政治ノート 衣替え内閣と白紙委任状

 5月末、社民党が連立を離れたことにより、個々の選挙区での社民党の票の上乗せを期待していた民主党参議院の改選議員より首相退陣論が出て、6月2日午前に首相と幹事長が辞任した。次の週になれば優位を占める参議院でも、沖縄選出議員団の造反があれば問責決議案が可決される可能性があったという。「資質がなかった」と新聞に書かれる首相も珍しい。中2日置いて管直人氏が後継首相に昇格した。ご祝儀相場もあって民主党の支持率は自民党を再び上廻った。しかし、この政権はこれから数カ月続く政治変動の表紙が変わったことしか意味しないのではないだろうか。最終的には参議院選挙をはさんで9月の民主党代表選、更には新たな総選挙によって選出される衆議院議員によって首相が信任されるまでの間、混乱が続きそうだ。
 新首相のフリーハンドはとりあえず参議院選挙が行われるまでだと考える。つまりその日程を決めるこれから1週間が焦点となる。前幹事長が決めた日程通り行うか否かがポイントだ。既に党と内閣の人事を週明けに持ち越した。個人的には、国会会期を延長し解散権を行使し衆参同日選挙にするか否かが次のポイントだと思う。変な話だが「本来の民主党らしさを取り戻すためにもう一度、民主党に力をください」と主張し、民主党の一部を攻撃する選挙をやるという選択だ。この時期をはずせば、首相は自らの手で衆議院を解散できないとみる。
 逆に国民として考えれば、7月の選挙で民主党を支持することは、白紙委任状を渡すことに他ならない。マニフェストにはなくとも、政権の要人が、我が国と領土問題を抱える外国の要人に外国人地方参政権等の成立を約束をする変な政党である。テレビでは反対だといっていても、党内では全く主張できない政治家が数多くいる集団である。違った意見を表明できない集団は危ないが、新しい民主党執行部は、「そうしたことに決着をつけるためにもう一度支持してくれ」と言い張るだろう。しかし推進派も同じことを自分の支持者に訴えている。いつ何時どちらが出てくるかは国民には分からないし、どの政策が採られるかはルーレットゲームのようだ。沖縄も徳之島も宮崎も気まぐれと無責任さに翻弄された。二大政党制論者からすれば再編が必要な政党である。今回の政変も、1週間前まで党内議論がない昔の社会主義国の政変のようだった。資質のない前首相を補佐できなかった新首相以下の内閣は、「普天間移設、政治とカネ」を片付けたわけではない。なんとなく模様替えした「衣替え」内閣にすぎない。上2つの問題、上2人の問題が注目されすぎて、3番目以降、3人目以降の問題が全く論じられなかった9カ月である。野党だったので経験と情報がなかったと言うが、長年国会議員をやっている人たちが言うべき言葉ではない。普天間決着の詳細も2006年末に市販されている本には載っている。この9カ月も選挙目的以外の政策の目的と効果が分析されず議論されなかった。経済の改革、財政の改革、社会保障の改革といっても特効薬があるわけではない。麻生内閣が始めた消費刺激策の効果も息切れしてきた。新首相自身が宣言したデフレは一向に克服されていない。口蹄疫の惨状は未だ多く報じられていないが、報じられれば民主党にマイナスだろう。
 私は7月の選挙で白紙委任状を渡すよりは、多くの国民が選択の自由と意思の表明ができる総選挙が早く実施されることを願っている。そのほうが健全な政策形成の契機となると信じるからだ。
 8月に工事のやり方を決めるという普天間問題は、沖縄県民の怒りをかったままだ。最近の米側の報道によれば、最終移転はグアムのインフラ不足を理由に3-5年後ろ倒しになるようだ。それに伴って一部を日本が負担する予算規模も更に一層大きなものとなりそうだ。早速、迷走座礁の請求書がきた。夏には昨年先送りにされた防衛大綱の前提となる国際環境認識が示され、秋には防衛大綱が決定される。前回の日本の防衛大綱が発表されると、中国では日本の防衛大綱はけしからんとなって反日運動が政府によって点火されその後、それが大きくなり過ぎることを恐れる政府によって鎮火された。中国は大国すぎて大きな鏡がないために自分の姿が見えない国なのだ。アジア各国も中国をおそれ軍備増強を図っている。韓国も外洋海軍をもったと報じられた数ヵ月後の惨事だった。普天間問題も選挙対策はあっても、国防政策がないことが根本原因だった。抑止力の概念を少し理解しただけの民主党、未だに選挙対策海外移転を叫ぶ議員のいる民主党に国防の統一見解を持つことが可能なのだろうか。次期主力戦闘機は何に決まるのだろうか。日本の経済水域の中で、中国の船に海上保安庁の船が追い払われたり、ヘリコプターから銃口を向けられても、日本の外務大臣は相手にされなかったが、何も感じなかったのだろうか。少し抗議する真似をした後で、観光ビザの制限を大幅に緩和するので遊びに来てくださいでは大きな誤解を与えるだろう。民主党の外交安全保障政策は問われなければならない。更に、ギリシアに端を発する通貨としてのユーロの問題は、中国経済に波及しているのではないかというのが現在の懸念である。ヨーロッパのカネ詰まりは対外運用資金の回収につながる。もとより中国経済自体がバブル経済の最終局面にあり引き締めなければならないタイミングであり、上海万博後の経済成長路線の行方が注目されている時期である。このところ労働争議の先鋭化と中国にある工場の対外移転を報じる記事が多くなってきた。情報統制がされているので、ハッキリとしたことはわかないが、中国経済社会の全体像を的確にとらえることが必要になっている。誰かが、「あらゆる問題は中国に発する」といっていたが至言である。自国の経済政策を考えるにあたっても中国要因を読み込まなければならない。
 思考実験として今一度、中国と鎖国してみるのも面白い。どうせマトモな情報がないのだから、日本国内で起きていることだけから中国を考えてみるという態度である。沖縄や、地方の視点から中国を考えると違った政策が生まれてくるかもしれない。昨日聞いた経済学者の話を講義されても困るが、一つの考え方しかできない議員、誰かの顔色をうかがってからでないと自分の意見が言えない議員ばかりでは、国がもたない。