時論 11年2月

 チュニジアジャスミン革命が飛び火し、対外的には中東和平の要といわれたエジプトのムバラク政権が退陣した。北アフリカ、中東の長期政権は一様に警戒をはじめた。イランでは当初反米革命として歓迎したが自国のデモが自由化を求めると弾圧に転じ、死傷者が出たようだ。中国は、国内での厳格な報道規制を敷き、ソーシャル・メディアの監視を強めているという。
1.中国の水不足と食糧難
 1月はオーストラリアの洪水の被害がひどかった。2月になって日本でも記録的な大雪が続いている。しかし最大の気がかりは、あまり報じられることがない世界的な穀倉地帯である中国の華北での記録的な水不足だ。小麦と家畜が影響を受けている。はっきりした数字はわからない。09年の春から既に干ばつが始まっていたとされるが、いつもどこからか食料が調達されていた。それでも穀物の国際相場は一定幅で上下動し大きな動きを示してなかった。しかし昨年の7月からは、小麦、トウモロコシ、大豆の国際価格は一本調子の上昇を続けている。もし中国が本格的に小麦の調達を始めれば世界は大きな影響を受ける。深刻なことは、中国の雲南、貴州など比較的水が豊富だといわれていた西南部地域でも水が不足していることだ。食料価格の高騰は貨幣要因だけではない。
 中国で新たな水源として期待されているのがチベットだという。チベットにダムを造り、水を華北に持って来れば、もともと、その川の下流にあったインドやメコン川流域の国々との争いが避けられない。アジアにおける気候変動の監視と水資源の管理、さらには世界の穀物生産の動向に、留意すべき時期となっていると思われる。
 日本でも中国マネーが、日本の森林や水資源の獲得に動いているといわれるが、不安定な中国からの資産ヘッジの意味があるのかもしれない。水不足、食料不足に加えて6700万戸ともいわれる投資用不動産の不動産バブルの崩壊も予想され始めた。中国経済の先行きに警戒感が出てきたと考える。
 一般論として、どの国においても、国内に問題があれば、外に敵を求めがちであり、そうした意味でも「尖閣は危ない」と考えざるを得ない。尖閣諸島事件の後でも、海外援助と融資を続け、軍事的抵抗もしそうにない日本の周辺部に対する侵略の軍事的なリスクはかなり低い。ロシアも極東軍事力の増強を始めた。中国軍とも連携してはいるだろうが、日本をにらんだものというより極東アジアの政治情勢の液状化に備えた措置だとも考えられる。
 昨年来、本年6月半ばに、中国政府の意向を汲んだ華僑が多数の中国漁船をチャーターして尖閣に押し寄せ、上陸占領する計画が練られていると報じられている。厄介なことは、中国は国外に住む自国民保護のために軍隊を動かすことをためらわないことだ。
2.韓半島
 北朝鮮においても口蹄疫が広がっているとの報道があり、核兵器を管理している部隊でさえ食糧難から反乱を起こしたという情報が流れている。北の食糧事情が悪化していることは容易に想像がつく。昨年秋より北の対日工作部隊が、食料を求めて動き始めている節が見受けられる。拉致被害者のご家族の心痛はいかばかりかと、しばし瞑目する。韓半島において、どのような事態が起ころうと、拉致被害者の奪還と在留邦人の救出を確実にする方策を最優先に考える国家の一員でありたいと願う。
 ただ世界の関心はその先に行っている。1月のダボスでは、北朝鮮後の統一朝鮮に核兵器保有を認めるという中国の考え方に、川口元外相が反論したと小さく報じられた。朝鮮の将来は朝鮮の人が決めればよいことであるが、産経の世論調査にもあるように、結論はいずれにせよ、日本でも核戦略を論ずべき時期に来ている。
3.日本政治の状況
 税と社会保障の一体になった消費税増税とTPP第三の開国が菅政権のセールストークであるが、支持率が20%前後となり民主党内でも退陣論が公然と唱えられ、後継首相候補が論じられ始めた。既に政権は手詰まりであり、いつ退陣してもおかしくない状況に入ったと考える。統一地方選挙前に与野党の妥協が難しいとすれば、とりあえず5-6月末までの暫定予算が組まれる可能性がある。
 4月10日は、13都道府県知事選挙、5政令指定都市市長選挙、44都道府県会議員選挙、17政令指定都市の市会議員選挙、24日は、東京特別区区長選挙と一般の市町村長選挙がある。民主党子ども手当をはじめとする内政上の政策の矛盾は、地方自治体の目から見れば一層拡大するため、普通に考えれば、民主党の敗北、自民党の復調、みんなの党と地方政党の躍進という結果になりそうだ。
 これから1か月の世の中の最大の関心事は、東京都知事に誰がなるかということになるのかもしれないが、個人的には、大阪「都政」を唱える橋本知事の地方政党の勝敗に最も関心がある。今後の日本に大きな影響を与えると思われる制度改革の進捗がかかっているからだ。
 都知事には、飲食店チェーンの経営者や地方の知事経験者が名乗りを上げ、民主党の看板女性大臣が出るともいわれるが、舛添さんが都知事選に出馬し当選する場合を除いて、周りの府県に対して石原都知事のような影響力を持ちえるとは思えない。現在のところ、依然として石原都知事が最大の有力候補だと思われる。