大阪秋の陣と地方制度改革の次の一手

 大阪では府知事と市長のダブル選挙が次の日曜日に迫っている。遠く離れた地域に住む非関西人の者にとっては勝敗は全くわからないが、今回の選挙は地方自治制度自体の在り方を争点の一つにした珍しい選挙ということになる。その結果はいずれにせよ、大阪にとどまらず、道州制などの地方制度改革の進展に大きく影響すると考える。
 何年か前に慶応大学の上山信一教授が道州制についての考え方を発表され、個人的にはそれに感銘を受けている。それは道州制を最も切実に必要とする地域は関西であり、関西はEU統合をモデルとして道州制の導入すべきだという意見である。関西は豊かな資産、文化、人材を抱えながら残念ながら衰退している。大阪・京都・神戸などは独自の歴史と文化もあり、自己主張も強い。政令市と府県の仲は、どこもあまり良くなくて無駄も多い。関西の多様性を活かしながら大きく考えれば、観光や大学、企業の誘致などで協力すればもっと地域が発展するのではないかという考え方だ。そのためにはEU統合のを見習うべきだとの意見である。経済の中心地・大阪はドイツ。(そう考えれば、東大阪の工場がドイツの中小企業と重なってくる。)文化の町・京都はフランス。あか抜けた海洋都市・神戸はイギリス。和歌山はイベリア半島(スペイン)。三重はイタリアで伊勢はバチカン。商才に長けた滋賀(近江)はベルギー、海のない奈良はスイスだ。そして勤勉で女性の社会参加が進む福井はスカンジナビアだ考えると、関西は実にEUに似ている。
 そう考えると、次の展望まで見えてくるという点で、この発想には脱帽せざるを得ない。今回の大阪の選挙は東西ドイツの統一を意味し、次は独仏の連携、大阪・京都の融和が課題となるのではないか。道州制の州都選定は対立の火種となるが、3都以外に置くと決めればよい。例えば大津ではどうかというのである。そして道州政府の具体的なイメージと政策を作ればよいと主張されていた。
 新しい地方制度は、地域の人々の悩みや希望に根ざしたものであるべきだという上山先生の考え方には共感できる。ただこうした地域のイメージと実力をもちえるところは、そう多くはない。もしかしたら、九州や東北でも可能かもしれないが、関西とはだいぶ違った形となるのではないか。だから関西が最も道州制に向いているように思えてならない。
 それぞれの道州では、企業誘致や産業政策、観光、交通インフラ、環境や伝病対策などを考える。となると、もっと住民の身の回りの業務を担当する基礎的な自治体はどうするのかといった議論も必要になってくる。
 市町村合併が進んだものの、政令市と府県の問題は全国にある。その2重行政の問題、更には国の出先と合わせた3重行政の無駄を省くことは大きな行政改革の問題となりつつある。衆議員議員の小選挙区300という制度が造られたのは、江戸時代の幕藩体制が300余藩といわれていたことも影響しているかも知れない。基準財政需要額が人口30-40万人を底としてそれより多くても少なくても増大すること、人口30万人以上でないと専業政治家が成立しにくいこと、人口50万人を超えると市民からの投書に自分で目を通せなくなるなどの市長経験者の意見がある。そうしたことから個人的には二次救急圏をベースにして全国を350-400前後に分けたカウンティという統計単位を置いた「カウンティ行政統計法」の制度化が、次の行政改革の基盤となると考えている。 
 そのポイントは、市町村は実際に合併してもしなくても、政令市は実際に分割してもしなくても構わないという考え方にある。基本的に行政計画や統計は全てこのカウンティ単位に公表されるという考え方である。カウンティの中は一つの街であっても良いし広域行政連合であっても良い。国も、都道府県も、市町村も全ての官公庁は、必ずカウンティごとに行政計画や統計を立案公表しなければならないという決まりだけを決めるのである。多くのことがカウンティ単位にも考えられることによって、相互の比較が可能となり、議論が可能になり、結果として全体の行政効率を上げることが期待されるのではないだろうか。実際大きな政令市では、市の中に計画単位を幾つか設けて現実の行政を進めている。基礎的自治体にとって住民自治は大切ではあるが、他の基礎的な自治体と様々な統計指標を比較して効率を上げることも必要である。そのことによって、広域自治体を作る必要も明確になり、カウンティ毎に、どこの道州に入っていくかという選択も可能となるからである。そしてできるところから、住民の意思に従って、五月雨式に地域の悩みと希望を担った行政単位を実現することが可能になると思う。経済圏として考えれば隣の県のカウンティと連携したいカウンティもあれば、独自の道を進みたいカウンティもあるはずである。それが私の考える、制度改革の次の一手である。