中国の軍事力と4隻の空母

1.問題の中心
 尖閣諸島事件に抗議する東京でのデモの参加者は2700名にのぼった。ごく普通の人々が中国というよりは日本政府に怒っている。巡視艇の傷跡を見れば、どのようにぶつけられたか想像できる。中国に着いた漁船には石垣島の時にはなかった穴があけられていた。レアアースの嫌がらせは続き、フジタの社員はまだ1人拘束されている。これは中国式の権力闘争の一環であり、人民軍の一部による示威あるいは挑発の可能性があるので、大人の対応をとるべきと説く人もいる。しかしトラブルの根本は、中国の領土拡張主義にある。人民元安、自然破壊とあわせて、ビル・エモット氏のいうように「世界の中心は問題の中心」なのかも知れない。
 アヘン戦争以来、列強に国土が蚕食された体験から「力がなければやられる」という考え方が根底にあるという。現在の軍拡は、90年代半ばの台湾の総統選挙の際の対米屈服と、湾岸戦争でみた米国の戦争技術への驚きが大きく影響していると考えられる。一党独裁の国の共産党の軍隊であり、経済成長力と国民からの批判を受けにくい仕組みが軍の巨大化を招いているとも考えられる。
 毛沢東は「核兵器を持たなければ侮られる。全人民が薄いスープをすすって生きても核兵器を」と主張したとされる。この①核弾頭と戦略ミサイル、②戦略核潜水艦、③宇宙偵察警戒衛星の3点セットの威力効果は強力である。日本では、日米安保があっても、その3点セット故に、中国に毅然たる態度がとれないという人もいる。 中国は1964年に核実験を成功させ、45回の実験を行ない、80年代には大陸間弾道弾と原子力潜水艦搭載の弾道ミサイルをもった。現在は、米東海岸を射程内に収める射程1万キロのミサイル、アジアの国々を射程に収める射程3000キロのミサイル、さらには巡航ミサイルをもっている。また現在、米国空母の嫌がる対艦弾道ミサイルを開発しているとされる。
2.4隻の空母
 その中国が、これから15年間に4隻の空母を就役させる。公表されている資料文献を参考に、その意味を考えてみた。中国海軍は、その国力の充実とともに、遠洋海軍を指向している。陸戦隊1万人を含む27万人の兵員と、北海(黄海渤海湾方面)、東海(東シナ海方面)、南海(南シナ海方面)の3つの艦隊をもっている。艦艇総量は米ロに次ぐ世界第3位の海軍である。
 まず第一弾として2012年にはロシアの空母「ワリヤーグ」6万トンが大連で改修され、北海艦隊の潜水艦部隊の主力基地、遼寧省葫蘆島(ころとう、北京と瀋陽を結ぶ交通上の要地)に配備される。訓練艦といっても空母である。渤海湾黄海、さらには東シナ海を見据えた投入だと考えられる。これが投入されれば、韓国、日本、台湾への軍事的な圧力が増す。尖閣諸島東シナ海の南側の中央に位置し、仮に、そこを抑えれば、台湾の北と東、さらには沖縄の西を抑えることになる。
 第二段の国産空母一番艦は、通常動力4万トンの中型空母で上海で建造されている。2014年9月末に海南島三亜を母港とし、南シナ海を担当する。三亜には空母用の大型埠頭と潜水艦部隊を格納する地下岩盤をくり抜いた施設がある。そこから空母を南シナ海の南側にある南沙諸島周辺に移動させれば、南シナ海全域が中国の圧力をまともに受けることとなる。これにより彼らの言う第一列島線の内側は中国の制海としたいのかもしれない。
 そして第三段階として、国産二番艦6万トンの原子力空母が2021年6月末、国産三番艦4万トンが2024年9月末に投入される。原子力空母は、その航続性からインド洋、西太平洋の押さえと考えられ、4隻目の国産三番艦は東シナ海を中心に、台湾、沖縄の押さえとする体制が完成すると考えても良いかもしれない。この段階で彼らの言う第二列島線の内側を自分たちの勢力下に置く事を計画しているのかもしれない。
 空母に乗せられる艦載機としては現在、スホイ33をベースに国産化を進めているようだ。国産エンジン開発にも目処をつけたとされる。技術開発は、上海を中心に、武漢はレーダーや航空管制システム、大連は船舶用大型ガスタービンエンジン、杭州は低圧配電盤と電子機器、成都ではカタパルトの試作が行われているという。米国空母はフル装備で数十トンの航空機を蒸気圧のカタパルトで文字通り大空に打ち出すが、中国の空母はスキージャンプ式飛行甲板を使う。そのため艦載機の装備重量と離陸の際の空母の操船に制約がある。
