アフリカ経済の離陸と中国

1.南スーダンPKO
 南スーダンは今年1月の国民投票スーダンから独立することが決まり、7月9日に人口830万人のアフリカでは54番目の国になった。国民の大半が一日一ドル以下で暮らす世界で最も貧しい国の一つだが、分離前のスーダン原油の内の3/4は南スーダンにある。北のスーダンの経済も、原油精製プラントと輸出積出に依存し南部独立で政府収入の1/3を失うとの試算がなされている。北はアラブ系で軍事力で南を威嚇し、南は同じキリスト教系の周辺国と連携し、北の強硬策をけん制している。産油地域でもあるアビエイ地区の帰属問題はまだ決まらず、南の内部における部族間対立の懸念もあるという。国連の安保理は、独立に伴ってインフラ整備要員や警察官など8000名のPKO部隊を派遣することを決めていた。日本は、ハイチ地震で派遣されていた施設部隊が来年2月に任務を終わることもあり、施設部隊の派遣を求められていた。当面、南スーダンには施設部隊の派遣準備のため司令部要員2名を送り調整を行いつつ、4-9月の雨期が明ける来秋300名の陸上自衛隊の施設部隊の派遣するようだ。重機や物資の多くは、海路でケニアのモンバサ港から陸路2000キロにある南の首都ジュバに運ぶことになりそうだが、航空自衛隊による輸送も検討しているという。エチオピアを挟んだ紅海の出入り口であるアデン湾に臨むジブチには、米軍、フランス軍と並んで自衛隊の東アフリカ・ソマリア沖の海賊対策のためのP3C哨戒機の整備拠点が本年開設され、港を拠点とする2隻の護衛艦と合わせて500名の隊員が派遣されている。
2.アフリカの経済社会のイメージ
 国連PKO参加は何らかの経済的見返りを求めて行うものではないが、国民の間で、このことが、どう国益と関連するのかについて明確な認識が必要だと考えられる。分離前のスーダンの石油埋蔵量は約60億バレルあり、その輸出先は中国65%、インドネシア15%、3位は日本12%となっていたので、全く無関係とは言えないが、むしろ注目すべきはアフリカの経済社会が大きく変わりつつあることかもしれない。
 アフリカの歴史は、日本では欧米植民地から始まるかのように教えられるが、最古の人類が住んでいた地域であり、古い歴史がある。たとえばスーダンから東アフリカの地域では、植民地となる遥か以前から、エジプトやエチオピアとの交流、海洋王国としてのアラブの進出があり、さらにはインド商人の進出などがあった。たしかに1960年代の植民地からの独立から今日までは、経済的貧困、慢性的食糧不足、エイズ感染者の増大、紛争と虐殺、独裁政権、難民問題などのイメージだけだったが、この10年、資源価格の高騰と中国の進出によって大きな変化が訪れていることに注目しなければならない。
3.中国のアフリカ進出
 中国の労働力コスト上昇によって今後3〜5年で、中国から8千万人分以上の雇用が海外に流出すると考えられるが、その受け皿をベトナムバングラデシュとみるのは一面的かもしれない。世界銀行のなかには、アフリカがその主な受け皿になるとみている人もいる。中国によるアフリカの大型水力発電所や鉄道などへのインフラ基盤投資40億ドルの効果を考えた予測なのだろう。またその投資額の70%以上がスーダン、ナイジェリア、アンゴラコンゴエチオピアなどの「アフリカの中央部を東西に横断する諸国」に集中している。その他の投資先もリビアや、南アフリカなどの資源国だった。中国の経済がアフリカの豊富な天然資源を必要とし、アフリカの経済発展に必要不可欠なインフラを建設することで、両経済に密接な繋がりと補完関係ができている。今年2月にも、ジンバブエとの間に経済技術協力協定が締結された。ジンバブエはプラチナ埋蔵量で世界2位で、金や銅などの金属資源も豊富であり、メタンガスや石炭、豊富な水資源など、未開発の天然資源もある。
