは、この12月13日に野田首相の中国訪問が決まったことである。1937年の南京陥落の日である。この一事を以て外務大臣・次官の更迭、不信任に値する。日本は、この訪問前に、河野談話を否定し、南京事件がフレームアップであることを明確にしなければならない。中国は中断していた東シナ海のガス田への出資交渉を再開することも考えるとエサをだしてきた。いつもの手である。元々、日中中間線上のガス田開発を国際問題化しないための出資であり共同開発である。尖閣の漁船体当たり事件で中断した交渉なのでこちらから譲歩する話ではない。中国は、ハワイでの外交的敗北と国内における経済不振とバブル崩壊に伴う傷みを責任転嫁するための契機としたいのだろう。この愚かな訪問が実現すれば国内の政局は本格化せざるを得ないだろう。
 第3次補正予算が成立した。国際基準で考えれば350兆円の負債しかなく、安全通貨としての評価が高く、外国から資金流入により円高で困っている国が、この金額の増税にこだわる必要はない。25年間の所得税増税は、実質的な恒久増税に他ならない。しかし今もって納得できないのは、野田首相G20のサミットで消費税の引上げを公約したのかという点である。消費税の引き上げは国内問題だからである。「どこの国の総理大臣なのか」といった社民党党首の言葉に初めて共感した。20日の新聞で、かつて行政改革や政府税調を指揮された加藤寛先生が「増税にばかりこだわることこそ明らかに亡国への道」と評価されているのが気にかかる。
 あまり大きな問題となってないが15日の国会答弁で財務大臣は「日銀は、物価の安定と自国通貨の価値を高くすることを放棄できない」と述べたようだ。他の先進国の物価が上昇をしているならば、我が日本も同じだけの物価上昇をしないのは不思議である。通貨の供給量にだいぶ差があるようだ。通貨の供給量を増やしたら、税収も上がってしまうので、増税できないというこだわりがあるのかもしれない。為替レートは、小泉政権116円、安倍政権119円、福田政権108円、麻生政権97円、鳩山内閣91円、菅内閣83円、野田内閣77円。「国難だ」と騒いでいるうちに本当の国難が来て、円が上がり、雇用は減り、税金は上がっていく。断固たる決意で為替介入し12兆円かけて為替業者を儲けさせ、12兆円の増税にこだわるのは、やっぱり変だ。
 タツノオトシゴは古来、日本では「安産のお守り」として珍重された。中国では大型のタツノオトシゴ漢方薬として珍重されたが、現在は乱獲によってレッドリスト入りしているという。心の中に幸せのドラゴンを育てたい。