南スーダンPKOと自衛隊

 政府が南スーダンPKOに派遣することに決めてから、現地で空爆のニュースがあった。その少し前の発表では、陸上自衛隊の中央即応連隊で構成された第1陣約200人を2012年1月以降にジュバに派遣し、宿営地や活動拠点を作り、その後、施設部隊を中心とした本隊約300人を派遣し、ナイル川沿いの港整備や道路敷設にあたる予定だとしていた。
 政府は3回の調査団を出したが野党にも結果を教えていないので、どういう状況なのかはっきりしない。ただ日本発祥のNGOピースウィンズ・ジャパンの人たちが首都ジュバなど3ヶ所に拠点を持ち南スーダンで活動しているのが何とも心強い。彼らのWEBによれば首都のジュバは現在建設ラッシュにあり、空港ビルは拡張中とのこと。また南スーダンの問題は、1.国土の広さ(日本の約6倍)、2.雨期の長さ、3.インフラの乏しさだというのが援助に関係する人たちの一致した見解らしい。舗装された道路があるのは首都ジュバだけで、雨が続くと車で移動できなくなるという。とはいえ、西部には紛争地ダルフールがあり、北には南北スーダンの国境がある。
 11月10日に北のスーダン軍の空爆で、南スーダンの難民キャンプが爆撃され多数の死傷者を出た。7月に分離したばかりとはいえ他国を爆撃したことになる。日本政府は国境から離れている首都のジュバ周辺での工事作業を担当するので安全だというが、本当にそうなのか。本当に安全なところばかりならば、普通の建設会社でも良いはずだ。一般論としてのPKOに反対ではないが、最低でも世界標準の交戦規定を付与し、できれば充分な武装をもった部隊を派遣すべきと思えてならない。国内には武装勢力が存在し、北の軍隊は中国製の99式戦車とミグ29の飛行部隊を持った正規軍であり、ゲリラではないからである。あのダルフールの紛争を思えば、場合によっては自衛隊が自らと国連軍を守るために現地で戦闘行為をし、敵味方に死傷者が出るといった事態も起こりうる懸念なしとは考えられない。
 国境地帯は、北に編入された南コルドファン州と青ナイル州、南に編入されたユニティ州と上ナイル州、まだ帰属の決まってないアビエイ地区に分かれる。これらの地区に油田がまたがっていて、その75%が南に帰属するという。今回の空爆では北から南に逃げてきた人々の難民キャンプが空爆された。その理由は北に属する地域で南部系の民兵がその地域の北への帰属に反対し武装闘争をしていること、北から南スーダンに逃げ込んだ難民のキャンプがこの民兵の母体になっているからだという。つまり、未だ土地と人の線引き区分ができておらず、石油という財産の分与に納得していない状態が続いている。だからこそPKOが必要で、自衛隊が派遣されることになった。航空機が出てくればあまり距離は関係ないのではないか。きちんとした武装こそが抑止力となるはずだ。
 南スーダンは山と白ナイルの湿地に囲まれた内陸国であり、隣国との間に1年中使える道路がほとんどないと言われている。北のスーダンを通れないとすると、現地への輸送ルートは、ケニア港湾都市モンバサからは、陸路で2000キロ(青森ー博多と同じ)、直線距離で1300キロだという。南スーダンの首都のジュバ空港は大型輸送機は使用できないようだ。ケニアのナイロビ空港(直線距離900キロ)や南側の隣国ウガンダの首都カンパラ郊外にあるエンテベ空港(直線距離500キロ)から、ジュバ空港へはエムブラエルなどを使った定期便が飛んでいる。海上自衛隊ジブチ航空拠点があるとはいえ、ジュバまでは直線距離で1400キロ前後ある。全ての装備を空輸できないとすると海路との併用となるのかもしれない。
 自衛隊はもともと海外遠征を前提に装備を考えていないため、船も飛行機も足りないはずだ。民主党になって、自衛隊を今まで以上に通常の国土防衛業務以外の仕事に使うようになったと思う。そのことに異論はないが、装備と人員の手当てが必要だと考える。
 装備と人員を現地に運ぶのも大変だが、緊急時の南スーダンの離脱方法を事前に検討しておく必要がある。PKOに限らず、軍事作戦は撤退するときが難しい。PKOという前提で考えれば、いつでも緊急離脱できる体制が必要となる。ヘリコプターと航空機はどこに何機おいて後方支援にあたるのだろうか。東日本大震災の後の作業進捗をみると、自衛隊の能力と行動には100%の信頼がおけるものの、大臣や政治家の計画能力や判断・覚悟は今一つあてにならず、事前に確認したくなるのは人情だ。
 政府は、福島原発の半径20キロ圏内の除染作業に、自衛隊を出動させることを決めたという。これには全く納得がいかない。これから長い作業になるので、除染作業する人を教育するためにというならわかるが、緊急事態でもないのに何故、自衛隊に頼むのか全く納得できないのである。土を削ったり、屋根の掃除をする位ならそのくらいはできそうな年寄りは日本中に余っている。精鋭部隊がやる仕事だとはとても思えない。昔、社会や政治の矛盾を批判した後で「責任者出てこーい!」で終わる漫才があった。