日本海の冷戦の始まり 

18日より女子サッカーのワールドカップの奇跡的な優勝に日本中が大騒ぎだった。テレビで見ていて延長戦で同点に追いつくまでは、米国に勝てなくとも仕方がないと何度も考えた。体格、実力、実績とも明らかに米国が上だった。しかし勝負はそれだけではなかった。我が身を挺して追加点を阻んだディフェンダーがいた。PK戦では失うものがない日本が心理的に有利になったし、GKのスーパープレイも出た。あきらめない強さと、チームへの献身、凛とした勇敢さ、「困ったときは私の背中を見ろ」という主将の指導力に、多くの日本人が感動した。次の日の報道で、今度は米国チームの主力選手の言葉にしびれた。はるか昔の中学生のころ、市内に住んでいた米国出身の老婦人から英語の個人教授を受けていた。英語は、ほとんど忘れてしまったけれど、「負けっぷりの良さが大事 Be a good loser」と習ったことを今も覚えている。本心では悔しいと考えているに違いない。それでもなお勝者を讃える度量と言葉に魅了された。
 一方で、日本の政治は首相の権力への執着ばかりが際立ち、国全体の閉塞感が日に日に深まっている。首相がエネルギー政策について会見を開いても、そのいい加減さと無定見さに、閣内、与党も含めて多くの人が付き合いきれなくなっている。放射能汚染をした稲わらを食べた和牛の頭数は日を追って拡大している。想定外の事態というよりも統治能力の欠如といった表現がふさわしい。総選挙に備えて、自民党は基本政策の整理を始めた。慎重でバランス感覚に富む経済団体のトップ達も、それとは無関係に、電力不足による製造業の海外移転に心配し、このままいくと日本経済がおかしくなると口々に言い出した。そのこと自体、前代未聞のことだ。ヨーロッパの信用危機、米国の債務問題もあって、日本の円は比較の上で安全通貨だ考えられて1ドル80円を割った。個人的には、本気で取り組めば1ドル50円となっても負けない強さが日本にはあると信じるが、ビジョンを欠いた政治のもとで潜在能力を発揮できずにこのまま沈没しかねない。日本にとってはドル安よりもそれに連動する元やウォンの動きの影響が大きい。
 極東アジアの外交・安全保障環境が大きく動きはじめた。今回は日本海周辺の冷戦の動きをまとめたい。ロシアが2013年からヘリコプター空母を極東に配備すること決めたという。伝統的にはロシアの極東海軍は仮想敵国を日本、陸軍は中国を仮想敵国としていたが、今回は中国・北朝鮮の関係強化に伴う動きと考えられる。中国は北朝鮮との連携を強め、ウラジオストクから200キロほどの至近距離にある北朝鮮の羅先地区の港、羅津の利用を開始した。元々1990年前後に国連開発計画が300億ドルかけて豆満江デルタの周辺をシンガポールロッテルダムのような北東アジアの玄関となる国際貿易地帯として開発するという構想をまとめていた。その計画ではロシアもモンゴルも開発に加わるはずだった。紆余曲折を経て、2010年12月より、中国はこの地に物流ターミナルを作り利用を開始した。中国から見れば、中国東北部の資源を上海に船で運ぶことによって大幅に運賃を引下げる実利がある。またもし北が同意するならば北の安価な労働力も期待できる。ソウルの聯合ニュースによれば、2010年3月に第1埠頭を中国に10年間賃貸する契約を結び、同じころロシアとも第3埠頭の50年間賃貸契約を結んだとされている。第二埠頭はスイスの企業と契約し、黄金坪島経済特区にはヨーロッパ企業が多数進出を予定していると北は思わせたいようだ。しかし中国企業以外にはあまり実利がないと考えられる。
