馬鹿は死ななきゃなおらない  

 「馬鹿は死ななきゃなおらない」という迷文句は、講談の三代目神田伯山が、楽屋で若い者を叱った時に「てめえみていな馬鹿は死ななきゃ駄目だ」と言っていたのを、浪花節広沢虎造が「次郎長伝 森の石松」の中で節をつけて唄ったのが始まりという。
 そんな一節が聴きたくなるような国会のTPP集中審議だった。首相周辺は、「計算通りだ。まず、離党までチラつかせた党内慎重派に配慮した。党のプロジェクトチームが慎重な判断をと促した翌日に参加を表明したら火に油を注ぐ。だから冷却期間を置いて11日の衆参両院での集中審議に臨み、各党の意見を聞いて判断したという姿勢を示しながら、交渉に参加にむけて(するために)協議すると首相が決断した」という。
 「消防署の方から来ました」というような迷文句である。与党の反主流派は「参加表明はくい止められた」といい、感覚派の議員は「国会軽視、どこの国の総理大臣だ」といい、理論派は「原則10年間で関税を全廃すること、条約が国内法に優越すること、参加は早くても半年後のこと、投資家保護条項の内容などを全く知らないで・・・」という。
 眼を外に向ければ、世界ではリーマンショック以上の「危機の連鎖」が始まりつつある。中国ではバブルの崩壊が始まった。統計が信用ならない国なので定かではないが、経済が良いわけがない。輸出先の欧州、米国が不振で、日本の企業も賃金高騰に嫌気をさして、製造委託先をバングラデシュベトナムに変更し始めている。不景気なので、公共投資を大幅に増やしたところにあの列車事故がおきた。なにより大気や河川の汚染がひどい。軍部は自分の論理で拡大していく可能性もある。
 欧州ではイタリアがIMFの監視下に入った。次はイタリアに32兆円のお金を貸しているフランスがおかしくなってくる。欧州の銀行がおかしくなると、韓国、中国、シンガポール、香港がそこからお金を借りているためにおかしくなる。いわゆる貸しはがしが起こる。特に韓国、中国はイタリアへの輸出が大きい。加えて韓国では左派が再び勢いを盛り返しつつある。
 世界経済が悪化すれば、もちろん日本は無傷ではすまない。TPPや増税が現在すべき議論の中心であるとは思えない。デフレの克服と大型の景気対策が必要となる。計画能力がなく優先順位が付けられない政権では、国民の潜在能力が活かされず、国がもたないことが明確になりつつある。
 米国では長期的な財政難の中で軍事費をどう削減するかの議論が始まっている。中国の海洋進出に対抗するため、陸軍と海兵隊を削減し、海空軍を強化するとの考えだ。力の均衡は海空を中心に行われざるを得ない。10年1日の思考が停止した国にばかりかかわってはいられないと思われても不思議ではない。経済だけでなく、外圧とは無関係に、日本の安全保障をどうするのかの議論が必要だが、まだその兆しが見えない。自戒を込めて広沢虎造を聴く。