第三の災害 指導力の欠如の遠因と根源

 東日本大震災福島原発災害に続いて、いま我が国は「指導力の欠如」という3つめの災害に襲われている。個々の問題の処理や発言に対する疑問をあげればきりがない。役割分担はなされず、会議と政府委員の数だけが増えている。しかし眼を内に向けているばかりにはいかない。日本では梅雨が例年より早く始まったが、中国では水不足が続き、長江の水位低下が著しい。小麦をはじめとする食料価格、エネルギー価格の行方が気になる。内部の矛盾が大きければ大きいほど外に問題を求める誘惑が高まる。尖閣諸島北方四島竹島での動きが気になる。
 惨憺たる状況の中、多くの国から多くの支援を受けたことは決して忘れまい。被災地の人々の秩序ある行動とともに、天皇陛下のお言葉、両陛下のご訪問と祈りのお姿には、心底、頭が下がった。自衛隊、消防の活躍にも涙が出た。また米軍の機敏な行動とさりげない心遣いに舌を巻いた。台湾の人々の手厚い支援に感謝するとともに、99年の台湾大地震のときの李登輝総統閣下の指導力を思った。サミットで我が国の首相が、突然、太陽光発電比率20%と言い出したのには驚いた。本当にそれで日本の産業が成立するのだろうか。個人的には、戦場整理一つできない内閣が思いつきで日本の将来を決めるべきではないと考えている。政権運営のあまりの拙劣さに与党内が動揺し始めた。幹事長、国対委員長が揃って国会解散に言及し造反議員を除名すると言い出した。造反議員の方々には造反有理の4文字を進呈したい。
 個人の資質の問題を超えて、こうした指導力の欠如の遠因と根源はどこにあるのか。よく言われるように経験の問題ではないと思う。明治維新の志士達の知恵と想像力がどこで途切れたのだろうか。これまで、1920年代以降の植民地の状況と国際関係についての知識が不十分なことが、現在の国際社会を理解する上での弱点となっているという思いを何度か感じたことがあった。いま、西尾幹二先生の「GHQ焚書図書開封」(4巻、徳間書店、2008-2010年)を読み、その部分の欠落に少し光があたってきたのを感じる。以下に各巻の目次を紹介し、まだ読まれていない諸賢にぜひ一読をお勧めしたい。
 第一巻 1.GHQ焚書図書とは何か 2.占領直後の日本の人の平静さの底にあった不服従 3.一兵士の体験した南京陥落 4.太平洋大海戦は無謀ではなかった 5.正面の敵はじつはイギリスだった 6.アジアの南半球に見る人種戦争の原型 7.オーストリアホロコースト 8.南太平洋の陣取り合戦 9.シンガポール陥落までの戦場風景 10.アメリカ人の語った真珠湾空襲の朝 
 第二巻 1.従軍作家が見たフィリピン戦場最前線 2.「バターン死の行進」直前の状況証言 3.オランダのインドネシア侵略史① 4.オランダのインドネシア侵略史② 5.日本軍仏印進駐の実際の情景 6.日本軍仏印進駐下の狡猾惰弱なフランス人 7.人権国家フランスの無慈悲なる人権侵害 8.アジア侵略の全体像① 9.アジア侵略の全体像② 10.太平洋侵略史という6冊本シリーズ 11.大川周明「米英東亜侵略史」を読む 12.「米本土空襲」という本
 第三巻 1.戦場が日常であったあの時代 2.戦場の生死と「銃後」の心 3.空の少年兵と母 4.開戦直後に真珠湾のそばをすりぬけ帰国した日本商船 5.中国兵が語った「日中戦争」最前線 6.匪賊になって生き延びた中国逃亡兵 7.忘れられている日本軍部隊内の「人情」8.菊池寛の消された名著「大衆明治史」(一)9.菊池寛の消された名著「大衆明治史」(二)10.「侵略」や「侵略戦争」の語はいつ誰によって使われだしたか 溝口郁夫
 第四巻 1.「皇室と日本精神」(辻善之助)の現代性 2.「国体の本義」(山田孝雄)の哲学性 3.部数173万部「国体の本義」(文部省編)の光と影 4.国家主義者・田中智学の空想的側面 5.「国体真義」(白鳥庫吉)の見識の高さ 6.130万部のベストセラー「大義」(杉本五郎中佐)にみる真摯な人間像 7.戦後「大義の末」を書いた城山三郎は、夕暮れのキャンパスで「国体」を見た 8.太宰治が戦後あえて書いた「天皇陛下万歳」をGHQは検閲であらためて消した