 貿易ルートは軍が守るというのが中国の考え方だとすれば、そこに中国海軍の4つ目の拠点を置いて日本海に進出するという考えがあってもおかしくはない。その羅先の港の前には、伝統的にロシアが聖域としてきた日本海盆という深い海が広がる。ロシアが戦略原子力潜水艦を配置してきた海である。この地域の警戒を強めるためのヘリコプター空母の配置と考えられる。ロシアが心配するのは、極東地方にはほとんどロシア人が住んでおらず、既にかなり多くの中国人が進出していることである。今年になって、中国人民解放軍が羅先に進駐していることが報道されたが、3日後には公式には否定された。そして日本海の南側には日本側のゲートとなる新潟があり、中国は巨大な領事館を作ろうと働きかけている。昨年来、ロシアが北方領土問題で日本を刺激しているのは、日本にまたお金を出させて中国だけに依存せずにシベリアの資源を開発したいとのラブコールだとも考えられる。危なくない稀有な隣国だからである。
 韓国の国防大臣によれば、北朝鮮内部は尋常ならざる事態が生じているという。中国でさえ食料不足が報じられているので、北朝鮮の食糧事情はそれ以上に悪化しているという。既に地方の軍隊には食料が配給できず、軍閥化が進んでいるとみる専門家もいる。食料配給が保障されている平壌地域の面積は既に縮減されているという。北朝鮮の主席が半年に3回も中国を訪問したこと自体かなり異様な状況だ。ロシア首脳とも面談しようとしていたがキャンセルされた。国際戦略研究所の分析によれば、①北は核兵器を製造するのに十分なプルトニウムを確保し、その量は、およそ4〜12個の核兵器を製造できる量だと見込まれている。②北は信頼できる発射が可能な核兵器の開発を完了したとは断定し難いが、再突入技術を備えた弾道ミサイルに装着するための弾頭を開発することが予想される。③北はしばしば、国の防衛のために核兵器を使用するという発言をし、ミサイルの開発を外交カードとして使ってきた。④世界有数規模のミサイル工場でミサイルをつくり各国に輸出している。しかしそのパーツは輸入であり、それを断つことが重要だ。また一見、金正日総書記から正恩氏への権力継承がスムーズに進んでいるように見えるが、正恩氏は経験不足、ぜい弱な権力基盤、軍部の干渉など大きな弱点を抱え、軍事的挑発や大量破壊兵器に依存するなど、さらに危険な国になる可能性がある。北朝鮮が韓国を侵略する可能性は今や低くなっているが、韓国に危害を加え、テロを敢行するさまざまな手段をもっているという。そしてそれは日本にも向けられている。「平時」から常に自衛隊が海保、警察を支援できる法体系と武器使用基準も定め、海上警備行動、治安・防衛出動に至るまで自衛隊が間断なく対処できる法的枠組みの整備が早急に必要だと考えられる。
 日韓関係も民主党が政権について以来かなり変だ。韓国の政治家が、在日韓国人地方参政権を要求し、それを日本の与党首脳が是とすることからそれが始まっているというのが自分の見方だ。韓国系の人たちは韓国の国政選挙に投票権があり、その票の圧力で韓国政治家が日本に外交圧力をかけてくるという奇妙な構図ができている。一方で竹島ヘリポートは拡張され、新型航空機のテストフライトでわざわざ竹島上空が目的地に選ばれた。いかにマスコミに韓流ブームがあったとしても、竹島は韓国に武力占領された領土であり、日本の外務省は、やむを得ず、大韓航空機の利用を少しの間、外務省関係者に禁止したが、それについても韓国は反発した。ついこの間までは、対馬は韓国の領土だ言い張る韓国人が対馬の人々を不安にしていた。この夏、韓半島の東130キロにある鬱陵島の独島博物館に日本の国会議員が視察に行く計画が発表されただけで、なぜか騒ぎが起きている。よほど見られたら困るものがあるらしい。
 外国人地方参政権問題については、憲法上禁止されていること、行政組織と権限が国と地方で明確に区分されてないこと、戦前から日本に居住する在日の人だけでなく、その付与の範囲が韓国と比してもかなり大きいこと、スパイ防止法もなく、インテリジェンス機関の整備が不十分なことが問題点として指摘されている。また、北京オリンピックの際の聖火リレーの際に長野で国家に動員された中国人留学生が異様な行動をとったことも、この法案に反対する人々の警戒心を煽っている。