マキアヴェッリの忠告

 思わぬ本の中にマキアヴェッリの名前を見つけたこともあって、塩野七生さんが訳された彼の語録(新潮文庫)を読んでいる。彼は1469年に大激動期のフィレンツェに生まれた外交官だった。「政治は宗教と道徳から離して考えるべき」という現実主義的な政治論を唱えた人なので気難しい人だと思っていたら、「陽気で、お喋りで、飲む・打つ・買うが大好きな、めげない男」だったと何かに書いてあったので興味を持った。塩野さんによると、フィレンツェ共和国の歴史は、ダンテとその時代が興隆期で、コシモ・デ・メディチを中心に最盛期、そしてマキアヴェッリの生涯を書けば衰退期が書けるという。この時期、イタリアを舞台にスペインとフランスが戦った。これから米国と中国の狭間で、わが国には運命の女神「フォルトゥーナ」をひきつけるだけの器量「ヴィルトゥ」を持った指導者が現れるのだろうかと考えざるを得なかった。
 「運命が何を考えているかは誰にもわからない。どういう時に顔を出すかもわからないのだから、運命が微笑むのは誰にも期待できることである。それ故に、いかに逆境に陥ろうとも、希望は捨ててはならない。」(政略論)
 「全ての国家にとっては、領国を侵略できると思う者が敵であると同時に、それを防衛できると思わない者も敵なのである。君主国であろうと共和国であろうと、どこの国が今まで防衛を他人に任せたままで、自国の安全が保たれると思っただろうか。」(若干の序論と考慮すべき事情を述べながらの資金援助についての提言)
 「弱体な国家は常に優柔不断である。そして決断に手間どることは、常に有害である。決断力に欠ける人々が、いかに真面目に協議しようとも、そこからでてくる結論は常にあいまいで、それゆえ常に役立たないものである」(政略論)
 「次の二つのことは絶対に軽視してはならない。第一は、忍耐と寛容をもってすれば人間の敵意といえども溶解できるなどと思ってはならない。第二は、報酬と援助を与えれば、敵対関係すら好転させうると思ってはいけない。」(政略論)