万博後の中国経済に異変はあるか

 残っていたフジタの社員1名が解放され日本に帰ってきた。中国は国際交渉で揉めると、中国国内にいる誰かを拘束することが続いている。豪州の資源会社、フランスの重工会社ともそんな事件があった。かつて台湾の企業の社長のご家族にそんなことがあったと聞く。また日本の政治家も何人か甘い罠にかけられたとの噂がある。中国国内では何があっても不思議ではないのだろう。菅首相や仙谷官房長官らが、「独自の中国ルート」を使い中国側に働きかけたという。おかしな話だ。外務省・大使館をはずした二重外交を官邸がやっている。首相は「いろんなことが元通りに戻っていく」というが、そうはならないと考える。
 「零八憲章」で有名な中国の民主活動家、劉暁波氏さんがノーベル平和賞を受賞した。「平和賞は1989年の天安門事件の犠牲者にささげられた」と語ったという。たまたま石平さんの天安門20年を扱った「中国大逆流」(09年KKベストセラーズ)を読んでいたので、その意味が少しわかった。哀しい話が多いが、石さんの詩人のように繊細な感覚と骨太な思考の論理に魅了された。
 以下、最近の報道を交えながら、石さんの論理を私流に要約する。天安門民主化運動で打ち出されたのは、「民主化要求」、「腐敗反対」の2つだった。それは根っこでは絶対的な独裁権力の打破を意味した。89年6月末までに2000名が逮捕され8名が処刑された。中国共産党は、人民のための人民の政権という正当性を主張できなくなった。91年1月から2月、訒小平が動き出す。「南巡講話」で社会主義国家である中国における市場経済への全面的以降に大号令をかけ、経済成長と繁栄を共産党独裁の正当性の根拠をしようとした。しかし「反腐敗」には一言も言及しなかった。結果として腐敗、売官は横行し貧富の格差も拡大した。共産党は、既に労働者と一般民衆の支持を失っている。設備投資、インフラ投資、輸出の拡大のみを重視し、従来は国家が保障していた公的医療などの福祉制度は悉く廃止されているようだ。都市部と農村部を含めた国民の65%以上は一切の健康保険に入っていないという。輸出の主力製品は低付加価値であり、低賃金政策ゆえに慢性的に内需が不足している。国民所得に占める個人消費の比率は、08年の段階で37%だという。08年の秋に政府は4兆元(50-60兆円)の景気刺激策を打ち出した。日本経済と規模がほぼ同じ経済規模なので、その大きさが理解できる。
 現在、米国とヨーロッパは中国への輸出に経済回復の期待をつないでいるが、どうも中国経済の実態を理解してないのではないか。都市部におけるマンション価格の高騰や空き室の状況は、聞けば聞くほど、破裂前のバブル期とそっくりだ。日本で中国は基本的な需要が一巡してないので経済成長の余地があると言われている状況とはかなり違うのではないだろうか。人民元安と労働条件の切下げによってソーシャルダンピングを行なって外貨を稼ぎ失業を輸出している姿が想像される。中国専門家のなかには、国民所得の50%の大きさの地下経済があるという人もいるので、統計だけでは測れない。
 再び石氏によれば、既に09年の段階で、中国の有力若手経済学者が「中国の高度成長期間は既に終了し、今後は長期の低成長になる」と公言しているという。現在の日本のような経済調整が起これば社会不安は一気に高まりそうだ。資本主義経済である以上、調整は不可避だ。
 訒小平の経済成長路線の弊害は、一般の民衆ばかりではなく党幹部の間でも、毛沢東人気を復活させてきている。次世代のリーダーとされる李国強も習近平毛沢東人気を気にしているという。現在の中国で、経済が低迷すれば、社会不安を拡大し、社会不安が経済の低迷に拍車をかけるといった事態が起こるのだろうか。今回の事件を通じて、チャイナ・リスクが顕わになり、外国企業の脱中国シフトはジワリと進展するだろう。社会の混乱がピークにきたら、共産党政権は外に危機をつくりだすのではないだろうか。それは台湾海峡東シナ海ではないかというのが、石さんの心配であり、自分の心配だ。尖閣諸島か台湾を奪うことができれば、国民の熱狂的な支持を受けるという。ビデオも公開できない日本政府であれば、攻めてくるのは容易い。中国経済の異変に十分留意しておいたほうがよさそうだ。