政治ノート 米百俵を何に使うか 

 「国会は会期を延長し衆参同日選挙となる」との個人的な予測は外れた。会期延長は考えなかったようだが、6月14日頃までは乾坤一擲の同日選挙が検討されたと事情通が報じているので、それほど的外れでもなかったようだ。政府は、鳩山、小沢退陣を機に「親米、増税、官僚活用」へと振り子が大きく振れたようだ。1年前の民主党の主張と様変わりだ。中国大使に、伊藤忠出身の丹羽さんが決まった。民主党政権を「成り権」と喝破した洞察力と、それを公言しながら嫌われない人柄に期待したい。各省横並びの事務次官会議の廃止、事業仕訳のシナリオづくりによって、霞が関財務省覇権は名実ともに完成したと言われる。新内閣において、7月の選挙を増税議論容認選挙とし、秋以降は増税議論の期間とする財務省シナリオが公認されたのかもしれない。そうだとすれば、それは未だ明らかではない何らかの合意があるような気がする。
 現在の財政赤字を考えれば増税の議論は不可避であり、税改正についての専門家の意見には概ねコンセンサスがある。
 まず現在国・地方合わせて世界最高の40%近くとなっている法人税の実効税率を先進国並みの25-30%水準とすることである。企業の国際競争力を強化するために、法人税の実効税率をその平均で12.5%引下げることは好不況にもよるがGNP比1.5%程度に相当し、それを国の法人税でこなせば税率半減ということになる。それは雇用の確保・創出という点からも正当化されるだろう。
 消費税は自民党民主党の相乗りで当面10%に引き上げることになりそうだが、最終的には、やはり15%なり20%に引き上げられなければならない。そのあり方は社会保障のあり方と密接に結びついている。ただ何時から上げるか、その税収を何に使うかについては、未だ民主党内部でも一定の考えがないようだ。食料品等の必需品も消費税率10%位までは差をつける必要ないと考えるが、社会保険番号を納税者番号とすることによって、税の還付も可能になることを政府は強調している。しかし本来、納税者番号制度の効用は、そんな所ではなく、所得の捕捉が一段と強化出来る点にある。またその番号を基本とした新しい健康管理制度も可能になることである。所得税の累進性も最終的には若干強化されるだろう。ただそれは課税最低限の引き下げとセットなるはずだ。
 相続税の議論は最も意見が分かれるところだろう。日本の資産を高齢者が多く持っているということを考えると、それを軽減して裕福な人に日本に住み続けてもらうことも重要だ。最近海外に本拠を移す資産家が多いという。相続税がほとんどゼロのところがあることを考えれば、日本だけのやり方は通らなくなりそうだ。ただ相続税についての考え方で合意を形成するのは難しい。
 こうした議論を超党派の協議会でやることは大きな利点がある。意見が同じ政党で部分連合を組むこともできる。しかし税の議論が難しいのは、どのように税収をとるかではなくて、それをどう使うかという議論である。この面での与野党の合意は一層難しい。
 そこで問題となるのは、将来この国をどのようにしたいのか、どのような国になるのかというビジョンである。そして経済をどのように成長させるのかについての意見である。4%成長させるためには、どうするかという議論から始めなくてはならない。福祉や介護の仕事で雇用を増やすことは必要だろう。しかしそうした産業の費用を賄うためには、福祉介護サービスの質を向上しながら生産性を上げること、それ以外の産業が一層成長することが必要である。低賃金労働と競争しない世界、すなわち、新しいビジネスモデルの創造や、デザイン、技術の開発、マーケティングに優れた国にしなければならない。既に外資系のアジア本部の9割が、香港、シンガポールに拠点を移したと言われている。それには、法人税の実効税率15%の差もあるが、人材の集めやすさが違うとの意見もある。国際的に活躍できる人材の育成といった教育分野のテコ入れが必要だろう。かつて小泉首相米百俵の精神を説かれたことがあった。生活が苦しくても、これからの米百俵は、教育は教育でも、世界と競争するための高等教育に充てるべきだと思えてならない。