 この10年間にアフリカに来た中国人の数は、過去400年間に来たヨーロッパ人の数よりも多いという人もいる。既に貿易総額は1200億ドルに達し、中国はアメリカを超えてアフリカ最大の貿易相手国となった。中国との貿易によって新しい学校、道路、病院、ダムが建設され、アフリカ経済の成長もある程度は刺激された。
 同時に中国の進出はアフリカの庶民にほとんど利益を与えないとの批判もある。中国はアフリカでの権益確保に2000年前後からかなり積極的な動きだした。今では、旧宗主国以上の発言力を持っているのではないだろうか。中国は独裁体制だろうと気にせず、内政不干渉を大義名分に進出し、民兵組織を伴った、ある意味では完結した集団として進出してくる。建設作業員は中国から連れてくる。クリーニング店や食堂にも中国の人たちが出稼ぎにくる。地元には何もお金が落とさず、援助をしたお金で中国人が働き、街の商店から診療所にいたるまで中国一色のチャイナタウンが出来上がる。そしてアフリカの中国人労働者が中国に仕送りする。中国はお金を援助し、代わりに石油の利権を獲得する。武器の売却にも積極的だ。30万人がなくなったダルフール紛争の兵器も中国製だったという。中国は、独立後の南スーダンにも高官を派遣し、北との仲介役を申し出るとともに、石油資源の権益を確保を考えているようだ。中国の石油輸入元の1/3はアフリカからであり、その主な国は、アンゴラコンゴと南北に分離される前のスーダンだった。火力発電用として硫黄分が少ないスーダンのナイル原油には日本も興味があるはずだ。また南スーダンの南側にはウガンダケニアがあるが、インド洋に臨むケニアの港から原油を積出すための新パイプラインを引くプロジェクトが検討されている。近くにある内陸国ウガンダでも06年に埋蔵量25億バレルという油田が発見され、日本や中国、ウガンダの米国系の企業が事業参加に意欲的だという。
 もう一つ気になったことがある。ソマリアエチオピア、ケニヤなどアフリカ大陸北東部の国では、過去60年間で最悪の干ばつに見舞われ、少なくとも1200万人が飢餓の危険に晒されている。ドイツのアナリストが、この被害は中国企業による大規模な土地買収にも起因していると指摘し、中国当局は反発している。しかし07年から、中国が食糧安全保障の確保に向けて、中国国内の企業にアフリカ、中央アジア、東南アジア、ロシア、南アメリカなどの土地の買収・賃借を奨励していることは中国の新聞等で確認されている。ちょうど日本の農地、森林が買収されだした時期とも符合している。海外の農地での主要な作物は、大豆など食用油が製造できる穀物が多い。中国は世界最大の大豆の輸入国であり、中国水利電力対外会社はジンバブエで10万ヘクタールの農地を賃借し、農産物はすべて中国に輸出している。スーダンなどからも200万ヘクタールの農地を借り上げ、アフリカでの農地確保を着々と進めているようだ。中国は数年前から、2013-2015年に、食料が不足することを予測し動いているようだ。英国の調査機関によると、09年までに既にアフリカ全体に100万人の中国農民が移住しているという。
4.アフリカ経済の離陸
 アフリカには、現在、利益に敏感なプライベート・エクイティ・ファンドも集まり始めているようだ。日本ではインドが投資先として注目され始めているが、アフリカは一人当たり所得で見ればインドより豊かであり、インド企業は、中国企業と競ってアフリカに進出している。最近は「21世紀はアフリカの世紀」と考える人もいる。中国にとっては、新植民地主義という批判を浴びても、欧米や日本が、人権や独裁主義で躊躇している間に、先進国の製品と競争のないアフリカという巨大市場を移民政策も含めた形で抑える狙いがあるようだ。アフリカは、人口約10億人。中国は、人口約13億人。合わせると世界人口の約1/3を占める巨大市場となる。経済の成長性だけを考えれば、欧米や日本の市場はその他市場と考え、東欧、アフリカ、中東、インド、中央アジア、 東南アジア、中国、中南米を主たる市場と考える見方も成り立つのかもしれない。