民のカマドの再興

 政治的空白が続いている。6月末の改造で、復興担当相が指名され、自民党参議院議員政務官に一本釣りされた。現政権は退陣する気など毛頭なく、与野党対立をあおり8月に「脱原発」をテーマにした居直り解散をするとの見方が一気に広がった。被災地のことを思えば総選挙など、正気の沙汰ではない。復興担当大臣の県庁訪問の様子が放映されると、あまりにも話し方が横柄で尋常ではないため驚いた国民の批判により辞任した。「脱原発」といっても原子力発電所を直に全部止めたら経済はおかしくなる。経済産業大臣玄海原発をはじめとする原子力発電所の再稼働に向けて全力投球していたので「あれれ」と思っていたら、急遽、地震津波に対する安全総点検を新たにやることとなった。その措置自体は当然だが、この政権は、もともと経済や長期の計画のことなど考える器量も意思も能力もない。政策は思い付き行き当たりばったりだ。今回の騒動でも、地元と県、そして閣内に大きな不信感が生じた。どうやら首相自体が閣内、そして党内でも孤立しだした可能性がある。首相が延命しか考えていないと考えると彼の言動の多くが矛盾なく解釈できる。8月の広島、長崎の慰霊祭で涙ながらに演説して衆議院を解散するという戦略をベースに動き始めているのではないか。与党の幹部や閣僚の多くは、首相は一日も早く退陣すべきと考えており、「自らの延命こそが民主党の延命だ」と思い込む首相を理解する政治的な想像力持つ人はほとんどいない。こうした事態に対し、議会の慣例を飛び越えて、再び内閣不信任案が提出される可能性も出てきた。本来ならば民主党は速やかに後継総裁を選ぶ必要があるが、一人を除いて、大きく動ける幹部がいない。もうしばらくの間、国民は、暑さの中でこの馬鹿馬鹿しさに付き合わなければならない。
 経済の先行きには展望が開けないが、足元では、ここ数か月落ち込んだ分、回復が見込まれている。ただ長期的には、円高デフレに加えて電力供給不安で産業空洞化が一段と進む可能性が出てきた。日本の中小製造業の経営者が海外に進出するとき、必ず聞くのが電気料金の価格と安定性だと知っている政治家は少ないのかもしれない。
 復興構想会議は復興構想を示さず、増税構想のみを発表した。15兆円から20兆円といわれる東日本大震災の被害をどう復興するのかイメージが全くできていない。さらに原発事故の問題が加わる。今は東京電力に全ての責任を押し付けているが、事故が起こった日から指揮を執っているのは政府であり、そのことによる責任からは逃れられない。その上に、首相退陣の条件の一つが、コスト高な自然エネルギーの高額買取義務を電力会社に押し付け、最終的には国民負担のもとに業者を儲けさせるという制度の導入である。これは形を変えた増税である。全体としてのエネルギー政策はどうなるのだろう。更に多くの人の関心が原発にあるなか、B型肝炎の被害者賠償問題を決着させ、厚生労働大臣はその費用を賄うためには増税だという。更に社会保障と税制の一体改革の結論は、2010年代半ばまでに消費税率を10%まであげるという当たり前の結論となった。国際通貨基金IMF)も日本は増税すべきだと主張しているとマスコミに少し前に報道されたが、日本の財務省から出向している人が書いたのではないか。国民の可処分所得が減少し雇用不安がある中で、増税すればどうなるのか結論は明らかだ。驚いたことに、日本では主流派の経済学者も増税しか言わず、日銀の政策委員だという女性経済学者は教科書論を読み上げた。ギリシアへ行って日本との違いを基礎から勉強し直した方が良いのではないか。財務省に逆らったら自分たちの地位を守れないと考える人達の意見を聞いても仕方がない。最近は財務省の人も自分の地位を守るために増税を主張しているに過ぎないと思えてきた。財政金融を一体としてみることのできる経済全体を責任持って考えている人はもはや政府にはいないのかもしれない。他の国の政府がここ10年間何をやっているか、もう一度勉強し直したらどうだろう。「見てるだけ」で意見が言えない財務大臣経験者が総理候補となるようでは、日本は良くならないし、自殺も減らない。
 社会保障も聖域ではなく、「治療よりも予防」を心がければ、年間33兆円という医療費の削減も可能だとしたうえで、デフレからの脱却を経済金融政策の最重要課題にしなければならないと説く議員もいないわけではないが少数派だ。日本人の潜在能力を引き出す経済成長戦略、思い切った規制緩和、そして日銀の政策の大転換が不可欠である。そうした政策転換なしに民のカマドは再興はできない。イノベーションは技術革新と訳されることが多いが、技術や経済の分野に限る話ではないのではないか。生産要素を全く新たな組み合わせで結合し、新たなビジネスを創造するアントルプレナーが社会制度にも必要な気がする。シュンペーターイノベーションに5つの種類があると考えていた。
  1.新しい財貨の生産
  2.新しい生産方法の導入
  3.新しい販売先の開拓
  4.新しい仕入先の獲得
  5.新しい組織の実現(独占の形成やその打破)
 民のカマドを再興するには、日下公人先生が言われるように健康、学校、信仰、社交、そして国家安康(安全保障)といった分野で、新しい事業ややり方が創造されなければならない。被災地の復興にあたってもインフラを建設国債で作る方法もあるが、10年間の免税減税地域とし、民の力を使う方法もある。