領土保全 もう一つのINTEGRITY

 民主党代表選は終盤にきて現首相の優勢が伝えられているが、その行方は定かでない。この選挙に関する報道で最も強烈だったのは、テレビカメラの前で民主党の新人代議士が「(小沢氏が勝つことは)裸の王様に、魔法の杖を渡すようなもの」と何気なく言ったことである。確実なことは、今まで民主党に存在した緩やかな政治グループは解消し派閥に変質することだ。
 こうした民主党の選挙が行われているさなか、にわかに東シナ海が荒れてきた。尖閣諸島で巡視船に体当たりした中国漁船の船長は逮捕され石垣島で取調べを受けている。専門家は彼らが本当の漁民であるかどうかはわからないという。中国は漁業監視船という退役軍艦を近海に回し威圧を始めた。日本の中国大使は何度か外交当局から呼びつけられ、直ちに漁船と船員を釈放するように要求された。中国の要求する「政治的決断」とは軍事的圧力を背景にした相手側の譲歩のことを言うらしい。しかし譲歩すれば、そこからまた議論を進めてくるのが彼らのやり方である。今月予定されていた日中の排他的経済水域境界線近辺の海底ガス田の出資交渉が延期された。時を前後して、米国国防長官が防衛大臣官房長官に宛てた親書がリークされた。海兵隊の移転とグアムのインフラ整備資金負担に絡んだものだ。米国の要求自体はこれまでも報じられてきたものだが、外交文書のコピーがテレビで放映されたのは珍しい。これは日米を離間させたいグループが政権内にいることを示唆している。反米感情を煽動しようとしたと考えられる。しかし国民は、米国も米国だが、迷走する首相と政権を持つと高くつくと率直に感じている。折から延期されてきた防衛白書が公表された。中国の軍事力増強への懸念が表明され、沖縄海兵隊の抑止力の重要性が強調されているようだ。そしてそうした傾向は事実であることを中国漁船と中国のマスコミも含めた中国政府の態度が証明している。民主党の両代表候補は当然ながら「尖閣諸島は日本の領土である」ことを改めて表明し、首相は自衛隊配備の可能性を述べた。年初に今年のキーワードはINTEGRITYだと考え「言動が一致して誠実であること」が大事だと考えてきたが、ここにきて、もう一つのINTEGRITY、すなわち「領土保全(TERRITORIAL INTEGRITY〉」が問題になってきた。
 日本には現在2つの領土問題がある。それは北方領土竹島の問題である。そして尖閣諸島には解決すべき領有権問題はないというのが日本政府の見解である。自分は中学高校を卒業してだいぶ経つが、こうした領土に対する日本の見解をもっとはっきり教科書に書くべきと思う。
 北方領土は、ロシアに占領されている。ロシアはヤルタ協定に基づいて南樺太と千島列島の全てを取得する権利があり、日本のいう北方領土は千島列島に含まれるというのが、ロシアのかつての主張だ。しかし日本はヤルタ協定の当事国ではないので、その協定に拘束される必要がない。またロシア自体、日本との間で、法律的な国境画定ができていないことを認めている。平和条約が結ばれていないからだ。北方領土は4島からなり、国後、択捉、歯舞諸島、色丹を合わせると、ほぼ千葉県と同じ面積がある。
 竹島は2つの小島とその周辺の数十の岩礁からなり、歴史的にも国際法上も日本の領土だが、韓国が自国の領土と主張し韓国の警備隊員を常駐させている。そして日本は繰り返しこれに異議を唱えている。
 今回問題となった尖閣諸島について、日本政府は解決すべき領有権問題は存在しないと考えている。歴史的事実として、日本政府は1885年から再三調査し清国政府の支配が及んでいないことを確認したうえで、1895年1月に日本領土に編入している。日清戦争の後の下関条約は1895年5月に結ばれたが、尖閣諸島は、その条約で割譲された台湾に含まれていない。1940年までは日本人が住んでいたが、以後無人島となっている。戦後沖縄とともに米国施政権下にあったとき、中国、台湾はなんら異議を唱えてこなかった。しかし付近に海底油田、ガス田の存在が確認された1970年頃から、突如、自分たちのものだとの主張を始めた。尖閣諸島沖縄返還と同時に日本の施政権下となり、現在、日本が実効支配を続けている。
 軍事力は相対的なものであり、周辺諸国の能力や戦略環境の変化に応じて、自らの軍事力を戦略環境に変化させていかなければならない。日米安保条約第五条に基づく米軍の日本防衛は、日本の施政権が及んでいる地域に限定されていることに留意する必要がある。陸上作戦については共同で行われるが、海・空作戦においては支援するとなっている。日本の領土は当然ながら、自衛隊によって自らが守るしかない。条約上、北方領土竹島の奪還に、米軍の協力は期待できない。また仮に中国の直接、間接の軍事力の使用によって日本の施政権が既成事実として失われれば、日米安保条約の適用範囲外となる。今月、出資比率等の打ち合わせをする予定だった日本の排他的経済水域ギリギリに開発された「春暁ガス田」について言えば、同じように日本が日本側海域において海洋開発を行えば、中国海軍は妨害してくると容易に予想される。また沖縄の米軍基地反対運動や、石垣島の空港拡張反対運動を、ひそかに中国が支援していると言われていることに加え、近年、当該地域に住む中国人が増えている。こうした現実を前に、我々は自らの手によって日本の領土を守らなければならない。それは日米安保条約以前の問題であり、簡単に侵略されないよう備えることが平和を創造するための基礎だと思えてならない。