3.制海の行方  南シナ海東シナ海、そして西太平洋
 古来、海軍は制海の争奪を競ってきた。制海とは、自国が自由に使用するために海洋を支配し、敵に自由使用を許さないことで、通常は、その周りの沿岸地域と海洋上空の支配を含み、資源のある海域を自国の管制下おくことである。今日において、制海の獲得は強力な海軍をもってしても難しいとされているが、制海の拒否は、それに較べれば容易であり、航空機と潜水艦を如何に使うかにかかっていると考えられる。
 制海を争うとき最も重視される水上艦は航空母艦である。中でも最強とされるのは米国の航空母艦である。敵国水上艦は、その大砲の射程まで空母に接近することはまず不可能であり、対艦ミサイルを打とうにも艦載機や護衛兵力である洋上哨戒機、巡洋艦護衛艦フリゲート艦に捕捉され撃破されることとなる。航空機で空母を攻撃することも、実際には容易ではない。接近して爆弾を落とすことはできないので、遠距離から対艦ミサイルを打つしかない。しかしミサイル発射前に早期警戒機に捕捉され戦闘哨戒中の艦載戦闘機に迎撃されることになるだろう。そこでソ連が考えたのが、多数の航空機から多数のミサイルを同時に異なる方向から打つという戦術だ。それを防御できるように開発されたのがイージス艦だ。しかしイージス艦といえどもカバーできるのは空中の目標であり、水中の目標捕捉は普通の船より少しましという程度である。
 従って空母に密かに接近し攻撃できるのは、水中の潜水艦のみだと現在では考えられているようだ。ただ例えば、自衛隊の通常型潜水艦は最大20ノットのスピードも出るものの、その速度では、すぐに電池が切れてしまう。20ノット以上の速度で航海できる空母には追いつけないため、通常潜水艦の戦い方の基本は進路を予測し待ち伏せすることにある。原子力潜水艦は空母より速く動け、航続力は無限なので追いかけることもできる。しかし通常型に比べ、音が大きく探知される危険性が高くなってしまう。
 米国空母が動くときは空母を中心に半径19㌔、190㌔、460㌔のゾーン毎に、空中、水上、水中での防御態勢が取られるという。必要ならばその外側にさらに警戒ラインを広げることもあるため、日本海東シナ海では、狭過ぎて十分な防御態勢を取れないとも言われている。
 旧ソ連の極東海軍は、太平洋の制海ではなく、米国や日本などの海洋国家の海洋自由使用の妨害、すなわち制海の拒否を海軍戦略の基本においていたと考えられる。その一方で自らの軍事使用目的のためにオホーツク海日本海北部においては制海を目指していた。それを妨害するために、米国の攻撃型原子力潜水艦が活動していたと考えられる。北方領土4島は、このオホーツク海の南側を取り囲む島の一部であることも返還を難しくしている原因の一つだと考えられる。軍事使用目的としては戦略核搭載原子力潜水艦の配置や陸上にある極東ソ連軍の安全確保が考えられよう。
 もしかしたら、中国は南シナ海旧ソ連にとってのオホーツク海のようにしたいのではないだろうか。そうであるならば、重要なことは空母以上に戦略原潜や攻撃型原潜の南シナ海への配置なのかも知れない。各国の海軍基地の前には、中国の攻撃型原潜が潜んでいるのかもしれない。南シナ海の制海を中国に取られることは、東南アジアの国々と日本、韓国、米国の貿易が制限されるだけでなく、中東からのエネルギー輸送がとめられることになる。もちろん中国にとってもその事情は同じだ。それを恐れるアジア各国は、潜水艦隊を増強をはじめた。しかし潜水艦もその母港では航空機やミサイルによって守られている。2015年以降、南シナ海の南側に中国の空母が出てくるとすれば、全体としての軍事力とプレゼンスにより、中国の発言力はぐっと増すと考えられる。
 そうした事態を想定したとき、与那国島石垣島尖閣諸島、沖縄の防衛だけでなく、東南アジア、インドにかけてのシーレーンをどのように守るのか、自分達でできることを行った上で、米国と深く話し合うことが必要かもしれない。